2021.02.18 【5G関連技術特集】5G用電子材料の技術と製品動向

5G対応の熱硬化性低誘電樹脂(信越化学工業)

ミリ波帯ノイズ対応の熱伝導性電磁波吸収グリース(巴川製紙所)ミリ波帯ノイズ対応の熱伝導性電磁波吸収グリース(巴川製紙所)

 電子材料メーカー各社は、次世代移動通信規格5GやV2Xなどで求められる高速伝送対応材料の技術開発を活発化させている。5G用電子部品などで求められる低誘電率や低誘電正接、高耐熱性などを満たす新規材料開発や既存材料の新グレード品開発、市場投入が相次いでいる。

 最近のエレクトロニクス市場では、5G通信の本格化や、自動運転技術の高度化、産業機器の高速ネットワーク化などを背景に、高速伝送対応へのニーズが一段と強まっている。このため、電子材料には、高周波ミリ波対応や高速大容量伝送、耐熱性向上などのニーズを満たす製品開発が求められている。

 5Gアプリケーション向け材料開発では、低誘電率や低誘電正接を実現し、機械物性や耐熱性にも優れる高周波プリント基板用絶縁材料や5Gアンテナ基板材料、高速伝送用電子部品向け材料などの開発が進展している。

 5G製品に使用される高周波基板材料では、従来の基板材料の主力であるガラスエポキシ樹脂やポリイミド系材料の改良が進んでおり、誘電率や誘電正接を引き下げた新規グレード品開発や、吸水特性の改善などが追求され、既に5Gスマートフォンなどでの採用が広がっている。加えて、5G基板用材料として、フッ素系樹脂やLCP(液晶ポリマー)などの高性能素材への注目も高まっている。

 電子材料各社は、精緻な分子設計などを行うことで、優れた低伝送損失を実現できる素材開発を追求し、大容量通信の安定化への貢献を目指している。

熱硬化性低誘電樹脂

 信越化学工業は、5Gに対応する熱硬化性低誘電樹脂「SLKシリーズ」を開発し、同樹脂への量産化投資を行う。

 SLKシリーズは、フッ素樹脂に迫る低誘電特性を持ち高強度かつ低弾性の樹脂。5Gの高周波帯域で使用される電子デバイスや回路基板、アンテナ、レーダードーム向けに開発し、高周波数帯(10G-80GHz)で誘電率2.5以下、誘電正接0.002以下と熱硬化性樹脂としては最低レベルを達成。低吸湿性で、低粗度の銅箔に対しても高い接着性を有するため、FCCL(フレキシブル銅張積層板)や接着剤などへの使用にも適している。

 同社はこのほか、5G向けの石英クロス「SQXシリーズ」も開発した。同シリーズは、誘電率3.7以下、誘電正接0.001以下、線膨張係数1ppm/度以下など伝送損失に関わる特性に極めて優れる。

低誘電損失ポリイミド

 東レは、5G通信用に適した低誘電損失ポリイミド材料を開発した。精緻な分子設計と極限追求により、高耐熱性、機械物性、接着性を有し、電気エネルギーの損失を0.001(20GHz)に抑える低誘電損失ポリイミド開発に成功。同材料をベースに、感光性付与、シート化などの開発を進める。

 クラレは、耐熱ポリアミド樹脂「ジェネスタ」事業の民生市場向け拡大に向け、5GやDDR5関連へのアプローチを強化している。ジェネスタは、優れた寸法安定性や耐高電圧性などを強みに事業規模が拡大している。

高周波PC板向け絶縁材料

 JSRは、5G用に独自の合成技術を駆使して低誘電率、低誘電正接を特徴とした高周波プリント基板向け絶縁材料を開発した。スマホなどで用いられるフレキシブル銅張積層版のベースフィルムや低粗化銅箔への高い密着力を有し、高温多湿下でも優れた電気特性を維持する。

 ポリプラスチックスは、5GやV2Xなどで必要となる高速伝送部品、高周波伝送部品向けに、液晶ポリマー「ラペロス」の低誘電・低誘電正接グレード「E420P」を積極展開する。LCPが有する高い耐熱性、機械特性、耐薬品性を確保しつつ、コネクタ用途に適用できるように流動性、低そり性を実現した。

低誘電ボンディングシート 

デクセリアルズは、5Gなどの高速伝送向けFPCの製造を容易にする低誘電ボンディングシート「D5300Pシリーズ」を開発した。LCPと誘電率を下げた変性ポリイミド(M-PI)の両基材に対応する層間接着材料。誘電率(Dk)を2.3、誘電正接(Df)を0.0028に抑え、LCPを基材とした6GHz以上の高速伝送向けFPCにも使用可能。180℃での接着が可能。

フッ素樹脂基板を提案

 中興化成工業は、高速・大容量通信に適した低伝送損失のフッ素樹脂基板「CH2868D」の提案を強化している。無粗化箔を使用しながら高いピール強度を有する。誘電率が低く、ミリ波帯での伝送損失が極めて小さい。引き剥がし強度は0.2kN/mと極めて高い。伝送損失は0.056dB/mm(76GHz)と世界最高レベルの低伝送損失を実現した。

 JFEケミカルは、芳香族化合技術を生かし事業領域拡大に努めている。アセナフチレンや特殊フェノール樹脂は樹脂改質材として半導体や電子基板の高性能化に寄与。いずれも高耐熱性と低誘電損失が求められる5G、EVなどの分野に適した特性を有し、車載、高速通信アンテナ、パワーデバイス、レジスト材料用に積極展開を行う。

 巴川製紙所は、放熱性を維持しながら電磁波吸収特性を付与した、ミリ波帯域ノイズに対応する熱伝導性電磁波吸収グリースを開発した。放熱・電磁波対策を同時に可能とし、電子デバイス製品の小型化や工数削減などに貢献する。

 同社が開発した熱伝導グリースは、誘電正接0.4以上を達成。一般的に誘電正接の高い材料は直流体積抵抗率が低く、電子回路への塗布が敬遠されていたが、同開発品は10⁹Ωセンチメートル以上の高抵抗を維持しながら、ミリ波帯域の誘電正接を高めることに成功した。