映像やインスタレーション、サウンドを駆使した展覧会「ホー・ツーニェン 百鬼夜行（ひゃっきやこう）」が1月23日まで、豊田市美術館で開催されている。

　ホーは、1976年シンガポール生まれ。出身地のシンガポールは、19世紀に英国領となり、太平洋戦争中には日本の軍政下に置かれた。歴史や伝承を丹念にリサーチし、映像やインスタレーションなど従来のジャンルを横断しつつ、アジア全域の物語を描き出している。

　同展は、「100の妖怪」「36の妖怪」「1人もしくは2人のスパイ」「1人もしくは2人の虎」の4部構成となっている。

100の妖怪

　奇怪で滑稽な百の妖怪たち奇怪かつ滑稽な100の妖怪が練り歩く。第二次世界大戦中にマレーで活動した日本人が妖怪たちの姿を借りて登場。「マレーの虎」の異名をもつ山下奉文(ともゆき)大将と60年代のヒーロー番組「怪傑ハリマオ」のモデルになった谷豊を中心に、暗躍した軍人やスパイ、当時の思想家ら。

　日常の裂け目から現れる妖怪は、魔に魅入られた時代を映し出している。恐怖・好奇心で見られる妖怪は、伝承と科学、自然と超自然、忘却と郷愁の間で、時代とともに揺れ動いてきた。20世紀以降、姿を消した妖怪たちは、今やアニメや漫画の世界で跳梁跋扈（ちょうりょうばっこ）している。妖怪と戦争、日本の文化―過去と現代の交わる地点に、複雑な日本の歴史・精神史を照らし出す。

36の妖怪

　妖怪は、大衆の無意識の現れとされる。欲望や恐怖が現実世界にあふれ、全体が魔に魅入られた戦争の時代はあまたの妖怪をつくり出した。武芸に秀でた天狗、日本兵と戦った狸、行燈の油をなめる化け猫と火間虫入道は、太平洋戦争開戦時にマラヤはじめ東南アジアに石油資源を求めて侵攻した日本と関係している。

1人もしくは2人のスパイ

　行列では、のっぺらぼうのスパイが登場する。1938年、陸軍中野学校が設立。入学した秀才たちはその日から本名を捨て、生き抜いて任務を果たす諜報員となった。44年戦局が悪化するや、ゲリラ部隊を大量教育するための新校舎が静岡県にでき、繰り上げ卒業で戦地に送り込んだ。

　40年、中野学校の出身者ら藤岡岩市少佐を長に南方の秘密工作機関として編成したのがF機関。マレーの虎と呼ばれたのは、諜報員として勧誘された日本人盗賊の谷と、シンガポール攻略時に数の上で圧倒的に優位とされたイギリス軍を打ち負かした、第二十五軍司令官の山下大将。周囲には、戦中戦後、素性を変えたり偽ったりする者もいた。
1枚のスクリーンの表裏にアニメーション/実写、虚構/史実の映像が投影される。

　像が重なったりずれたりと、オリジナルとフィクションの境界があいまいになっている。

1人もしくは2人の虎

　繰り返し登場する2人のマレーの虎。日本の強さの象徴であったが、悲劇的な死を迎えた。虎は、60年代にアジアの人々を植民地支配から救うヒーロー「怪傑ハリマオ」として、また89年には映画「ハリマオ」で軍に利用される哀れな人物としてよみがえっている。

　これから日本の、そしてアジアの虎は、既知と未知の揺れる境界で、どのような姿を見せるのだろうか。
妖怪人気やハリマオがキーワードとなり、20～70代が来場しているという。

　閉鎖的空間でコミュニケーションを繰り返すと、偏った考えが増幅される「エコーチェンバー効果」を表現した妖怪の山彦(やまびこ)を引き合いに、キュレーター・リサーチ・脚本翻訳担当の能勢陽子さんは「斬新な現代アートで表された妖怪を通じて、歴史やアイデンティティを考えてもらえたら」と話す。

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