2021.01.12 【メーカーズ ヒストリー】アキュフェーズ物語〈5〉営業と技術、兄弟が絶妙のコンビ
海外での評価も高い。写真は1976年の欧州出張
■弟が作り、兄が売るグローバルブランド
改めて振り返ると、春日仲一(営業)、春日二郎(技術)の兄弟が絶妙のコンビであったからこそ、日本ではなかなかブランドを確立できなかったハイエンド・オーディオメーカーを立ち上げ、小粒ながらも市場で存在感を示し、軌道に乗せるという理想を実現したといえる。「弟が精魂込めてつくり上げた質的に一級の完成品を、兄が安売りすることなく丁寧に売ってくれる店に卸す」というスタイルが破られる心配はなかった。
余談だが、販売ネットワークをつくり上げたその行動力を誰もが認める仲一氏は、なかなかの男ぶりで女性にも人気があった。立食パーティー形式による業界関連の祝い事などがあると、接待役のホステスたちに囲まれ華やかな雰囲気の中、にこやかに談笑している姿をよく見かけたものである。
いまやハイエンド・オーディオの質的リーダーを自任するアキュフェーズ・ブランドだが、国内ばかりでなく海外(特にドイツ)でも絶大なる信頼を得て売れ足を伸ばしており、ブランド認知度も高い。
■超健全経営を堅持
また、その超健全経営についてもよく知られているが、税務監査のたびに「全く面白みのない会社」と飽きられるほど、その頑固な経営方針も一貫して変わっていない。
では最終赤字が一度もなかったかといえば、そうではない。創業時は先行投資(新社屋の建設など)がかさむので当然として、それを除くと1990年代(91年から約3年間)のバブル崩壊、つまり株価の暴落や地価の下落、それに就職難(新規採用の抑制)などで日本全体が深刻な不況に見舞われた折には危機感を募らせる一幕もあった。
■売上げを追わず無借金
売上げスケールを追わない、株式を上場しない、社員数80人体制の維持、無借金経営の堅持などは創業時からの基本スタンスといえるが、現在のトップ2(齋藤重正会長、伊藤英晴社長)はそれを守り、ここ数年はさらにその傾向を強めているようだ。消費税率が8%に引き上げられた14年の時がそうで、当時高額商品は軒並み増税前の「駆け込み需要」が殺到する騒ぎとなったが、同社も在庫払底のモデルが続出し、その対応に追われた。
売上げが30億円近くまで膨らみ、適正水準(24億円前後)を大きく上回ったため、翌年から本来の姿に戻す計画に取り組むなど、背伸びする誘惑には乗らなかった。「究極の音創り」という理想追求に全社員の意志が統一されているので、迷いはない。
ところで、欧米各国で「都市封鎖」が相次ぐなど新型コロナウイルスが猛威(パンデミック)を振るっている今年は、同社にとっても「試練の年」になりそうだ。「前9月期(20年9月)の経営計画」達成が容易でないことは確かだ。