2021.10.29 Let’s スタートアップ!ミツモア「見積もり自動化プラットフォーム」で日本のサービス産業の生産性を上げたい

 成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。今回は、地域密着事業者と依頼者をマッチングする自動見積もりプラットフォーム「ミツモア」を運営する株式会社ミツモア。

 「ミツモア」で取り扱われているサービスは、カメラマン、士業、リフォーム、庭木の剪定(せんてい)、クリーニング業など300種以上。「ミツモア」を利用することで、サービスの依頼者は、希望内容に合わせて質問に答えるだけで、複数の事業者からすぐに見積もりをもらえる。一方、事業者は、見積もり作成や決済など煩雑な作業を自動化でき、空いた時間を本業に使うことができる。

 現在「ミツモア」の利用者は急増中。個人投資家やベンチャーキャピタルからも大きな注目を集め、累計10億円以上の資金調達に成功している。創業者の石川彩子さんに、設立の経緯やこれまでの苦労、ターニングポイントとなった出来事などを聞いた。

プロフィール 石川彩子(いしかわ・あやこ) 株式会社ミツモア 代表取締役CEO
東京大学法学部卒業後、ベイン・アンド・カンパニーで戦略コンサルタントとして勤務。その後渡米し、ペンシルバニア大学ウォートン校でMBA取得。シリコンバレーのスタートアップ企業Zazzleでプロダクト開発・マーケティング・ファイナンスを担当。帰国後、2017年2月にミツモアを創業した。

「見積もり」をDX化するプラットフォーム

 家族写真の撮影、庭木の剪定、リフォーム、ハウスクリーニング、車の検査・修理など、日常生活の中では、地域の事業者に依頼することがしばしばある。

 定価が決まっているサービスであれば、すぐに依頼できるが、見積もりが必要なサービスの場合、まず電話などで事業者に連絡し、現物や現場を見てもらった上で、見積もりを出してもらい、依頼を検討することになる。連絡を入れてから見積もりが出るまで数日から数週間かかるものも多く、サービスを受けるまで思った以上に時間がかかることがある。

 こうした見積もりを伴うサービスの生産性を向上しようとしているのがミツモアだ。同社が運営する自動見積もりプラットフォーム「ミツモア」を利用することで、時間がかかっていた見積もりの部分をインターネット上で自動化できる。

「ミツモア」の利用画面

 具体的な仕組みはこうだ。まず「ミツモア」を利用するサービス依頼者は、依頼内容に合わせていくつか質問に答える。すぐに最大五つの事業者の見積もりが提示されるので、その中から希望に合った事業者を選び、チャットで詳細を詰めて正式にオファーする。このようにサービスを受けるまでの時間を大幅に短縮できるのだ。

依頼者向けの利用の流れ

 一方、サービスを提供する事業者は、いったんプラットフォーム上で料金体系を細かく設定すれば、集客や見積もり作業を完全に自動化できる。これまで営業や見積もりにかけていた膨大な時間や労力を本業に回せるようなるため、生産性を向上できる。

 ちなみに、依頼者は「ミツモア」を無料で利用可能。事業者も無料で登録でき、基本的に案件を受注できたときだけ、ミツモアに手数料を支払う仕組みだ。

 こうした依頼者、事業者の双方にメリットをもたらす仕組みが評価され、「ミツモア」の利用者は急増。サービス開始からわずか4年で、取り扱うサービスの種類は、カメラマン、士業、自動車整備・修理、引っ越し、庭の手入れ、クリーニング、Web制作など300種類以上まで増加したほか、累計依頼数は100万件以上、登録事業者数は2万7000社以上、これまでの依頼総額は実に487億円を突破している。

「日本のサービス産業の生産性をあげたい」という思い

 日本のローカルサービス市場に変革をもたらすスタートアップとして、現在急成長するミツモアだが、そもそもどういった経緯で設立されたのだろう。創業者の石川さんは、米国シリコンバレーで感じた「日本のサービス産業の生産性を上げたい」という思いが、起業につながったと話す。

 大学を出た後、私はベイン・アンド・カンパニーという経営コンサルティングの会社に入りました。そこで日本企業のコンサル業務をしていたのですが、日本の経済自体が伸び悩んでいることもあり、「どの会社もすごく苦しんでいる」という印象を持ちました。

 その後、経済が伸び続けているアメリカで、何が経済効果を生み出しているのか知りたいと思い、留学し、そのまま現地のスタートアップで働きました。

 そこでひしひしと感じたのが、経済成長の度合いの違いや、経済に対する楽観的な雰囲気です。アメリカ人の多くが「今日より明日の方が良くなる」と信じていますし、実際に経済も伸びています。

 日本企業が苦しんでいるのを間近で見ていた身としては、やはりこのことが衝撃的で。日本もかつてはアメリカと近いところにいたはずなのに、なぜここまで大きな差がついてしまったのかと真剣に考えました。

 いろいろ調べていくと、日本のサービス産業の労働生産性が低いことが、経済が伸び悩む要因の一つと考えるようになりました。

 日本のサービス産業はアメリカと比べて労働生産性が半分しかないといわれています。つまり、アメリカ人が1時間働いて稼ぐお金を、日本人は2時間働かないと稼げないわけです。

 この状況をどうしたら改善できるのかと考えたときに、思い立ったのがミツモアの設立だったのです。

 ミツモアのミッションは、「事業者の活躍をあと押しし、依頼者にぴったりの価値を届けることで、日本のGDPを増やす」というものです。

 私たちは、このミッションに忠実に、サービス事業者が、本業以外に時間を使っている部分(集客、見積もり、決済など)を改善し、本業に集中できる環境を提供しています。

 一方、依頼者側には、見積もりを簡単に受け取れるようにすることで、発注を促し、どんどん経済活動が活発化することを狙っています。

 これらの仕組みにより、日本のサービス産業の生産性を上げ、日本の経済成長につなげていければと考えているのです。

ミツモアの設立経緯について話す石川さん。米国シリコンバレーでの体験で、もともと抱いていた起業への思いに火が付いたという。

あえてIT化が難しい分野に挑戦した

 ではなぜミツモアは、見積もりが必要なローカルサービスにフォーカスしたのだろう。

 私たちが一番強く抱いていたのは、サービス産業全体に関わることがしたいという思いです。

 そうした中、最も効率化が進んでいない分野はなんだろうと考えたときに、頭に浮かんだのが、見積もりが必要なローカルサービスでした。

 例えば、飲食店や美容サロンなどは飲食店や美容サロン向けの媒体やマッチングプラットフォームがあります。これは、定価があるサービスは比較的ITとの親和性が高く、システムをつくりやすいからです。

 一方、見積もりが必要なサービスの場合は、プロセスが複雑になります。例えば、庭の手入れをするサービスであれば、事業者が庭を見に行き、木が何本あり、芝の広さがどれくらいかといったことを確認し、見積もりを出します。

 こうした複雑なプロセスを挟むサービスはIT化が難しいんですね。でも、効率化が進んでいない分野こそ、改善する意味があります。

 そこで私たちは、難しいことだけど、ものすごく頑張ったらきっとできると信じ、見積もりが必要なローカルサービス向けプラットフォームを開発することにしたのです。

見積もりが必要なローカルサービスにフォーカスした理由を話す石川さん。各サービスの複雑なフローをシステムに落とし込むのは、大変な苦労を伴ったという

ターニングポイントは「ビジネスモデルを変革したこと」

 「ミツモア」の開発を進める中で、石川さんが直面したのは資金をどう工面していくかという問題だった。

 創業当時はずっとお金の苦労が続きました。IT系スタートアップは、ほとんどの会社が先行してお金が出ていくモデルになっています。システムの開発には、優秀なエンジニアを、納得いただけるお給料で、複数人数雇わないといけません。

 さらにビジネスサイドでは、サポートスタッフを雇い入れ、しっかりとしたサポート体制を組んでいく必要があります。

 それらを含め、先行で出ていくお金の方が、入ってくるものよりも圧倒的に多かったのですね。そのため最初の1年半ほどは、お金のことを心配し続けていました。

 ただ1年半から2年目にかけて事業が急速に伸びてくれたおかげで、なんとか会社を続けられました。お金を稼ぐのって本当に大変なんだなと、痛感した時期でした。

 会社設立2年目で一気にユーザー数が増えた「ミツモア」だったが、サービスの依頼数が増える一方で、その受け皿である事業者の数が伸び悩んでいた。この課題の解決に取り組んだことが、大きなターニングポイントになったという。

 需要はどんどん伸びていました。その一方で、サービスの供給側である事業者の数が思っていたペースでは伸びませんでした。

 それを見て、このサービスは世の中に必要とされていることは間違いないけれど、事業者にちゃんと使い続けてもらえるモデルになっていない。ここを変える必要があるのではないかと考えるようになりました。

 そこで着手したのがビジネスモデルの変革です。

 もともと「ミツモア」は、「応募課金」という形で、事業者が見積もりを出すときに課金する仕組みになっていました。ただこれだと、事業者が見積もりを出しても、契約が成立しないと、ただお金だけが出ていく状況が発生してしまいます。

 依頼をたくさん受ける事業者にとっては、ものすごく安い集客媒体として使えますが、そうではない事業者からすると、ただお金を払っているだけの媒体になってしまいます。

 そこで応募課金から、サービスが成約したタイミングで、手数料として事業者にお支払いいただく形に切り替えることにしたのです。

 時期としては、ちょうど2019年の確定申告シーズンを迎えるころで、確定申告の需要が爆発することは目に見えていました。

 そこで税理士さんに向けて、トライアルという形で、ビジネスモデルを切り替えさせてもらい、それがうまく回るのを確認した上で、ほかのサービスにも広げていきました。

 ビジネスモデルの切り替えを進める中で、当然、従来の課金モデルでもうけが出ていた事業者さんからは、「前の方が良かった」という声も上がりました。

 ただ長い目で見ると、明らかに事業者さんが残ってくれる度合いが圧倒的に上がったので、実施して正解だったなと思っています。

これまでのさまざまな苦労に思いをはせる石川さん

求めるのは「日本のGDPを増やしたい」と考える仲間

 ミツモアでは今後、どういった未来図を描いているのだろう。

 今は生活の中で利用するようなサービスを広く扱っていますが、今後は例えばソフトウエア開発の見積もりができるといった、ビジネス寄りのサービスも広く取り入れていこうと考えています。

 全てのサービスの見積もりが「ミツモア」ならばすぐに取れるといったふうにしていきたいですね。

 また現在は、事業者さんの集客と見積もり、決済の部分の効率化を提供していますが、それ以外のオペレーションの部分も含めて効率化できればと構想を練っています。

 最後にミツモアが必要としているものを聞いた。

 私たちが必要としているのは、「日本のGDPを増やしたい(と考える)仲間」です。

 先ほどもご紹介した通り、私たちが掲げるミッションは、「事業者の活躍をあと押しし、依頼者にぴったりの価値を届けることで、日本のGDPを増やす」というものです。

 そのためか当社には、不思議と本気で日本のGDPを増やそうと考えるメンバーが集まってきます。

 みんな自分たちが作っているものに誇りを持っていますし、これがもっと世の中に浸透したら、本当に日本のGDPが増えると信じている人が多い。

 ですから当社はこれからも、「日本の経済を変えるものを作っていくんだ」という気持ちで、一緒に働いていただける方を求めていきます。

(取材・写真:庄司健一)
社名
株式会社ミツモア
URL
https://meetsmore.com/
代表者
石川 彩子
本社所在地
東京都千代田区内幸町1-1-16 NTT日比谷ビル4F
設立
2017年2月8日
資本金
1億円
従業員数
180人(2021年10月1日現在)
事業内容
依頼者と税理士や住宅清掃、カメラマンなど幅広い職種の専門家をつなぐ、見積もりプラットフォーム「ミツモア」の開発と運営