2022.02.21 Let’s スタートアップ!KKテクノロジーズ「本当の意味」で長寿命LED電球と「心地よい」と感じる照明演出で市場を開拓

 成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。今回は、大手電機メーカー出身者により、2014年に設立されたKKテクノロジーズ。

 同社は、LED電球寿命のボトルネックとなっている部品をなくした、世界最高水準の“長寿命LED電球”を開発。その製品群は、大型マンションや商業施設を中心に導入が進んでいる。長寿命LED電球開発の背景やターニングポイントなどを、プロジェクトマーケティング(営業)部リーダーの久保美咲さんに聞いた。

プロフィール 久保美咲(くぼ・みさき)・KKテクノロジーズ株式会社 プロジェクトマーケティング部リーダー
航空系の専門学校を卒業後、2015年に空港グランドスタッフの会社に入社。20年にKKテクノロジーズに転職し、現在、プロジェクトマーケティング部リーダーとして活動する。

“本当の意味”で長寿命なLED電球「タフらいと」

 白熱電球や蛍光灯に代わる次世代の電球として、私たちの生活になくてはならないものとなったLED電球。その特徴として、「長寿命」「省エネ」「節電」などの言葉を思い浮かべる人も多いだろう。特に「長寿命」の印象は強く、大半の人が「LED電球は壊れにくい」というイメージを抱いているのではないだろうか。

 しかしLED電球の中には、寿命のボトルネックとなる部品が組み込まれている。電気を蓄えたり放出したりするための電子部品「電解コンデンサー」だ。電解コンデンサーはほぼ全てのLED電球に使われているが、構造上寿命が決まっている上、LED電球のような高温なものに組み込まれると、加速度的に寿命が短くなってしまう。つまり電解コンデンサーの使用が、半永久的に光り続けると言われるLED素子の実力の発揮を妨げ、電球自体の短命化につながっているのだ。

 しかし、一般的に電解コンデンサーを用いることはLED電球設計の基本中の基本とされるため、多くのメーカーは寿命の弱点に目をつぶる傾向にあった。そんな中、LED電球の寿命の問題と真正面から向き合ったメーカーがある。大手電機メーカー出身者により設立されたKKテクノロジーズだ。

 KKテクノロジーズは、多くの技術者が「不可能」と考えていた電解コンデンサーを取り除いたLED電球の開発に着手。放熱性能の鍵を握る胴体部分に超高級アルミニウム合金を用いるなど放熱構造にもこだわり抜いた結果、“本当の意味”で長寿命なLED電球「タフらいと」の開発に成功した。一般的なLED電球の寿命が約4万時間と言われる中、「タフらいと」はその7倍以上、実に約30万時間もの長寿命を実現している。

KKテクノロジーズが開発した電解コンデンサーを使わないLED電球「タフらいと」
「タフらいと」は一般的なLED電球の寿命の7倍以上、約30万時間もの長寿命を実現している

 現在KKテクノロジーズは、長寿命LED電球の開発・提供にとどまることなく、人が「心地よい」と感じる色みの長寿命LED電球も開発し、提供を始めている。さらに大型マンションや店舗、商業施設などに向けた空間演出を含めた照明の提案にも着手するなど、ビジネスの幅を拡大しながら成長を続けている。

LED電球寿命のボトルネックを解消したい

 堅調に成長するKKテクノロジーズだが、どのような経緯で設立されたのだろう。久保さんは、代表の加賀谷史央氏が抱いた「人類が経験したことがないほど長く光り続けるLED電球を作りたい」という思いが、会社設立の原動力になったと話す。

 代表の加賀谷は、もともとパナソニックの営業マンとして働いていました。当時は、LED電球が出始めたころで、「壊れにくい」「長く光る」さらに「節電もできる」といううたい文句に乗せられ、どんどん世の中に売り出されていました。

 ただ加賀谷は早い段階から、もう少し改良すれば、LED電球はもっと性能が良くなると考えていました。LED電球の電気回路に組み込まれている「電解コンデンサー」が、LED電球の寿命を制限していることに気付いていたのです。

 電解コンデンサー自体は一つ数十円ほど。当時のLED電球は、この安価な部品が一つ壊れただけでつかなくなってしまい、本来の実力を発揮できずに捨てられていました。

 加賀谷はこの状態を「すごくもったいない」と感じ、国内外の技術者に「電解コンデンサーを使わずにLED電球ができないか」と相談してまわったそうです。しかし、電解コンデンサーを使わずにLED電球を開発することは非常に難しかったため、ほとんどの技術者からの答えは「NO」でした。

 そんな中、ようやく一人の技術者の口から「できる」という答えを聞くことができました。その技術者とは、加賀谷の元同僚であった北島敏朗です。

 北島はパナソニックで数多くのヒット商品を生み出した技術者でしたが、当時すでにパナソニックを退職し不動産業を営んでいました。しかし東日本大震災に端を発した省エネ商品の品質の悪さを嘆いており、加賀谷の相談に応じることを決意したそうです。

 二人は試行錯誤の末、ついに電解コンデンサーを使わないLED電球の仕組みを生み出すことに成功します。これを機に、加賀谷、北島、二人のイニシャルを掲げたKKテクノロジーズを設立するに至りました。

「本当に良い商品をお客さまに届けたい」というこだわりが、長寿命LED開発の根底にあると話す久保さん

「壊れにくい」では売れない…!?

 真に「長寿命」なLED電球の提供を目指し設立されたKKテクノロジーズだったが、加賀谷氏は事業が軌道に乗るまでさまざまな苦労を経験することになる。

 電解コンデンサーを使わないLED電球の開発に成功した加賀谷は、「長寿命」を前面に押し出し、当社のLED電球をアピールしていきました。しかし、当初は残念ながら、全く売れなかったと聞いています。

 理由は二つ。一つは、LED電球はそもそも「壊れにくい」イメージが定着していたため、LED電球を買い替えるという発想がお客さまの中になかったこと。

 もう一つが信用度の低さです。大手有名メーカーならいざ知らず、当社のような無名のメーカーが「従来のLED照明の何倍も長く光り続けます」とアピールしても、なかなか信用されません。加賀谷が「長寿命」を力説すればするほど、「だまそうとしているんじゃないか…」と怪しまれる結果となったのです。

 「長寿命」が世の中に受け入れられなかったことを受け、加賀谷は当時とても落ち込んだと聞いています。ただ、そんな中で「お客さまが欲しいのは光」だということに気が付きます。

 実は当時、光の美しさでは従来の白熱電球の方が上質で、LED電球の光は白っぽく、冷たい印象になると言われていました。そこで加賀谷は、例えば食べ物がおいしく見えるような光や、部屋の中に温かみを感じられるような色みのLED電球の開発に着手します。

 そんな矢先に、マンションの管理会社から「LED電球って、実は壊れるんじゃないか」という声が上がり始めました。マンションのエントランスなどに使われるLED電球は24時間つけっぱなしにされるケースが多く、ほかの用途に比べ劣化が早いため、「LED電球が思った以上に早く壊れる」ことにマンションの管理会社が気付き始めたのです。

 あるマンションの管理会社から相談を受けた当社は、ただ単にLED電球を換えるのではなく、マンション全体の空間演出も手掛けることを提案しました。

 お客さま側がLED電球をどう活用していいのか迷っておられるようでしたので、空間デザインも含め、マンション改修のお手伝いをさせていただこうと決めたのです。

 結果、そのマンションの管理会社さまからはとても喜んでいただきました。これを機に当社では、空間演出も含めた照明の提案を行うようになりました。すると、徐々に事業が軌道に乗り始め、今ではマンションのほかに、店舗、商業施設など、さまざまな場所で私たちのLED電球を導入いただいています。

 ちなみに当社はLED電球のメーカーではあるのですが、「電球の取り付け」という最後の部分まで見届ける方針をとっています。提案から施工までを一貫して引き受けているところもお客さまに喜ばれている点です。

「LED電球単体ではなく、空間演出も含めた提案を行うようになったことで、事業が軌道に乗り始めた」と久保さん

コミュニケーションスキルを存分に生かせる場

 ここで少し、久保さん自身がKKテクノロジーズをどう見ているのか聞いた。

 私は以前、日系航空会社のグランドスタッフをしていました。空港にチェックインしたお客さまのお荷物をカウンターで預かるなどの業務を担当していました。

 大きな会社でキャリアを積むのも楽しかったのですが、これから発展するスタートアップで一緒に会社を作り上げていくことにも魅力を感じ、一昨年KKテクノロジーズに転職してきました。

 畑違いの仕事ではありますが、前職で培った会話力や、お客さまが求めることを素早くに察知する力などは存分に生かせるので、個人的にはあまり前職とのギャップを感じることはありません。

 今の会社のお客さまには、マンションの管理会社さんをはじめ、いろいろなバックグラウンド、業種の方がいます。照明に詳しい方もいれば、そうじゃない方もいて、そこは前の仕事と似ていると思います。その点も前職の経験を生かせていると感じています。

 またKKテクノロジーズでは、照明を使った空間演出を提案するところから実際に取り付けるところまで担っており、私はそのプロセス全体を担当しています。良いところも悪いところも、お客さまの声を直接聞くことができ、すごく貴重な経験をさせてもらっていると思っています。

 私個人としては、たとえこれから会社が大きくなっていっても、お客さまとのコミュニケーションを重視する姿勢は、会社の軸として持ち続けてほしいなと考えています。

空港のグランドスタッフだった久保さん。KKテクノロジーズは、前職で培ったコミュニケーションスキルを存分に生かせる職場だという

「照明」に限定せず、多様な技術の活用を目指す

 ビジネスの幅を拡大しながら成長を続けるKKテクノロジーズだが、この先どのような未来図を描いているのだろう。

 現在、多くの人は、同じ色みの照明のもとで一日を過ごしていると思います。今後はこれが、例えば朝方は白い色の照明ですっきり目覚めて、夜は暖色系の色みの照明でリラックスして過ごすといった形に変わっていくと思います。

 これは当社でもすでに着手している技術ですが、季節や時間帯に応じて、空間全体の色味が自動で変わり、人が「心地よい」と感じながら過ごせる。そんな照明になっていくと思います。近い将来的、そうした照明をお客さまに提供できればと考えています。

 また、現在当社はテレビドラマなどの撮影業界からも引き合いをいただいており、実際にあるテレビドラマで当社の照明が使われました。まずは日本国内の撮影現場で使っていただき、ゆくゆくは海外にも進出していければと構想しています。

 ちなみに当社の社名は「KKテクノロジーズ」です。「KKライティング」という社名にしなかったのには、「照明だけでなく、多様な技術を応用して使っていこう」という思いが込められています。

 今後は照明だけに限定せず、どんどん新しいアイデアや技術を吸収し、応用していければと考えています。

今求めているのは「共鳴」

 最後にKKテクノロジーズが求めているものを尋ねると、久保さんからは「共鳴」という言葉が返ってきた。

 われわれは照明には詳しいのですが、良い空間を作るには、例えば大学の先生の知見や、別の専門家の方の協力も必要になると考えています。

 われわれの考え方や取り組みにご賛同いただき、“共鳴”していただける方がいれば、ぜひご一緒したいです。

 いろんな協力者との共鳴で、波紋がどんどん広がり、その周りにはお客さまがファンとしていらっしゃる。そんな世界観を実現できればと思います。

(取材・写真:庄司健一)
社名
KKテクノロジーズ株式会社
URL
https://kktech.co.jp
代表取締役社長
加賀谷 史央
所在地
東京都小金井市中町4-14-11アサノビル2階
設立
2014年1月6日
資本金
6250万円
従業員数
15人(2021年12月現在)
事業内容
省エネ効果の高いLED照明を中心とした、エレクトロニクス製品全般の開発および販売