2022.01.31 【エンターテインメント総合特集】この一冊「塞王の楯」今村翔吾(集英社)

 第166回直木賞受賞作。堅固な城の石垣を築く石工集団の若者と、それを打ち破ろうとする鉄砲職人が、戦国時代の大津城を舞台にせめぎ合う。

 石垣と砲術に置き換えた「楯と矛」の戦い。どんな城でもあっという間に落とすという砲を巡り「それを使うほど人は馬鹿じゃねえ。泰平を生み出すのは、決して使われない砲よ」「使うのさ。そうすればみんなが知ることになる」「だが一度だ。こちらがどれだけ優れたものを作ろうと、お前らはそれに対抗するものを造ろうとする。いったいどちらが戦を長引かせたのだろうかな」と登場人物らは言葉を交わすが、現代における核や戦術兵器を巡る様相と変わらない。

 著者は作品に寄せて「人が争うのは何故か。争いを始めるのは誰か。それを止める術は本当に無いのか。二度と繰り返さぬ道は--。決して答えの無いこと。それに挑むのが作家という生き物だと、私は思う」とコメントしている。

 著者は1984年京都府生まれ。2017年に「火喰鳥 羽州ぼろ鳶組」でデビュー。「八本目の槍」で吉川英治文学新人賞、「じんかん」で山田風太郎賞を受賞(20年)。元ダンスインストラクターという異色の経歴の持ち主。552ページ、四六判、2200円(税込み)。