2021.09.03 半導体不足がビジネスを直撃エレクトロニクス商社、顧客への納期対応に懸命
不足する半導体。エレクトロニクス商社は調達や納期対応に懸命の努力を続けている
コロナ禍から製造業が回復し増勢へと転じる中、第5世代移動通信規格5G、電気自動車(EV)向けなどの半導体の需要が世界的に拡大して品不足が深刻化し、エレクトロニクス商社のビジネスを直撃している。各商社はサプライヤー(半導体メーカー)との調達交渉、顧客への納期対応に懸命の努力を続ける。
エレクトロニクス商社は半導体をベースにしたソリューションや新規商材による事業の拡大など、新たなビジネスモデルの構築へとシフトしているが、ベースは半導体の販売にあり、現在の半導体不足は事業の根幹に影響を及ぼしている。
菱電商事は半導体部門のほかFA部門も順調にコロナ禍から業績が回復しているが、半導体不足の懸念を抱える。正垣信雄社長は「半導体は車載だけでなく民生向けを含めて不足している。FAもモノ不足が心配になっている。顧客の一部から来年までの受注が入っているが、自然災害や新型コロナの感染再拡大などにより、半導体メーカーの生産がいつ止まるか分からないリスクもある」と慎重に先行きを見る。
伯東の阿部良二社長は「半導体不足から、2022年度までの注文が入るほど受注が積み上がっている。08年のリーマンショックによる09年、10年の半導体不足も経験したが、今の半導体不足はそれを超える」と現状を分析する。
過去に例のない逼迫感
「技術商社機能を持つメーカー」へと事業構造の転換を進める東京エレクトロンデバイスは、自社(グループ会社)で製造設備なども生産する。徳重敦之社長は「半導体の受注が倍増ペースで伸びているものの、供給が課題。企業によっては1年先まで注文を受けている。現在の半導体の逼迫(ひっぱく)した状況は過去に例がない。米中貿易摩擦、コロナ感染の世界的な拡大、自然災害など複合的な要因から起きていると分析している。5G、EV、産業機器など市場が伸びているときであり、過去の半導体不足とは状況が全く異なる」と述べる。
カナデンの本橋伸幸社長は「半導体不足とサプライヤーの値上げ要請に苦慮している。17年ごろも半導体は不足したが、今は5GやEVの生産増で、半導体だけでなく、電磁鋼板はモールド樹脂など部材不足から他の商材も入りにくくなっている。来年6月ごろまでは続くとの経済専門家の予想もある」と話す。
菱洋エレクトロの中村守孝社長は「5GやEV化の進展で、業界全体で半導体の動きは好調だが、品不足が深刻。顧客に迷惑を掛けないためにも製品確保に全力を挙げている。CPU、パワー半導体、メモリー、液晶モニターなども調達に苦慮している」と現状を語る。
値上げ要請が表面化
明光電子は30万点を超える電子デバイスの取り扱いに加え、顧客視点でメーカーと協業しながら新しいソリューションの提供を事業戦略とする。十川正明会長は「半導体の売り上げは伸びているが、品不足で納期が課題だ。最近は日常取引のない製造企業から、半導体が手に入らないからと、スポットの受注が増えた。また、納期が1年後、1年半後といった長納期の案件も増えている。サプライヤーからは値上げの要請が相次いでおり、値上げに応じなければ半導体が調達できない厳しい面もある。半導体不足は来年中は続くだろう」と見る。
台湾TSMC、米インテル、韓国サムスン電子をはじめとする半導体各社は過去最大規模の投資を進め、その他各社も今後の需要拡大に備えて積極的な投資を行っているが、工場の稼働には時間を要する。また、これら投資の多くは最先端微細化プロセスに向けたものであり、今最も不足していると言われる一世代前の半導体は投資の主力にはなりえない。
中国の半導体産業が急成長している。政府の半導体内製化政策の推進による巨額投資を背景に、中国国内ではファウンドリーメーカーの工場新設や数々の半導体生産プロジェクトが進行。「現在の半導体不足をカバーするのは中国メーカーではないか」(東京エレクトロンデバイス徳重社長)と見る向きもある。