2021.01.07 【2021年注目の先端技術特集】「光ファイバ無線技術」開発KDDI総研、矢崎総業、早稲田大、NICT

[図1]光ファイバ無線統合伝送実験の内容

 KDDI総合研究所、矢崎総業、早稲田大学、情報通信研究機構(NICT)は、大容量の無線信号を収容局からビル内まで効率よく配信する「光ファイバ無線技術」を開発し、5G最大伝送レートを上回る27Gビット/秒無線信号のモバイルフロントホール伝送、およびビル内など屋内電波不感地帯向けの中継伝送技術を組み合わせた統合伝送実験に、世界で初めて成功した。この技術により、大容量無線信号の効率的な配信とアンテナ設置箇所のスペース・消費電力削減が可能となり、ミリ波を用いた5Gサービスや、5Gの次世代技術であるBeyond5G/6Gに向けた動きが加速され、これまで以上の高速無線通信サービスを快適に利用できるようになると期待される。

【背景】 

 20年3月に日本国内でも5Gサービスの提供が開始された。今後、特にミリ波を活用した5GやBeyond5G/6Gの展開に当たっては、その特性上、屋内などの閉空間が電波不感地帯になりやすいことが懸念されており、屋内を含む多様な環境に多くのアンテナを設置すること、および収容局-アンテナまでのモバイルフロントホール回線の大容量化が必要となる。5Gでは、無線信号のデータレートに対し5倍超の伝送容量がモバイルフロントホール回線に必要と見積もられており、最大レート20Gビット/秒の5G無線信号を配信するために必要となるモバイルフロントホール回線の伝送容量は100Gビット/秒を上回る。400Gビット/秒を超える伝送規格も存在するが、データセンター向けの短距離規格やコアネットワーク向けの規格であり、20km程度の伝送距離で回線数も多いモバイルフロントホールに適用可能な規格としては、現状50Gビット/秒が最高速である。さらには、高速の伝送規格の機器ほど消費電力が急激に増加するために、将来のBeyond5G/6Gへの拡張も見据え、無線信号を効率よく伝送し、屋内を含めて配信するための新たな手法が求められていた。

【今回の成果】

 今回、KDDI総合研究所、矢崎総業、早稲田大学およびNICTは、前述の課題を解決する技術として、複数の無線信号の時間波形を一括して光の強度情報に転写し、大容量の無線信号を効率よく伝送することが可能な光ファイバ無線技術「IFoF方式」を新たに開発した。また、その周波数特性からミリ波帯の光ファイバ無線への適用が困難と考えられていたマルチモードファイバ用の強度変調-直接検波型光送受信デバイスを新たに開発し、屋内配線を想定したマルチモードファイバによるミリ波信号の伝送を実現した。これらにより、5Gの最大レートを上回る27Gビット/秒無線信号のモバイルフロントホール20km伝送と、モバイルフロントホール伝送後にミリ波無線信号をマルチモードファイバで200m中継伝送する、統合伝送実験に世界で初めて成功した。

 今回開発した光ファイバ無線技術によるモバイルフロントホールは、1本の光ファイバかつ1波長だけで大容量無線信号を伝送できるため、波長多重や空間多重を組み合わせることで、さらなる大容量化が期待されることから、今後のBeyond5G/6G時代に向けた拡張性の高い方式だ。

 また、IFoF方式により、より低い周波数領域の伝送機器が使用されることになるため、省電力化が図れ、SDGsへの寄与が期待されるとともに、アンテナ側の設備構成を簡素化できるため、利用者のニーズに応えて設備がより速く展開できることが期待される。さらに、5GやBeyond5G/6Gではミリ波以上の高い周波数を用いることにより屋内などの閉空間が電波不感地帯になりやすいことが懸念されており、曲げに強く敷設性に優れたマルチモードファイバによる中継伝送技術は、幅広い環境下での高速無線通信サービス利用を可能とすることが期待されている。

【今後の展望】

 今回、収容局からアンテナサイト向けの下り方向について光ファイバ無線技術の統合伝送実験を行ったが、今後は上り信号伝送についても研究開発および実証実験を進めていく。また、研究開発と並行して標準化活動も推進し、5GやBeyond5G/6G向けモバイルフロントホール技術としての方式確立、実用化に向けた活動を継続していく。<資料提供:早稲田大学>