2021.10.15 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<61>5G電波の知見で読み解くノーベル物理学賞

 前回、工場のローカル5Gによる無線化は、ダイナミック・ケイパビリティーの強化だけでなく地球温暖化対策としても期待されていることを述べた。

 その原稿の執筆を終えた直後に地球温暖化予測に貢献したとして、日本人がノーベル物理学賞を受賞したというニュースが飛び込んで来た。その絶妙なタイミングに筆者も驚いた。

 スウェーデン王立科学アカデミーのプレスリリース「ノーベル物理学賞2021」によると「真鍋淑郎は、大気中の二酸化炭素濃度の上昇が地球表面の温度上昇につながることを実証した。1960年代、彼は地球気候の物理モデルの開発を主導し、〝放射バランス〟と〝気団の鉛直輸送〟との相互作用を探求した最初の人である。彼の功績は、現在の気候モデル開発の基礎を築いた」とある。

 ところが大気物理学を知らない人たちにとっては、受賞理由となったモデルがよく理解できないというのが本音だろう。そこで今回は、ダイナミック・ケイパビリティーのテーマから離れ、特別回として「電波の知見」からこのモデルを少し読み解いてみたい。

放射バランス

 まず、宇宙からの太陽放射によって地表が暖められると熱を持った地表から赤外線が放射される。その一部は大気を透過して宇宙へ行くが、残りの放射は大気に吸収されたり、反射したりして地表に戻ってくる。これが、地球温暖化を生む〝放射バランス〟と呼ばれるものだ。

 この赤外線は電波と同じ電磁波で、しかも光より電波に近い性質を持つことを思い出してほしい。30ギガ(10の9乗)ヘルツより高い周波数はミリ波で、300ギガから3テラ(10の12乗)ヘルツまでがサブミリ波となる。おおよそここまでが「Beyond5G/6G」での利用が検討されている電波だ。3テラヘルツを境として光となり30テラヘルツまでが赤外線となる。

 つまり赤外線は、周波数の高い電波が〝大気によって吸収され熱になる〟性質を持っている。それは大気中の分子によっても異なり、例えばローカル5Gでも利用されるミリ波は水蒸気と酸素によって吸収されやすく、赤外線は水蒸気と二酸化酸素によって吸収されやすい。

 そこで真鍋氏は、赤外線の放射が吸収される大気に注目した。〝気団〟と呼ばれる空気の塊が対流によって〝鉛直〟方向(重力とは逆)へ上昇する際に、地表で発生した水蒸気と二酸化炭素(CO₂)を含む温室効果ガスも〝鉛直〟方向に輸送される仕組みを物理モデルに組み込んだ。

 上昇した温室効果ガスによって「気温が上昇→大気中の水蒸気が増加→さらに上昇すると冷却され水蒸気が凝結→大量の潜熱を下層へ放出」という因果関係を導き出した。

真鍋氏の気象モデル(ノーベル財団の資料を元に作成)を読み解く

長時間かけ実証

 真鍋氏は、このモデルを当時のコンピューターで長時間かけ、ガスのレベルを変化させながら実証した結果、CO₂のレベルが上がると、下層大気の温度が高くなることを発見した。CO₂濃度レベルが2倍になると、2度以上も上昇したそうだ。(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉