2022.04.15 【5Gがくる】ローカル5G簡単解説<83>5G×ディープラーニング=DXになる④

 デジタルトランスフォーメーション(DX)に活用する人工知能(AI)を学ぶ際、甘利俊一著『神経回路網の数理』(産業図書)を参考にしている人は少ないだろう。ましてや、国際標準図書番号ISBNがまだ付与されていない昭和53年初版本を所蔵している人は珍しいと思う。筆者はその一人である。

 AIや5G、DX書籍執筆の際、同書を参考にしている。紙は色あせているが、内容はDXをけん引するディープラーニング(深層学習)のバイブルとして、今もなお輝きを放っているからだ。

眉根を寄せる光景

 7年ほど前、第三次AIブームが日本へやってきた頃、都内の至るところで「ディープラーニングセミナー」が開催されていた。そのいくつかに参加したとき、受講者の〝眉根を寄せる光景〟が多く見られた。

 同僚であろうか、「分かるか?」「……。難しいことは分かる」というささやきも聞こえてきた。その理由は、講師を若い研究者が努めており、ビジネスパーソンには難解な数学(行列・ベクトル)とプログラミング(Python言語)を用いて解説していたからだ。

顔の特徴を抽出しながら学習する能力

 受講者の多くはディープラーニングが解決するビジネス課題は何か、製造現場に活用して何ができるか、を期待していたはず。まさに講演はかゆいところに手が届いていない感じだった。

 そこで筆者は学生時代に学んだ『神経回路網の数理』と脳生理学の本を書棚から取り出し、「数式・Python言語なしでわかるディープラーニング入門書」の原稿を書き始めた。

 脳の基本的な仕組みをベースにしながら神経回路網(ニューラルネットワーク)の学習能力を図と例え話で説明してあげればディープラーニングが理解しやすくなると、老婆心ながら思ったからだ。

 例えば、脳の神経回路網は数多の神経細胞(ニューロン)が複雑に絡み合っており、全体として統計的な振る舞いをすることが知られている。その一つに画像認識がある。顔認識の場合は網膜に映る人の顔など、入力されたパターン分布から規則性を発見し、顔全体の輪郭や目、鼻、口などの輪郭、配置といった顔の特徴を抽出しながら学習する。

 この場合、ニューロンの階層が深くなればなるほど、膨大な情報から背景や衣服、皮膚など大半の不要な情報を捨て、画像認識に必要なごく一部の本質(エッセンス)だけを捉えて学習するようになる。この神経回路網をコンピューターで模倣したのが、ディープラーニングだ。

層の数を増やす 

 画像認識の精度を高めるためには層の数を増やす必要がある。代表的な16層から人間の画像認識能力を超える152層まで、層数の増加に伴い大量のトレーニング(訓練)データが必要となる。

 よく使われるデータセットでは、1400万枚以上の画像データを転送するため超高速な「ローカル5G」が必要だ。このように5Gの必要性を訴求するには、4K/8KやVR(仮想現実)/AR(拡張現実)といったユースケース(利用シーン)だけでなく、AI&ロボットの核となるディープラーニングを、数式・Python言語なしで解説する必要がありそうだ。(つづく)

〈筆者=モバイルコンピューティング推進コンソーシアム上席顧問。グローバルベンチャー協会理事。国士舘大学非常勤講師・竹井俊文氏〉