2022.01.04 カーボンクレジット取引に期待 市場メカニズムのルール合意で

パリ協定6条解説セミナーでは、環境省の担当者らから制度の詳しい解説があった

 温室効果ガスの削減量を国際的に取引する「市場メカニズム」を規定したパリ協定6条の詳細ルールが、国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で合意されたことで、カーボンクレジット取引などの活発化に期待がかかる。環境省は、政策提言などを行う地球環境戦略研究機関(IGES、神奈川県葉山町)と初めてセミナーを共催。企業などに向けて啓発し後押しする。既に海外での事業の展開やノウハウ蓄積に乗りだした企業もある。

環境省、セミナーで啓発

 昨年12月下旬にオンラインで開かれた「パリ協定6条解説セミナー」には650人超の参加があった。

 パリ協定では全ての国が削減目標を持ち、取り組みを進める。6条は削減した量を国際的に移転できることや、その量を各国の削減目標達成に使えることなどを規定。120カ国以上が削減目標で、6条の活用について言及している。

 6条の実施ルールは、国同士の削減量の移転だけでなく、民間企業の自発的な削減の取り組みでも準用される。そのため、セミナーで解説をした同省地球温暖化対策課市場メカニズム室の小圷一久国際企画官は「具体的な脱炭素技術に民間投資が入り、各国の脱炭素成長、経済成長にも貢献する」と強調した。

 グローバルな脱炭素市場や民間投資が活性化することで各国の経済成長にも寄与。世界銀行の報告書では2030年時点で20兆円の市場規模が生まれると見込まれており、6条ルールの実施は「市場からも期待されている」(小圷氏)。

 特に、民間が主導して、企業がサプライチェーンなどのゼロエミッション化に活用するクレジット使用量が増えているという。クレジットの取引量が最も多いのは森林保全や森林劣化を防ぐプロジェクトで、風力発電や太陽光発電が続く。

 実施ルールでは、プロジェクトを実施した国が承認したクレジットだけを削減分として利用できる二重計上防止策が採用された。IGESの高橋健太郎氏は、民間などの炭素市場でも今後、移転する側と獲得した側の二重計上を防ぐ調整を経たクレジットのニーズが高まっていくとの見通しを示した。

豪州でノウハウ集積、燃料脱炭素化に向け

 豪州で活発化するカーボンクレジット取引のノウハウ集積に乗りだしているのは海運国内最大手の日本郵船。同国でクレジット販売を手掛けるAIC社に出資した。燃料の脱炭素化に向けた動きが速まる業界で、移行期に排出される温室効果ガスを相殺するニーズが高まることを見据える。

 AIC社は豪州南東部のニューサウスウェールズ州に本社を置く。21年7月に同社の筆頭株主になった三菱商事から、一部の株式を買い取り共同参画した。

 海運業界では船舶の脱炭素化を進めるため、船舶燃料を重油から、二酸化炭素(CO2)排出が比較的少ない液化天然ガス(LNG)に代替し、さらに燃焼時にCO2を排出しないアンモニアなどに転換する動きが加速している。

 ただ、船舶ではいったん導入されると20年間程度、使用が続く。世界に5万隻超ある外航船舶の中には、ゼロエミッション燃料などが実用化されてもすぐには代替できない船舶が出てくる可能性が高い。移行期には化石燃料で継続せざるを得ないことが想定される。

 こうしたケースでは、排出される温室効果ガスをカーボンオフセットの手法で埋め合わせるニーズが生じてくる。カーボンオフセットは、他の場所でガスの排出削減をしたり、森林整備などで吸収させたりしたクレジットなどを活用し、相殺する手法。こうした取引拡大を日本郵船は見込み、自社船舶での活用や、各地の船舶への支援などを視野に入れる。

 AIC社が手掛けるのは、豪州で失われた原生林などを再生させてクレジットを生み出す事業だ。

 過度に人為的な伐採が進んだり草地の量以上に多い家畜を放牧したりすれば、原生林の消失が進む。AIC社は土地などを所有する畜産農家などと契約して協力。家畜などの回復エリアへの侵入を制限するほか、放牧期間を限定して原生林を回復させる。

 再生できれば、光合成により大気中のCO2を吸収、固定できるため、その分を豪州政府に認証してもらえるという。このクレジットを取引するなどして収益を確保する。AIC社は、「ノウハウのない畜産農家の代理店的な役割を果たす」(日本郵船)。

 豪州政府は、15年以降に合計約3550億円を負担し、クレジットの買い取り制度を構築。市場の取引量は、20年には年間約1600万トンに達し、世界有数の規模に拡大している。

 現状では、クレジットは豪州国内だけで政府や民間が売買、運用しているという。

 AIC社は、将来的に世界のCO2排出量を1億㌧削減させることを目標に掲げる。豪州での事業の拡大や、一部の州でクレジットの買い取り制度が整備されている米国などにも広げていく方針だ。

 日本郵船は「カーボンオフセットのノウハウを蓄積し、買う側だけでなく、売る側のノウハウも収得する。制度の仕組みやマーケットの知見を深めてビジネス展開していきたい」としている。