2020.09.15 【関西エレ産業特集】 理化学研究所R-CCSスパコン「富岳」開発
理研R-CCSに設置された富岳(写真提供=理研)
1966年着工、81年にオープンし、「21世紀の海上都市」として世界的に注目を集めている神戸市中央区のポートアイランド。JR神戸線の三ノ宮駅に隣接する始発駅から自動運転の列車ポートライナーが運行され、今ではコンピュータや医療分野の「知の拠点」が集まっている。
スパコン「京」の後継機として登場したのが京の100倍の性能という「富岳」。理化学研究所(理研)と富士通が共同開発、ポートアイランドにある理研の計算科学研究センター(R-CCS)内に設置され、21年度の本格運用開始を待つ。
富岳は6月に開催されたISC(国際スーパーコンピューティング会議)で史上初の4冠を獲得、富岳の知名度が世界に広まった。富岳は新型コロナウイルス対策に優先的に利用され、その成果は国内外に広く公開される。
富岳の4冠達成や政府の富岳による新型コロナ対策での利用、神戸大学によるウイルス飛沫(ひまつ)の飛散経路のシミュレーションなどが盛んにメディアで紹介されるなど、これほどスパコンの話題が多く登場したことは過去になかった。
こうした折、8月27日にスパコン研究者などが集まるサイエンティフィック・システム研究会(SS研)が「富岳スペシャル-システムから応用-」をテーマにオンラインフォーラムを開催。R-CCSの松岡聡センター長が、富岳の誕生の経緯から将来の運用について講演した。
松岡氏は富岳誕生までの経緯を説明。京の運用開始以前の10年に京の後継機として検討が始まったと語った。京は12年9月運用開始、19年8月末停止となり、7年の稼働の歴史に幕を閉じた。開発開始から運用開始まで京に投じられた予算は約1150億円。
一方、富岳は官民合わせ約1300億円が投じられた。
富岳の製造は、石川県かほく市にある富士通ITプロダクツで19年3月スタート、5月に「ポスト京」の名称が「富岳」に決まり、同年12月3日にR-CCSへの搬入・設置が始まった。
翌年5月13日まで合計約400の筐体(ラック)が搬入された。合計で大型10トントラック72台分だった。
富岳を開発する際、まず「アプリケーション・ファースト」という考えを念頭に置いたと松岡氏。演算速度だけで世界一を競うのではなく、アプリケーション開発も重要とした。
松岡氏は、スパコンについて「作ってなんぼ、使ってなんぼの世界」と表現した。利用されて初めて意味があるということだ。
事実、富岳が重点的に取り組むべき課題として、タンパク質の動きの計算、ゲノム解析、地殻・都市の地震計算など九つの課題をアプリケーションの目標にしている。
よく富岳はすごいという評価が聞かれる。なにがすごいのか。松岡氏は英アーム製をコアにした、スマートフォンで使用されている汎用CPUが初めてスパコンに搭載されたことを指摘した。従来は米国製CPUがスパコンに採用されるのが当たり前になっていた。
アームの汎用コアを搭載して富士通がCPU「A64FX」として開発、この結果、京の100倍の高性能、同条件のインテルCPU搭載機の3倍以上の省電力、汎用化が可能なスパコンが完成した。
また、松岡氏は富岳のAI(人工知能)基盤を強化すればGAFAに対抗でき、さらに追い越すことも可能と述べた。
松岡氏は富岳について「理研だけではできない、富士通だけでもできない。国内のスパコン関係者による日本の英知を結集した体制があったからこそ富岳の誕生につながった」とオールジャパン体制を評価、国家プロジェクトだからこそ実現したという。
最後に、松岡氏はSociety5.0に対する富岳の取り組みについて「富岳クラウドサービス(FWS)」における複数のクラウドプロバイダとの連携や、「富岳AI」への研究開発、一定期間以上保存される観測データの格納・分析・学習などに利用・提供していくべきだと述べた。