2021.06.03 【パワーデバイス技術/ロボット・ドローン用部品技術】JFEケミカルのベンゾオキサジンと車載用広温度域低損失フェライトコア

車載・産業機器向けフェライトコアの製品例

はじめに

 JFEケミカルは、精密化学品、磁性材、電池材料、プラスチック成形材(KPシート)の4分野を機能性化学品と位置付け、研究開発を強化している。キーワードは、「電動車」。ここでは、その中のパワーデバイス関連事業として、精密化学品分野から耐熱樹脂素材であるベンゾオキサジンと、磁性材分野から車載用広温度域低損失フェライトコアについて紹介する。

JFEケミカルの耐熱樹脂-オキシジアニリン型ベンゾオキサジン-

 パワーデバイスは、電力の周波数変換や直交変換、電圧変換に用いる半導体素子で、電気自動車、ハイブリッド自動車、電車、家電などさまざまな用途に使用されている。パワーデバイスの変換効率向上は、これらの輸送機械や電気機器の省エネ化に重要な技術であるが、従来、使用されているシリコン(Si)半導体は、近年の大電流化や省エネ要求レベルの高度化により、変換効率が限界に近づきつつある。そこで、次世代高効率パワーデバイス向け半導体として、シリコンカーバイド(SiC)が注目されている。SiC半導体は、バンドギャップがSi半導体より大きいため、絶縁破壊電圧が高く、高電圧を扱える上、動作温度は、Siの150℃が上限であるのに対し、SiCは200℃以上の動作が可能で、エネルギー損失の少ない電力変換が可能である。

 SiC半導体の高温動作を実現する上で欠かせないのが、SiC半導体用の封止材やチップ周辺部材に用いる高耐熱樹脂である(図1)。このようなニーズに対応するため、JFEケミカルは、耐熱性に優れた特殊構造をもつベンゾオキサジンを製品化している。

 ベンゾオキサジンは、180℃以上に加熱すると、硬化剤や触媒を用いることなく自己硬化して硬くて高耐熱の硬化物に変化する。他の成分を添加せずに硬化が進むため、硬化物の純度が高く、また、難燃性も優れている。

 しかしながら、一般に市販されているベンゾオキサジンは、ビスフェノールA(図2)やビスフェノールFを骨格に持つものが主流で、いずれも酸化が起こりやすい脂肪族C-H結合が比較的多く含まれ、熱分解温度は必ずしも高くなかった。これに対し、当社は、ポリイミドの原料に使用される、オキシジアニリンを原料とするベンゾオキサジンを開発した(図3、図4、図5)。オキシジアニリン型ベンゾオキサジンは、酸化が起こりにくいエーテル結合を持ち、脂肪族C-H結合も他のベンゾオキサジンより少ないため、熱分解温度が高く、高温環境で使用した時の耐久性、信頼性が大幅に改善される。熱分解温度の目安となる、空気中の5%重量減少温度を比較すると、ビスフェノールA型の334℃に対し、オキシジアニリン型は、50℃高い388℃である。また、ガラス転移温度もオキシジアニリン型は、ビスフェノールA型より15℃向上している(表1)。

 オキシジアニリン型のもう一つの特徴は硬化物の誘電率が低い点で、一般的なプリント基板の材料であるエポキシ樹脂とフェノール樹脂の硬化物に比べ、比誘電率は5分の3、誘電正接は5分の1である(表2)。このような特徴から、当社のオキシジアニリン型ベンゾオキサジンは、既に低誘電特性が重視される高速・大容量データ処理向け電子機器のプリント基板に採用されている。

 当社のベンゾオキサジンは、加熱して自己硬化する過程で、フェノール性水酸基を生じるため、高耐熱エポキシ樹脂や高耐熱ビスマレイミドの硬化剤としても用いることができる。これらの高耐熱樹脂と反応させることで、ベース樹脂の優れた耐熱性と合わせた相乗効果で、従来のベンゾオキサジンでは達成できない高い耐熱性、耐熱分解特性が期待できる。当社のオキシジアニリン型ベンゾオキサジンは、優れた耐熱劣化特性と電気特性から、パワーデバイス向けSiC半導体の封止材料やその周辺部材の材料として好適であるほか、高温環境で長期間使用される自動車のエンジンコントロールユニット(ECU)の半導体封止材料やその基板材料、低誘電特性を生かして、スマートフォンや高速高容量電気通信機器などのプリント基板の用途に期待される材料である。

車載用広温度域低損失フェライトコア

 電気自動車(EV)やハイブリッド車(HEV)の普及が進展する中で、電動車の燃費向上と航続可能距離確保の観点から、DC-DCコンバーターの小型、軽量化、高効率化が求められている。エンジン車では、電装機器で使用する12Vの電力を供給するためにオルタネーターで12V電池を充電しているが、HEV車では、200~300Vの主電池から電圧変換して12V電池を充電する方法を採っている。この電圧変換用トランスの磁心材料として、MnZnフェライトコアが使用されている。

 MnZnフェライトは、酸化鉄を主成分とする軟磁性を示すセラミックス磁性材料である。JFEケミカルでは、自社で製造している高純度酸化鉄を主原料として、子会社であるJFEフェライトでMnZnフェライトコアを製造している。倉敷、タイ、中国に生産拠点を持ち、従来、電子機器や通信機器のスイッチング電源用トランス材を供給してきた。車載用DC-DCコンバーターの場合は、従来の電気製品向け用途と異なり、周囲の温度環境が過酷であり、-40~130℃の広い温度範囲で安定した磁気特性が必要となる。

 従来のMnZnフェライト(MB3、MB4材)では、電源の熱暴走を抑制するために100℃でコアロスが最小となるように材料設計していた。しかし、図6に示すように、室温付近のコアロスが大きく、温度特性が急峻であった。そこで、JFEフェライトでは、基本組成であるFe₂O₃、MnO、ZnOに加えて、第4成分としてCoOを導入した。Coを加えることで、コアロスの支配因子である結晶磁気異方性を広い温度域で小さくすることに成功し、広温度域低損失フェライトMBT1材を開発した。さらに、成分系、原料の粉体特性、焼成条件を改良することで、より損失を低減したMBT2、MBT3材をラインアップした。広温度域低損失フェライトコアは、車載用DC-DCコンバーターのメイントランスだけでなく、産業機器用電源やデータセンターのサーバー電源など、発熱の抑制や省エネルギーが求められる用途においても広く使用でき、電源の高効率化や小型化に対応可能である。

 DC-DCコンバーターのメイントランス以外の用途においても、それぞれの用途に適した磁気特性のフェライトコアを取りそろえている。電源の平滑回路に使用されるチョークコイルは、直流電流を重畳して使用されるため、飽和磁束密度の高い低損失MnZnフェライトMB1H材が好適である。また、電源のラインノイズフィルタ用には、対策周波数に応じて、高透磁率MnZnフェライトMAシリーズおよび高抵抗MnZnフェライトMRシリーズを提供している(表3)。

 今後の展開として、SiCやGaNなどのパワー半導体の進展に伴うスイッチング周波数の高周波化に対応するため、高周波低損失MnZnフェライトの開発および商品化を進めている。また、車載用途では、磁気特性だけでなく、機械的強度や耐振動特性、長期間の特性安定性などが重視されるため、コア強度改善や信頼性評価にも取り組んでいる。

最後に

 JFEケミカルでは電動車向けとして電池材料分野にも力を入れており、中国鉄鋼大手の宝武集団との合弁の内モンゴルの工場でニードルコークス系負極材を生産し、電動車向けリチウムイオン電池(LIB)用負極材ではほぼ全ての品ぞろえとなる。また、プラスチック成形材分野でも電動車向けに吸音特性に優れた内装材開発を進めている。さらに、JFEケミカルは機能性化学品の研究開発を加速するため、親会社のJFEスチールが17年に設立したスチール研究所機能材料研究部との連携も強化。自社の研究開発力とスチール研の高度な構造解析力を組み合わせ、これからも電動車向けにユニークな製品を生み出し続け社会に貢献していく。

 〈JFEケミカル(株)〉