2021.10.08 電波の「死角」を液晶でなくせ世界初の「メタサーフェス」開発JDIとKDDI総研、5Gの「福音」めざす

利用のイメージ(提供=JDI)

 5Gの弱点とされる電波の死角。それを解消するため、電波の反射角度を自在に変えられる「反射板」を、ジャパンディスプレイ(JDI)とKDDI総合研究所が開発した。ディスプレイなどで光制御に使われる液晶を、電波の反射制御に応用したもの。このタイプは世界初という。建物のシルエットが変わったり、人の流れが変わったりといった中でも対応できる。研究を進めて実用化を目指す。

 次世代通信規格・5Gで使われるミリ波は、大容量で直進性にはすぐれている一方、到達できる距離が短く、遮蔽物に弱い。ビルの陰などでは通信の質を保ちにくいことが難点とされる。

 これを解消するために、基地局や中継機器などを増設しようとすると、設置場所の確保やコストが課題となる。電波が届きにくい場所(カバレッジホール)をつくらぬよう、基地局からの電波を特定方向に反射させる「メタサーフェス反射板」が注目されている。

 今回開発された反射板は、反射素子とグランド(地板)の間に液晶層を取り入れ、反射素子を電極として兼用。電圧で電気特性(誘電率)を変えることができる。電波はふつうは正反射(入射角と反射角が同じ)するが、反射の具合を調整して、より広いエリアに電波を届けることができる。

 どういう時に役立つか。建物が新築されたり改築されたりして、ビルのシルエットが変わると、電波の死角も変わる。植栽などでも同様だ。また、コンサートや展示会といった場所でも、人の流れは変化する。反射板では、そうした環境変化に対応できるとみられる。試作したサンプルで電波無響室で実験したところ、設定した反射方向へ変更できることを確認できた。

実証の様子(提供=JDI)

 この技術は、ディスプレーを柱とするJDIが、新分野への展開を研究する中で、KDDI総研と協力し、数年前から開発を進めてきた。

 液晶分子は、長軸方向と短軸方向で、電気特性が違い、電圧がかかると分子の向きも変わる。液晶のディスプレーはこの仕組みを活用しているが、今回は、ディスプレーではなく、電波反射にこれを活用した形だ。

 開発現場では特に、反射素子の形状などに工夫を重ねた。液晶にかける電圧で反射の特性を変えるのに際し、最初は動かせる範囲が狭く、自由自在にはできなかった。そこで、素子の形状や配列の仕方を試行錯誤し、任意の方向に反射できる技術を実現した。

 「機構に液晶を使っているのがオリジナルです。電圧を変えることで反射の特性を連続的に変えることが可能。ごく細かい刻みの角度で対応できます」(担当者)という。

 反射板の名は、「方向可変型液晶メタサーフェス反射板」。メタサーフェスとは、自然界にはない反射特性をもつような、人工的な表面のこと。この分野では、ほかにも電機関連などの各社が、競うように開発を進めている。今後も様々な手法が出てきそうだ。

(12日付電波新聞・電波新聞デジタルで詳報を掲載します)