2021.05.13 【センサー技術特集】センシリオンのCO₂センサーと環境センサー統合モジュール
[図1]生活空間のCO₂濃度レベル
■はじめに
二酸化炭素(CO₂)は、人間の体内に取り込まれた食物の炭水化物が代謝されてエネルギーを生成する場合などに発生し、呼吸によって体外に排出される。吸い込まれる空気のCO₂濃度は、代謝に大きな影響を及ぼす。吸い込まれた空気での濃度のレベルに応じて、日常生活や健康に影響を及ぼすさまざまな症状が起こる可能性がある。空気中のCO₂濃度が高い状態で呼吸すると、集中力の問題や疲労につながる。室内での人の潜在能力は、空気中のCO₂が多くなるほど低下していく。また、昨今のCOVID-19の世界的流行により、日常生活環境ではウイルス感染予防および密回避の対策が行われている。室内の空気質の劣悪状態を判断する指標としてCO₂レベルを監視するようになり、その関心が高まっている(図1)。
センシリオンはCO₂をはじめとする温度、湿度、PM2.5、VOCなどの環境センシング技術を搭載したセンサー製品を提供している。本稿では新製品に採用されているセンシング技術について紹介する。
■超小型CO₂センサーSCD4x
当社はCO₂計測のためのセンサー「SCD4x」の提供を開始した。SCD4xは光音響センシング原理と当社の特許、PASSens®技術により、実装空間がわずか1cm³という比類ない小型化と高性能化を実現した。さらに表面実装部品化(SMD)により、コストおよび実装スペースの効率化をもたらし、お客さまのニーズに合わせた自由な設計が可能になる(図2)。
またクラス最高の温湿度センサーの内蔵によって、優れたオンチップ信号補正と相対湿度および温度データの同時出力や、低消費電力の動作モードも備え、様々なお客さまのニーズに対応する。IoT、自動車、HVAC、家電、コンスーマー製品などの現在および将来のCO₂センシング市場において最適なセンサーである。
SCD4xに採用したPASens®技術
一般的なCO₂センサーは、NDIR方式(非分散赤外線吸収法)の原理に基づいている。これらのNDIR方式のセンサーは光共振器の光学ビーム経路の確保が必要で、その感度は経路長に直接比例するため、感度を上げるとサイズが大きくなってしまう。さらに感度を低下させずに小型化するのは困難で、低いCO₂測定での使用に限られてしまう。従い、NDIR方式のセンサーは、そのサイズ、感度制約によって、コスト効率の改善が見込めなかった。また、光音響を用いた原理はすでに1880年に発明されていたが、技術的なコンポーネントが不足していたため、一般的なCO₂センサーには容易に適応できなかった。しかし優れた検出性能であったため、実験室規模の光音響測定器には採用されていた。
当社では、温湿度センサーの小型化開発で培った知識(CMOSSens®技術:https://www.sensirion.com/jp/about-us/company/technology/)によって、光音響検出原理に基づいたPASSens®技術を確立し、CO₂センサーへの導入を実現した。PASens®技術の採用により、センサー性能を低下させることなく、CO₂センサーは大幅に小型化される。これは、センサー感度が光共振器のサイズと無関係であるためである。さらに、自社開発のコンポーネントのため、構成がシンプルになり、その数が劇的に減ることで、非常にコスト効率のよい部品となった(図3)。
SCD4x測定原理
SCD4xでは、光音響検出原理に基づく処理をPASens®技術で構成し実現している。その測定においては、まずIRエミッターからCO₂分子の吸収帯と一致する狭帯域光を、完全密閉した測定セルの空間に放射する。測定セル内のCO₂分子は、照射された光の一部を吸収するが、その他の分子は放射光のスペクトルのために吸収できない。測定セルに存在する分子が多いほど、吸収されるエネルギーが大きくなる。CO₂分子の吸収されたエネルギーが主に分子振動を発生させ、分子の並進運動エネルギーは増加する。測定セルは密閉されているため、セル内の圧力が高まる。光源の調整によって、測定セル内の周期的な圧力が変化し、それをマイクロホンで測定する。結果的にマイクロホンの信号が、測定セル内に存在するCO₂分子の数の測定値となり、CO₂濃度の計算に使用される仕組みとなっている(図4)。
SCD4x適用可能なアプリケーション
SCD4xは、小型化と少ない部品構成の利点を生かし、幅広い用途における適用を見込むことができ。CO₂濃度の測定結果をフィードバックする環境アラームや換気制御への活用や、クラウド環境を介してのデータの送受信により幅広い用途への展開が期待される。実際には次のようなアプリケーションへの適用が可能である。
・空気清浄および空調制御機器でのIAQモニタリング
・IoTおよびスマートホームでの環境管理
・オフィスビル換気システム
・農業・ハウス栽培の環境管理
SEK評価キットとソフトウエア環境
当社はSCD4xを用いた評価のために、専用評価キットと無償のソフトウエアを提供している(図5)。
購入後、それぞれのパーツを接続するだけで、簡単にすぐに評価が開始できるようになっている。
■環境センサー統合モジュール「SENxx」
SENxxは、PM(粒子状物質)センシング基盤を軸にVOC、温度・湿度センシングの機能を取り込んだ構成となっており、3種類の環境センシング機能を1台のセンサーモジュールに統合した。これにより設計、評価、実装に関するコストを削減し、トータルソリューションの提供が可能になる(図6)。
・PM(粒子状物質)センシング:PM1.0、2.5、4、10の質量濃度、数量濃度出力
・VOC(揮発性有機化合物)センシング:VOC濃度のIndex出力(0-500 index points)
・RH/T(湿度・温度)センシング:温度、相対湿度出力
以下、本稿では、PMセンシングとVOCセンシングについての技術を紹介する。
PM(粒子状物質)センシング
PM2.5(Particle Matter:粒子状物質)は、最大2.5マイクロメートルの粒子サイズを有するファインダストのカテゴリーを示し、大多数の空気汚染に存在している。
ファインダストは人体にとって最も危険な有害物質の一つである。この粒子はサイズが小さいため、肺の深部まで浸透し、気管支炎や喘息などの肺疾患を長期間にわたり引き起こし、心血管疾患を促進することもある。
SENxxのモジュールにおけるPMセンシングでは、1.0、2.5、4、10マイクロメートルの粒子サイズを対象とし、FANエアフローの吸排出の構成を基盤として測定を行っており、エアフローにビームを交差照射する構造で、パーティクルとの衝突時に発生するレーザー散乱光を光検知するこの測定原理の特許は、当社が保有している(International Publication Number:WO2008140816A1)。検知信号からパーティクルサイズやその数量をカウントし、デジタル処理して質量濃度、数量濃度を出力し、さらに自社の革新的な防汚性技術により、高品質で耐久性のあるコンポーネントとともに、稼働開始から10年以上もの期間においてクリーニングやメンテナンス不要で高精度の測定を可能にする(図7)。
VOC(揮発性有機化合物)センシング
VOCの発生には、建築材料、たばこの煙、人とその活動、屋内での化学反応など、数多くのさまざまな原因が考えられる。例外として、高いVOCレベルは通常、新築の建造物やリノベーション後に見られる。そして、消臭スプレーや洗浄剤などのVOCを含む製品を使用した場合、使用後も長時間持続する高い汚染レベルに曝されることになる。人間への曝露に関する数多くの研究において、高いVOCレベルに曝されたことによる健康へのさまざまな悪影響が示されている。一般的に報告される影響の中には、目、鼻、のどの乾燥や痛み、頭痛、めまいがある。
このVOCセンシングのため、SENxxのモジュール内部にはマルチピクセルガスセンサーが内蔵されている。その原理は、金属酸化物(MOx)のナノ粒子を加熱したフィルムをベースとしている。金属酸化物粒子状に吸着した酵素はターゲットのガスに反応し、電子を放つ。その結果、センサーによって測定された金属酸化物層の電気抵抗に変化が生じる。この時の抵抗値をデジタル信号処理してVOC反応の原信号の値として算出する。そしてVOC濃度は、この値を独自のVOCアルゴリズムでIndex化して、0~500までのインデックス値として出力する。さらにマルチピクセルガスセンサーは、シロキサンの汚染に対する抜群の堅牢性を備えており、長期安定性と精度を実現している。モバイル、スマートホーム、家電製品での室内空気質の監視に最適である(図8)。
■まとめ
本稿では、当社のCO₂センサー「SCD4x」と環境センサー統合モジュール「SENxx」の二つの新製品の技術を紹介した。私たちの日常を取り巻く大気環境は変化しており、その変化を認識していくことが重要になっている。その手段として環境センシングを私たちの快適性や健康で安心な生活を向上させるためにぜひ活用していただきたいと考えている。
今後もセンシリオンは、湿度、温度、揮発性有機化合物(VOC)、PM2.5やCO₂などの重要な環境データを詳細かつ信頼性高く計測できる環境センサー・ソリューションを提供していく。
<センシリオン(株)>