2021.10.08 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<60>5Gによるダイナミック・ケイパビリティー④

 今年度から経済産業省の「5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発事業」(事業期間2021年度~23年度)が始まるが、通信業界ではあまり広く知られていないかもしれない。わざわざ「第5世代移動通信規格5G」を指定して「ダイナミック・ケイパビリティー」の先導者としているところも興味深い。

 そこで、同事業の発表資料から事業の目的と概要をひもといてみよう。

 まず、事業目的については、「製造業においては、新型コロナ(中略)のような不測のサプライチェーン寸断リスクが生じた場合においても、(中略)我が国の経済基盤を支える製品に関わるサプライチェーンを維持するためのダイナミック・ケイパビリティの強化が、今後一層強く求められる」という文言から始まる。いきなり「ダイナミック・ケイパビリティ」とあるので、面食らってしまう。

 ダイナミック・ケイパビリティーの能力については本連載「第57回」で解説し、①脅威・機会を感知するセンシング能力②機会を捉えて経営資源を再構成し、競争優位を獲得するシージング能力③持続可能なものにするため、組織全体を変容させるトランスフォーミング能力から構成されることを示した。

無線の本格活用

 さらに発表資料を見ると、「製造現場では、無線通信技術の本格活用により生産ラインの柔軟かつ迅速な制御・組換えを実現することが、『ダイナミック・ケイパビリティ』の強化や省エネ促進に直結する」と書かれている。

5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発事業のイメージ(経済産業省の資料から)

 これは5G無線通信技術によるセル生産方式を指しており、前回解説した「一人屋台生産方式」の実現も視野に入っていると見てとれるだろう。また「本格活用」という言葉には、製造業者自らローカル5Gの免許主体となり、工場内にローカル5Gネットワークを構築するようなニュアンスが込められているようにも思える。

 一方で「省エネ促進」とはどういう意味だろうか。

 第21回気候変動枠組条約締約国会議(COP21)でパリ協定が採択されたことを受け、16年5月13日に「地球温暖化対策計画」が閣議決定された。今回の事業は、この地球温暖化対策計画に基づくものであるらしい。

 その通り、省エネルギー施策として「本事業における研究開発の成果が実用化され製造現場に導入された場合、一部の機器や工程の集約や、個々の生産設備が有する加工機能の単純化等が進むことにより、産業部門における省エネに貢献する」と書かれている。

省エネ効果も期待

 なお、具体的な成果目標として「2030年度において年間413万㌧CO2の排出削減を目指す」とある。確かに、工場の床にはびこる有線ケーブルを無線化すれば発熱量は下がるに違いない。さらに、同じ無線通信技術でも5Gはエネルギー効率が高く、5GのサービスによりCO2排出削減効果があると言われている。

 5Gには、ダイナミック・ケイパビリティーの強化だけでなく省エネ効果も期待されている。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉