2022.05.13 【この一冊】「メタバース さよならアトムの時代」加藤直人(集英社)/「世界2.0 メタバースの歩き方と創り方」佐藤航陽(幻冬舎)

「メタバース さよならアトムの時代」

「世界2.0 メタバースの歩き方と創り方」「世界2.0 メタバースの歩き方と創り方」

 メタバースを巡る新刊ラッシュ。言葉が躍っている感を抱く方も少なくないだろうが、読み比べることで、多層的に見えてくるものがありそう。企業の研修などさまざまな場面で活用が広がり、次の「スマホ」とも呼ばれるテーマ。今回は、共に1980年代後半生まれの起業家でもある著者の新刊から。

 「メタバース さよならアトムの時代」の加藤氏は、京大院中退後、約3年間の引きこもり生活を経て、2015年にスタートアップ「クラスター」を起業した異色の若手経営者。17年にVRプラットフォーム「cluster」を公開している。同書はむろん、若手経営者の視点からではあるが、メタバースの歴史的な流れや現在の位置づけなどにも目配りし、概観できるような内容になっている。

 一方、「世界2.0 メタバースの歩き方と創り方」の著者・佐藤氏は、早大在学中に株式会社メタップスを設立した。東証マザーズ上場を果たし、その後もAI研究開発プロジェクトなどに従事。フォーブスの「日本を救う起業家ベスト10」にも選ばれている。本書では、NFTやAI、宇宙開発などにも絡めて、「新しい世界」の将来像を多面的に予測しているのが特徴。どちらかいえば「未来」に焦点を当てている印象だ。

 くしくも両者とも、日本はコンテンツの豊富さ、独自のカルチャーなどの強みがメタバースで生かせると説く。セキュリティーなどの課題を含め、やや楽観論、性善説に傾いているようにも思えるが、日本の立ち位置への議論には、特に意を強くする読者も多いだろう。

 「メタバース~」は272ページ、「世界2.0~」は284ページ。共に1650円(税込み)。