2021.10.22 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<62>5Gによるダイナミック・ケイパビリティー⑤

 「アフター・コロナは、ビフォー・コロナに戻ると思う?」

 これは、筆者が周りの人へよく投げかける質問だ。新型コロナウイルスの世界的な感染が収束した後は、元の生活やビジネスに戻れるのだろうか? それとも、ニューノーマル(新しい日常)へ移行するのだろうか? という禅問答にも似た逆説的な問いでもある。

 当初は希望的観測もあり、ほぼ全員が「そりゃあ戻らないと困る!」と答えていた。ところが、この一年半で答えが如実に変化してきており、今は「もう戻れない…」と答える人が半数を超えているように思える。

 例えば、クラウドをはじめとしたデジタル技術を活用したテレワークの定常化を就業規則に定めた企業などは、既にオフィススペースを縮小したり売却したりするところも増えていると聞く。また、製造業ではコロナを契機にデジタルトランスフォーメーション(DX、デジタル変革)による変種変量生産への移行の動きも活発になってきているのも事実だ。これはコロナが収束してもデジタル化の波は収束することはない、ということだろう。

競争優位性を確保

 その背景には、IoTによるデジタルデータの収集とディープラーニングをはじめとした人工知能(AI)によるデータ活用が生み出す新たな価値によって、競争優位性を確保する狙いがあるように思える。確かに、競合他社のDXによる破壊的イノベーションが市場を席巻する可能性もあり、それを脅威として捉えた企業はDXの取り組みを本格的に加速させるに違いない。

 さて、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が「5G等の活用による製造業のダイナミック・ケイパビリティ強化に向けた研究開発事業」の公募説明資料を公開している。これは、本連載第60回でも紹介した経済産業省の同事業(2021年度開始、25年度終了予定)を展開するものだ。

 既に公募は終了しているがローカル5G活用による製造業DXへの布石となる事業になるため、2回にわたって解説していきたい。

 まず資料を見ると事業の背景として「我が国製造事業者がサプライチェーンを維持するためには、柔軟・迅速に対応するダイナミック・ケイパビリティを強化する必要がある」と書かれている。これもアフター・コロナの国際経済社会が大きくデジタルシフトすることを見据えたものだ。

 次に、ダイナミック・ケイパビリティーの強化として「5G等無線通信技術の活用により、生産設備等の遠隔での一括最適制御を通じた、加工順の組換えや個々の生産設備の動作の変更等、柔軟・迅速な組換えや制御」と、開発ターゲットが描かれている。

5G等無線通信技術の活用により、生産設備等の遠隔での一括最適制御

最適稼働割り出す

 ここでの「一括最適制御」とは、異なる生産設備(生産ライン、AGVなど)の稼働状況をリアルタイムに把握・分析し、工場全体としての最適稼働の方法を割り出す仕組みとしている。(つづく)

 〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉