2020.11.11 【次世代放送技術をよむ NHK技研90周年企画】地上放送高度化方式㊦

 17年には、地上放送高度化方式の暫定的な仕様をまとめるとともに、方式の評価・実証に向けて変復調装置の試作を進めた。さらに、地デジの親局と同規模となる送信機出力1kWの実験試験局を設置し、18年11月から名古屋地区で、同年12月から東京地区にて野外実験を始めた。野外実験では、変調方式や誤り訂正の符号化率など様々な伝送パラメータについて測定を行い、地上放送高度化方式の伝送特性に問題がないことを実環境で検証している。

 また、地上波の伝送方式を地上放送高度化方式へ移行することによる影響の有無を明らかにするため、各測定地点における反射波の到来状況などを記録して室内実験で再現することで、地上放送高度化方式と地デジを性能比較し評価を進めた。移動受信の特性についても、走行実験を実施して伝送パラメータを検証し、実現可能な伝送容量の評価を進めている。

 さらに、名古屋地区においては中継局を併せて設置し、複数の送信局から同一周波数で送信するSFN環境を構築するとともに、各送信局に設置した変調器から、同一の変調波形の信号を設定したタイミングで送信できるよう、送信局間を結ぶ回線上に流す信号の伝送フォーマットについても開発を進め、その実現性を評価した。

 19年度から4カ年の計画で、総務省の周波数ひっ迫対策のための技術試験事務「放送用周波数を有効活用する技術方策に関する調査検討(新たな放送サービスの実現に向けた調査検討)」が開始され、地上放送高度化方式について伝送方式の妥当性・実現性を確認するとともに、技術基準の策定および制度整備等に資するデータの取得が進められている。

 以上、地上放送高度化方式の伝送方式を中心に開発動向を簡単に紹介したが、次世代の地上放送を実現するには、映像・音声の符号化、データ放送、放通連携、多重方式、セキュリティ、放送ネットワーク技術など様々な技術要素の開発が必要になる。今後、NHK技研では、様々なサービスを想定し、それらに柔軟に対応できるよう地上放送高度化方式の研究開発を進めていく。

 本研究の一部は、総務省の電波資源拡大のための研究開発「地上テレビジョン放送の高度化技術に関する研究開発」による委託研究として実施した。

(この項おわり)

〈執筆者=伝送システム研究部 岡野正寛上級研究員〉

(次回はオブジェクトベース音響システム㊤を11月25日掲載予定)