2021.02.02 【メーカーズ ヒストリー】アキュフェーズ物語〈8〉顧客創造と海外市場開拓

本社全景

■創業50周年を前に第2社屋が完成

 現本社所在地は、東急田園都市線の駅「たまプラーザ」と「あざみ野」とのほぼ中間にある。この横浜市青葉区に新社屋を建設した1973年(創業の翌年)当時は、周辺はそれこそ見渡す限り空地が広がり、やや高台に建てられた3階建ての瀟洒(しょうしゃ)な建物が屹立(きつりつ)している感じであった。

 その空地に今は高級住宅が立ち並び、整備された街区へと様変わりした。48年間、数々の銘機を開発してきた同本社隣接地に現在、創業50周年を前にして第2社屋を建設し、昨年4月5日に完成した。次のステップへと進む準備にも怠りない。

昨年4月5日に完成した新社屋

■海外売上げが伸長

 ここ数年、輸出比率が約40%に達しているのは海外売上げが伸びているからで、欧州地区や東南アジアの各代理店がアキュフェーズ・ブランド製品を主力として扱うようになってきたのが大きい。それに為替レートが安定していることも、「円建て」で輸出している同社にとっては幸いしている。

 ただ、国内70%、海外30%を基本とする方針は変えていない。蛇足だが、昨年は新型コロナウイルス禍の対策に忙殺されたため、欧米各国は経済が大打撃を受けており、市場環境は最悪。その影響は日本の企業各社にも及び、思わぬ下振れリスク(業績など)を抱えることになったが、いずれ収束する。

■若年ユーザー層開拓にも注力

 一方、国内はどうか。欧米同様にコロナ禍対策で「緊急事態宣言」が出されたため、全業種がマイナス成長を覚悟せざるを得なくなった。それはハイエンド・オーディオも例外ではない。需要そのものはマニア層に支えられて安定しているとはいえ、その影響は無視できない。また、課題としては主対象が60歳以上のシニア層中心になっていることや、少子高齢化に伴う需要縮小などが挙げられる。

 アキュフェーズとしては、国内については顧客創造(特に若年層)の努力を傾けるとともに海外市場の拡大にも本腰を入れて取り組む、それがここ数年の売上げ比率(国内安定、海外伸長の傾向)にも表れてきているといって差し支えないであろう。

■継承され続ける「究極の音創り」

 なお、トリオ、ケンソニック(アキュフェーズ)の創業者である春日二郎氏は2007年1月、6月のアキュフェーズ創業35周年を前にして天寿(享年89)を全うしている。

 会長に退いてからは、趣味の音楽鑑賞を中心とした生活に短歌をたしなみ、また社史(アキュフェーズ)の執筆と充実した余生を過ごしていた。

 既に門下生たちが「究極の音創り」の理想追求を引き継いでいたので、満足感と達成感は大きかったに違いない。後顧の憂いがない生涯であった。(つづく)