2020.11.13 【5Gがくる】<19>「ローカル5G」でないとできないこと ①
「本陣切込み」と言えば、川中島の合戦で武田信玄の本陣に切り込んだ上杉謙信や、大坂夏の陣で徳川家康の本陣に切り込んだ真田幸村が有名だが、その雄姿に胸踊らされるほどうまくいくとは限らない。
URLLCも本陣
以前から本欄で出てきているワイヤレス・ミッションクリティカルを実現するURLLCもまさに5Gの本陣だ。「URLLC」は、Ultra-Reliable and Low Latency Communicationsの頭文字を取った略語。「超高信頼・低遅延」と訳されることが多い。
ところが、Webサイトの記事の中には「高信頼・超低遅延」や「低遅延」とだけ書いているケースもある。意図は不明だが、URLLC本陣への切り込みは容易ではない、という声もちらほら耳にする。
それはなぜだろうか?
少し視点を変えよう。URLLCは無線区間における通信の技術要件であり、それがそのまま通信事業者のキャリア5Gサービスの水準としてユーザーへ提示されることはまずない。通常、ユーザーへ提示されるのは「SLA(サービス・レベル・アグリーメント=サービス品質保証)」と呼ばれるものだ。これは、通信事業者とユーザーの間で合意されたサービス水準で、簡単に言えば、事業者がユーザーに対し、どの程度まで品質を保証するかを数字で明示した上で結ぶ契約だ。
具体的なSLAの項目には、ネットワーク遅延やパケット損失率、稼働率、故障回復時間、中にはネットワーク帯域(速度)まで保証するものもある。仮に、サービス品質がSLAの保証値を下回った場合には、利用料金の減額などが行われる契約にしていることが多いため、事業者はSLA項目の選定と保証値の設定には神経を使う。
一般的には有線区間の固定ネットワークサービスに一律のSLAの項目と保証値が設定されている場合が多く、無線区間にはあまり適用されていない。
振り幅が大きく
なぜならユーザー側の電波環境とその変化によってサービス品質が大きく劣化する恐れがあるからだ。ユーザーが使うアプリケーションの種別によっても品質劣化がユーザーに与える影響度は著しく異なる。つまり、無線の場合は利用環境などによる振り幅が大きく一律のSLAでは対応できないということだ。
キャリア5Gでは「ネットワーク・スライシング」と呼ばれる機能を新たに追加して、超高速(eMBB)、超高信頼・低遅延(URLLC)、多数同時接続(mMTC)サービスごとに異なるSLAを提供するが、それぞれのSLAは一律になっている。
中でも一番難しいURLLCサービスは5G網が整備された後、25年ごろに始まると予想されているが、土地や建物の電波環境によっては利用できないユーザーもいるだろう。
その意味でも電波環境に左右されない独自のURLLCサービスの実現、いわば失敗しない本陣切込みは「ローカル5G」ということになりそうだ。(つづく)
〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問・国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉