2020.09.18 【ASEAN特集】ASEAN生産シフト継続技術支援など事業体制を強化・拡充
日本の電子部品業界は、ASEANでの事業活動を活発化させている。業界のグローバル化/ボーダーレス化が進む中で、電子部品企業にとり、ASEANは製造・販売・技術・物流・情報収集などあらゆる面で重要。近年は中間所得層の増大で市場としての魅力も増し、さらに、米中貿易摩擦激化を背景としたASEAN生産シフトの動きも継続している。直近のASEAN市場は新型コロナウイルス感染拡大の影響を強く受けているが、中長期の経済発展への期待は高い。電子部品各社は、今後もASEAN工場への投資継続と現地機能の拡張を進めることで、さらなるビジネス拡大を目指す。
日本の電子部品メーカー/商社は、グローバル事業拡大のための重要エリアにASEANを位置付け、同エリアでの事業体制を強化・拡充している。
日系電子部品メーカーのASEANでの工場進出エリアは、タイ、マレーシア、シンガポール、ベトナム、フィリピン、インドネシアなど多岐にわたる。営業拠点も、シンガポールやバンコクなどを中核に、ASEAN域内に展開されている。国内外の完成品企業やティア1などのASEAN開発体制強化の動きに対応し、部品各社の技術サポート体制やR&D機能構築の動きも進んでいる。
近年のASEANエレクトロニクス市場は、中国の人件費高騰への対応、さらに最近の米中摩擦での米政府による中国企業に対する規制強化などの様々なチャイナリスクを踏まえ、リスク回避の受け皿としての側面も含めて重要度が高まっている。
自動車業界などでは生産活動の地産地消ニーズが強まり、ASEAN生産体制の拡充に力が注がれている。半導体業界でも、旺盛な需要を背景にマレーシアをはじめとしたASEAN投資が活発。
米中摩擦関連では、米政府による対中高関税政策や中国企業との取引制限などの措置を回避するための第三国としてASEANの重要性が高まり、米系企業や日系企業、さらには中国系企業も含めたASEAN生産シフトの動きが表面化している。
直近のASEAN市場は20年の3月以降、新型コロナウイルス感染症拡大の影響を強く受けている。中でもマレーシアやフィリピンといった国では、3月から4月にかけて長期のロックダウンが実施され、ロックダウンの解除後も様々な行動制限や移動制限などが継続している。特にフィリピンでは今夏に、再度隔離措置が厳格化されるなど予断を許さない状況が続いている。
これらのコロナ影響により、ASEANでは企業活動停滞や消費低迷が続き、今年春から夏にかけては、域内での自動車販売および生産が大幅に落ち込んだ。近年の日系部品メーカーのASEAN展開では、売上高や生産高に占める車載関連の比率が高まっていただけに、現地進出の日系企業の業績にも大きな影響を与えている。
そうした中でも、ASEAN市場の中長期の成長に向けた期待は高く、コロナ禍が落ち着いた後のASEAN経済は、再び長期成長軌道への回帰が見込まれる。ASEAN加盟10カ国の総人口は6億人を超え、EUや北米を上回るとともに、高い人口成長率が続いている。経済成長に伴い、ASEAN各国での中間層の比率も上昇が続いており、世界の消費市場を支えるエリアとしても魅力が高まっている。
電子部品生産展開
日系電子部品メーカーのASEAN工場の進出場所は多岐にわたる。中でも早い時期から工場進出が進んだマレーシアやタイの生産拠点では、長年の事業活動を通じたノウハウの蓄積や優秀な人材の育成などにより、付加価値の高い生産活動が展開されている。
これらのASEAN中核国の工場では、自動化や省力化を通じた生産性の向上や、生産品目の高付加価値品シフト、現地調達率向上、部品加工からの一貫生産などが推し進められている。特に、自動車産業の集積化が進むタイでは、車載用に特化した工場体制構築などが進められている。生産規模の大きいタイの白物家電やエアコン市場に照準を合わせた電子部品の生産増強にも力が注がれる。
一方、ベトナムやフィリピンは、豊富な労働力やローコストオペレーションを強みに、従来の中国生産を代替する電子部品の輸出型工場として、生産能力増強への投資が活発。マレーシアやタイでの人件費上昇と若年層の人手不足が指摘されていることからも、多くの人手を必要とする製造工程では、これらの国の重要度が増している。
最近は、タイやマレーシアの工場をマザー工場とした、メコン地域新興国(ラオス、カンボジア、ミャンマー)へのサテライト工場展開の動きも進展。ASEAN工場をマザー工場としたインド生産展開なども進められている。
営業体制拡充
日系電子部品メーカーや電子部品商社のASEAN地区営業拠点は、シンガポールやタイを中核に様々なエリアに広がっている。特に近年は自動車産業が集積するタイでの営業体制拡充が進んでいるほか、マレーシアやベトナム、フィリピン、インドネシアといった国々の新たな営業拠点開設や既存営業拠点の人員増強、機能拡張などが進められている。
外資系完成品メーカーやEMSのASEANでの部品調達機能は、かつてのシンガポール一極集中から、近年は購買機能が様々な国に広がり、マレーシアやタイのほか、ベトナムやフィリピンなどでの現地調達ニーズも高まっている。部品各社は顧客ニーズに的確に対応するためのASEANでの営業体制や物流体制拡充を推進し、最適なソリューションの提供を目指す。
営業拠点へのFAE(フィールド・アプリケーション・エンジニア)やセールスエンジニアの配置強化やローカルエンジニア育成にも力が注がれ、顧客の近場で迅速なサポートを行う体制が構築されている。
技術体制拡充
日系部品メーカーや部品商社のASEAN技術体制拡充も進展している。現地工場での金型や治工具開発、自動機設計などに加え、製品設計機能の拡充も進み、現地で設計した電子部品を一気通貫で立ち上げ、ASEAN市場やグローバル市場に供給する企業もある。現地の設計リソースを活用し、部品単体に加えて基板アセンブリなどのODMを展開することで、新規ビジネス拡大が志向されている。
シンガポールなどに本格的なR&Dセンターを展開する部品企業もある。
エレクトロニクス商社のASEANでの技術体制拡充の動きも活発。従来の電子部品や制御部品販売に加え、現地でのニーズが強い工場自動化の支援のためのエンジニアリングビジネス強化に努める企業が増加している。
日系電子部品商社のASEANでのEMS事業も展開されている。各社は現地の協力工場などと連携し、技術商社としての強みを生かしながら、小ロット・多品種対応などを強みとするEMSを展開することで差別化を図っている。商社によっては、本格的な自社工場を現地に開設し、基板実装の内製化などに取り組むケースも見られる。
ASEAN諸国は総じて治安が良く、英語の普及率も高いなど、外資系企業がビジネスを進める上で多くのメリットがある。日系各社はグローバル事業拡大に向け、今後もASEANでの積極的なビジネスを展開する。