2021.01.29 【水晶デバイス特集】日本電波工業サーミスタ内蔵水晶振動子
サーミスタ内蔵水晶振動子
日本電波工業は、ADAS/自動運転技術の高度化が進む自動車市場や、スマートフォンを中心とする移動体通信市場、産機市場などを重点分野に掲げ、市場ニーズにマッチした小型・高品質の水晶デバイスの提案に力を注いでいる。
5Gスマホ向けでは、NX1612SD(外形サイズ1.6×1.2×0.65ミリメートル)で76.8メガヘルツのサーミスタ内蔵水晶振動子を20年6月から量産開始している。
移動体通信の5Gへの移行に伴い、チップセットに使用されるクロック源の高周波化が進むことで受信感度や通信効率低下を招く懸念があった。これに対し、同社は装置内部の基準発信源を36.4メガヘルツから76.8メガヘルツへと高周波化し、逓倍(ていばい)回数の削減による位相ノイズの改善などの対策を行うことで同製品を開発した。同製品は、米クアルコム社の5Gスマホ向けSoCの認定第1号を取得している。
同社は、5Gでは高周波化が進展し、低雑音、水晶振動子のドライブレベルの引き上げ、高安定な温度特性維持などの水晶振動子への厳しい要求に対し、高品質の原石を自社生産し、フォトリソ技術を生かして、平行平面ウエハー、微細加工技術から、超小型水晶デバイスを供給するという優位性を確保している。
5G基地局向けでは、小型基地局向けに世界最小クラス(7×5ミリメートル)で、かつ動作上限温度をプラス95度まで対応させたOCXO(恒温槽付き水晶発振器)を開発し、20年10月からサンプル出荷を開始した。
5Gやローカル5Gの普及では、小型基地局を多数設置する方式でのエリアカバーが必要。これらの小型基地局は屋外の鉄柱上部や建屋屋上、屋内の壁面など狭いスペースに設置され、設置環境も直射日光や風雨にさらされるなど、従来以上に厳しくなる。小型基地局の内部部品は高密度実装による内部温度上昇や高温・多湿の外部環境の影響を受けるため、高温時の安定動作や良好な温度スロープ特性、良好な位相雑音特性を有する小型の高安定水晶発振器が求められる。
同社はこうしたニーズに対応するため、OCXOを構成する発振器回路、温度制御回路などの全てを一つのチップに納めた専用ASICを開発することで、小型化を実現した。さらに、水晶原石の育成から水晶振動子製造までの一貫生産の強みを生かし、新たに高Q原石による小型SC-cut振動子を開発することで、5Gシステムで要求される高安定・低雑音を実現した。温度スロープ特性も、従来の高精度TCXOに比べ200分の1のプラスマイナス0.1×10-9/度を実現した。気密パッケージ採用により信頼性を高めている。
自動車市場向けは、ADAS/自動運転技術の高度化などにより、今後も自動車1台当たりの水晶デバイス搭載点数の増加が見込まれる中で、今後も高品質を強みに積極的な事業拡大を目指す。
V2X、テレマティクス関連では、マイナス40-プラス125度の広温度範囲のTCXO、カメラ、レーダー/LiDAR向けにミリ波レーダー用高周波クロック発振器を用意。車載安全系用途のクロック用水晶発振器では、2520サイズでマイナス40-プラス125度対応、AEC-Q100/200に準拠した製品を用意している。