2021.10.07 【自動車用電子部品技術特集】ニチコン自動車用各種アルミ電解コンデンサーの最新技術動向
【写真1】チップ形アルミ電解コンデンサー「UBHシリーズ」
■はじめに
近年、自動車を取り巻く環境は大きく変化している。環境問題の観点から、内燃機関から電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HV)への移行が進んでいる。さらに、先進運転支援システム(ADAS)に関わる安全関連技術や自動運転機能を搭載した自動車の開発が加速しており、それらに不可欠な自動ブレーキ、画像認識、センサー関連機器の開発も進んでいる。また、移動中の居住空間の快適性を求められることから車内空間の確保を目的として、電子回路がエンジンルーム内へ設置されることが多くなってきている。さらに、車載の省電力化に向けて高耐電圧化の動きも進んでいる。
上記のような車載用途で使用されるコンデンサーに対して高信頼性品の要求が増えており、高温過酷環境への対応に加え、小形・高容量化、低ESR化が求められている。
今回は、車載用途に対応するアルミ電解コンデンサー、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーおよび導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの最新技術動向について解説する。
■アルミ電解コンデンサー150℃高温度長寿命低温ESR規定品「UBHシリーズ」の開発
エンジンルーム内の高温度環境下へ対応するため搭載部品の高温度化のニーズが高まっている。車載対応において高機能化として小形化、高容量化、低抵抗化、高信頼性化が挙げられるが、当社では105℃/125℃をメインとしてさまざまなシリーズをラインアップし対応してきた。今後、エンジンおよびエンジン駆動周辺ECUへ対応するにあたり、より過酷な高温度環境への対応が求められる。そこで、当社は超高温度化に注力して開発を進め、150℃1500~2000時間対応の「UBHシリーズ」(写真1)の開発を行った。
本製品は、これまで当社が培ってきた高容量化、低抵抗化、高信頼性化技術を駆使しており、150℃環境下に対応する低比抵抗/低蒸散性溶媒や封口部の最適化、電極箔の高倍率化により電極箔の収容面積を拡大することで、現行の150℃1000時間保証「UBCシリーズ」から約2倍の高容量化を達成するとともに、新規電解液と封口部の最適化により安定した特性を実現している。この150℃1500~2000時間対応品は、ニチコンのみのラインアップとなっており、エンジンルーム内へ搭載される機器の小形化、軽量化、員数削減、高性能化に貢献できる。製品寸法はφ8×10L、φ10×10Lの2サイズ、定格電圧および定格静電容量は25・35V、100~270μFである。同一サイズでの最大収容容量について(表1)に示す。現行シリーズに比べて1.2~2.1倍の定格静電容量を収容でき、搭載製品の省スペース、高性能化に寄与することが可能である。
■導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー125℃高容量・高リプル品「GYEシリーズ」の開発
導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは、導電性高分子と電解液の2種類の電解質を採用することで、導電性高分子の特長である低ESR性能と優れた高耐熱性能に加え、電解液による酸化皮膜修復性能を有している。そのため、アルミ電解コンデンサーに比べて低ESR化、高許容リプル電流化、長寿命化が可能であり、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーに比べて漏れ電流が低いことを特長としている。このことから、車載市場および民生市場等において要求が高まっている。車載用途としてはエンジンルーム付近など過酷環境で使用される電子機器を中心に採用が増加している。今回、要求が増加している高容量・高リプル化への対応として「GYEシリーズ」(写真2)の開発を行った。
標準品のGYAシリーズと比較して1ランク高容量化を実現しており、さらに定格リプル電流値は標準品に比べ1.2倍程度許容可能である。本提案により、セット機器におけるさらなる高性能化および最適化に寄与することが可能である。
■導電性高分子アルミ固体電解コンデンサー「PCZ・PCH・PCM・PCLシリーズ」
高温度条件下でも動作する高信頼性が要求される車載用途向けに、業界最高温度となる150℃2000時間保証を可能とした「PCZシリーズ」(写真3)を定格拡大し、昨年10月より市場投入した。これにより導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーがこれまで搭載できなかった超高温度領域でも低ESR化・高リプル対応を図ることが可能となる。導電性高分子をはじめとする構成部材の最適化、アルミ酸化皮膜に対する自己修復能力の改善および封止技術を改良することで、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの特長である低ESR、高許容リプル電流は維持したまま、150℃2000時間保証を可能とした。製品寸法はφ8×7L~φ10×12.7L、定格電圧および定格静電容量は16~63V、12~1000μFをラインアップしている。
また、パワートレイン系ECUがエンジンルーム内に搭載されることが多くなり、耐熱性を有したコンデンサーにも、小サイズ化や定格電圧の拡充などの要求が増えている。
これに応えるため車載用として業界最高レベルの135℃4000時間保証「PCHシリーズ」(写真4)のラインアップを拡充している。開発の際に採用した新技術を、定格電圧16、20、80Vおよびφ6.3のサイズに展開し、さらに最適化を図ることでこれまで未対応の領域にも135℃品のラインアップを可能とした。これにより、高温度環境下においても、低ESRや高許容リプル電流を必要とする用途に合わせた製品を選択できるようになった。
さらに、車載用途および情報通信用途等における長寿命化要求に対応すべく、業界最高レベルの125℃ 8000時間保証「PCMシリーズ」(写真5)のラインアップを拡充している。製品寸法はφ6.3×6L~φ10×12.7L、定格電圧および定格静電容量は16~80V、12~1000μFである。各種部材の最適化を図ることで、従来の2倍である8000時間保証を具現化することを可能とした。これにより高温度環境下においても、長寿命を必要とする用途に合わせた製品を選択できるようになった。
先進運転支援システム(ADAS)、インフォテインメント等の関連機器等における長寿命化要求に対応すべく、業界最高レベルの105℃ 20000時間保証「PCLシリーズ」を定格拡大し、今年10月より上市している。製品寸法はφ5×6L~φ10×12.7L、定格電圧および定格静電容量は2.5~25V、12~3300μFである。これにより、105℃における長寿命を必要とする用途に合わせた製品を選択できるようになった。
上記の製品ラインアップにより105℃から150℃までの幅広い使用温度範囲における用途に合わせた製品を提供し、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの強みである低ESR、高リプル電流、耐久性試験後の安定性を提案している。そこで、高温度対応の125℃対応シリーズでのコンデンサー種類別の特性比較を(表2)に示す。
■今後の展望
自動車の電子技術は年々進化しており、各種電子制御の実現に向け電子部品の小形化・高性能化は必須となっている。また、安全機能や自動運転の開発に伴う自動車の電動化により、コンデンサーの搭載点数は増加し、コンデンサー性能に対する要求もより高度になっていくことが想定されるため、高温度化、高許容リプル電流化、小形・高容量化、長寿命化、耐振性向上等さらなる高性能化が必要である。当社は今後もお客さまの期待に応え、さらなる「ファンづくり」のためさまざまな要求に対して最適なコンデンサーを提供できるよう開発を促進していく。
〈ニチコン(株)〉