2022.01.11 【電子部品総合特集】ハイテクフォーカス 京セラ独自「物体認識AI技術」搭載の画像認識型「スマート無人レジシステム」開発

1 小売業が抱える社会課題への対応

 近年、日本国内では、労働人口の減少によりスーパーマーケットやコンビニなどの店舗運営のさらなる効率化、省人化が課題となっている。また、新型コロナウイルス感染拡大防止のために、店舗内での対人接触機会の削減も求められている。

 その対策としてセルフレジや無人AI決済システムの導入が進んでいる。しかし、その導入に当たっては未解決の問題が存在する。例えば、バーコードスキャンが必要なセルフレジでは、利用者の手間が増え精算に時間がかかるという問題がある。また、無人AI決済システムでは、店舗内に多数のカメラの設置が求められ大規模な設備投資が必要となるという問題がある。

 この問題の解決を目指し、京セラ研究開発本部 先進技術研究所では画像認識型「スマート無人レジシステム」を開発した。コア技術である物体認識AI技術には、車載向け画像認識AIカメラの開発における知見が生かされている。開発したスマート無人レジシステムは、利用者の負担を軽減し精算時間を短縮することや、無人レジシステムの導入コストおよび運用コストを抑えることが可能。これにより従来の手法で生じていた問題を解決し、店舗運営の効率化や対人接触機会の削減への貢献を目指す。本システムはCEATEC 2021 ONLINEで発表済みであり、デジタルトランスフォーメーション DX部門 準グランプリを受賞した。

2 システムの特長

(1)重なり合った複数の商品を瞬時に認識

 利用者の手間を減らし精算時間を短縮するためには、複数の商品を瞬時に認識することが求められる。特に、商品の配置が不規則な状態や商品同士が重なり合った状態に対応することが重要となる。

 物体認識AIに用いられる従来手法として深層学習(ディープラーニング、DL)による分類器が挙げられるが、これらの状態に対応し高い認識精度を実現するためには大量の学習データが必要となっていた。学習データにはカメラ画像の撮影と人による正解データの付与が必要となり、その生成には多大なコストがかかる。京セラが独自に開発した学習データ自動生成技術は、コストを抑えながらも高精度な物体認識を可能とする。

 図1に従来手法と提案手法の概略図を示す。提案手法では商品同士が重なり合った状態を含む大量の学習データを生成することが可能である。本技術は2021年7月に開催された国際会議MVA2021(17th International Conference on Machine Vision Applications)にて発表を行った。

(2)商品登録時の学習時間を大幅に削減

 無人レジシステムの運用コストを削減するためには、物体認識AIの学習時間の短縮が求められる。特に、新規商品を登録する際の学習時間の短縮が重要となる。従来手法である深層学習による分類器では、新規商品の登録時に登録済み商品を含む全商品を再度学習する必要があり、多大な学習時間を要していた。京セラが独自に開発したAIアーキテクチャーは、深層学習と古典的機械学習との融合技術を利用した構造とした。

 図2に従来手法と提案手法の概略図を示す。提案手法では深層学習による分類器の末端に、追加学習可能な従来型機械学習による分類器を接続する構造とした。本構造を利用することにより、新規商品の登録時に新規商品だけの追加学習で済むこととなる。結果、従来手法による学習時間が4日間だったのに対し、提案手法での学習時間はわずか15分間となり、学習時間の大幅な短縮を可能とした。

(3)シンプルな構成で簡単に導入可能

 無人レジシステムの導入コストを削減するためには、システム構成の単純化が必要である。既存の無人レジシステムにはICタグ方式および多カメラ方式があるが、ICタグの取り付け費用、多数のカメラの設置費用など、設備投資が必要だった。京セラが提案するスマート無人レジシステムは、図3に示す通り、カメラ1台、ディスプレー1台、パソコン1台、カードリーダー1台のシンプルな構成を実現し、導入コストの低減を可能とした。

3 物体認識AI技術の応用展開

 開発した物体認識AI技術は、小売店舗向けの商品認識のみならず、さまざまな業界における業務効率化に貢献可能である。一例として食堂におけるメニュー認識や生鮮食料品の認識など、さまざまな業界での応用展開例を示す。

 食堂におけるメニュー認識においては、開発した物体認識AIの高い認識精度を生かすことにより、食前と食後のどちらの精算タイミングにも対応可能。食前精算においては、さまざまな料理の盛り付け状態があっても認識でき、また食後精算においては、皿に残ったさまざまな汚れや食べ残しの状態があっても認識できる。

 京セラでは社内社員食堂での実証実験で性能を確認済みである。また、生鮮食料品の認識においては、野菜や果物のような対象物の色や形にばらつきが生じるような場合であっても、同一の物として高精度に認識可能である。さらに、本技術を利用することにより、同一の野菜や果物の中での選別を行う用途でも活用可能である。

 京セラ 先進技術研究所では、今回開発した物体認識AI技術を用いて、さまざまな業界の社会課題の解決に向けて研究開発を推進し、人類社会の進歩発展に貢献することを目指す。

 〈筆者=京セラ〉