2021.08.05 【コンデンサー特集】日本ケミコンの新規複合封止構造を用いた導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー「HXUシリーズ」

【図2】【図2】

1.はじめに

 日本ケミコンの主力商品であるアルミ電解コンデンサー(以下、電解コンデンサー)は、電子機器の発展とともに成長してきた電子部品の一つであり、当社は今年で創業90周年を迎える。電解コンデンサーの特長はほかのコンデンサー種と比べて、小形・大容量・低コストを実現でき、現在では民生機器をはじめ、産業機器および車載電装機器に至るまでの数多くの電子機器の回路に不可欠な電子部品となっている。

 当社は、1999年に陰極材料に導電性高分子(PEDOT:PolyEthylene DioxyThiophene)を用いたアルミ固体電解コンデンサー「PXシリーズ」(以下、固体コンデンサー)の量産化に世界で初めて成功した。導電性高分子は『電気を通すプラスチック』と呼ばれ、白川英樹筑波大学名誉教授が導電性のポリアセチレンを発見し、2000年にノーベル化学賞を受賞している。近年では、スマートフォンなどのキーデバイスであるリチウムイオン電池やタッチパネルなどにも導電性高分子材料が応用され、日本が世界に誇れる技術となっている。

 当社では固体コンデンサーのPXシリーズの量産から14年後の2013年より、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー(以下、ハイブリッドコンデンサー)「HXAシリーズ」の量産を開始した。ハイブリッドコンデンサーは陰極材料に電解液と導電性高分子を用いたコンデンサーである。導電性高分子の高い電気伝導度および、幅広い温度領域で安定した電気的特性と、電解液の優れた酸化皮膜修復性による高耐電圧・高信頼性の優れた特長を高いレベルで両立した製品である。ハイブリッドコンデンサーはこれらのメリットを生かし、高容量化した「HXJシリーズ」や高リプル化に特化した「HXFシリーズ」などを新たにラインアップし、今後も車載電装機器や産業機器などのさらなる小型・軽量化、高温対応・長寿命化に対応し、幅広い分野での需要を見込んでいる。

 一方、現在のハイブリッドコンデンサーの素子の封止には、従来の電解コンデンサー同様にゴム材料を用いている。結果、電解液がゴムを透過し蒸散してしまうため、さらなる長寿命品の実現には封止構造を変える必要があった。2013年より量産の「HXAシリーズ」から8年後の今年5月にプレスリリースした「HXUシリーズ」は、当社独自の技術である複合封止構造(ゴムと樹脂の二重構造)を採用することで、高温環境下での気密性を飛躍的に向上させ長寿命化を実現するとともに、耐振動性も向上させることが可能となった(図1、図2)。

2.基本構造

 当社のコンデンサーの共通した基本構造は内部素子、アルミケース、封口ゴムで構成される。内部素子は陽極アルミ箔と陰極アルミ箔をセパレーターで介した巻回形状であり、陽極・陰極アルミ箔には電極の引き出しリードが接続されている(図3)。この内部素子に陰極材料を形成し、アルミケース、封口ゴムにより封止されている。この巻回形状は電解液を保持する上で非常に優れた構造であり、電気二重層キャパシターやリチウムイオン電池にも採用されている。

 陰極材料に電解液を用いた電解コンデンサーは、誘電体のアルミ酸化皮膜の修復性に優れることから、漏れ電流が低く高耐電圧な製品の実現が可能となる。欠点としては、電解液の電気伝導度が低く、液体のため高温下で蒸散もしやすい。さらに、電解液特有の温度特性を有しており、内部抵抗(等価直列抵抗:ESR)の温度依存性が大きい。このため、一般的に電解コンデンサーは、ESRが比較的高く、低温環境下においてESRが増加し、高温環境下においては短寿命となる。

 当社の固体コンデンサーは陰極材料に導電性高分子のPEDOTを用いている。導電性高分子は電子伝導材料であり電気伝導度がイオン伝導の電解液よりも1000倍以上高く、熱分解温度も300℃以上の特長を有する(図4)。よって、固体コンデンサーはESRの温度依存性が小さく、幅広い温度領域で安定した電気特性が得られ、同サイズの電解コンデンサーと比べて高信頼性(高耐熱・長寿命)と低ESR化(高い許容リプル電流)が可能となった。このため、固体コンデンサーはスイッチング電源の高周波ノイズ除去や過渡応答性を求められる電源のデカップリング回路などに適している。欠点としては、固体コンデンサーは電解コンデンサーと比べてアルミ酸化皮膜の修復性に乏しい。外部ストレスにより漏れ電流が増加しやすく、また高耐電圧化が困難であることから、漏れ電流が大きく影響する回路や高電圧の回路にはあまり適さない。

 ハイブリッドコンデンサーの陰極材料は電解液と最適化された導電性高分子のPEDOTで構成される。その導電性高分子は従来のものと比べて高い耐電圧性を有し、さらに、形成方法の最適化を図ることで信頼性も向上している。また、導電性高分子とのマッチングを考慮した電解液を新たに開発し、酸化皮膜修復性を付与することで、固体コンデンサーでは困難であった耐電圧の向上と高信頼性を実現することが可能となった。

3.HXUシリーズの特長と製品仕様

 昨今、電子機器を取り巻く環境は、24時間365日稼働システムがより一般的になり、従来よりも厳しい環境下での使用が想定される。また、近年の自動車の開発トレンドはハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車、電気自動車、水素燃料電池車などへと移行し、電装品の高性能化に伴い、小形化を維持しつつ高機能化した電装機器が要求されている。さらに、これらの駆動機構にはさまざまな電子制御回路が搭載されており、耐振動性能と小型実装化を両立した回路部品の選定が大きな課題となっている。

 HXUシリーズでは、ハイブリッドコンデンサーをベースとして、封止材に当社独自の技術である複合封止構造(ゴムと樹脂の二重構造)を採用することで、前述の通り、高温環境下での気密性を飛躍的に向上し長寿命化を実現した。また、複合封止構造はゴムとケースが樹脂で固定されるため、振動時の応力集中が抑制される。これによりHXUシリーズでは弊社ハイブリッドコンデンサーの耐振動台座仕様において30Gから40Gへの高耐振動化が可能となった。

《製品概要》

・カテゴリ温度範囲:-55~+135℃

・定格電圧範囲:25~63V

・静電容量範囲:82~330μF(静電容量許容差±20%)

・製品サイズ:φ10×10Lmm

・耐久性:125℃/135℃ 8000時間リプル重畳保証

・耐湿性:85℃85%RH2000時間DC負荷保証

・耐振動性:耐振台座仕様40G、標準台座仕様10G

 HXUシリーズは、業界ナンバーワンの高許容リプル電流と長寿命、さらに耐振動性を兼ね備えた、近年の厳しい要求に対応する次世代のハイブリッドコンデンサーに位置付けられる(表1)。

 HXUシリーズの寿命性能は「HXEシリーズ」比で2倍の135℃8000時間保証と業界最高レベルを実現している。定格電圧は25V~63Vに対応し、車載向け12V系・48V系電源、また通信基地局の48V系電源にも適応できる。定格リプル電流は従来のHXEシリーズ比で最大で2倍の高リプル化を実現している。

4.今後の展開

 HXUシリーズでは、当社独自の「複合封止構造」を採用することで、従来品から2倍の長寿命化と共に、40Gの高耐振動性化を実現した。今後はハイブリッドコンデンサーの優位性を軸に「複合封止構造」を用いたサイズの拡充、電圧拡大によるより魅力的な製品開発に挑戦する。

 また近年、Si(シリコン)を用いたパワー半導体はモーター駆動などに適したSiC(シリコンカーバイド)や電源の小型化に適したGaN(ガリウムナイトライド)へ置き換わりつつあり、高温度環境での対応部品の要求も示唆される。これにより、第5世代移動通信規格5Gに代表される通信基地局市場、および産業機器市場などでもメンテナンスフリー化や高密度実装化による高耐環境性を実現するために高信頼性、長寿命性への要求が高まるものと予想される。当社の複合封止構造はこのような用途にも対応可能と考えており、より高温度に対応した製品開発も行っている。当社は、長年にわたり培ってきた自社による材料開発技術と自社生産技術を生かし、業界をリードしていく開発を今後も進めていく。

 〈合津智之:日本ケミコン(株)技術本部 第二製品開発部 ハイブリッドグループ〉