2022.08.12 世界初、ドローンで「空飛ぶ牛の受精卵」移植北海道上士幌町で実証に成功

受精卵の入ったポットをドローンの箱に入れる(上士幌町JA全農ET研究所前)

受精卵を搭載したドローンが上士幌町JA全農ET研究所を離陸受精卵を搭載したドローンが上士幌町JA全農ET研究所を離陸

受精卵が入った箱を届けて飛び去るドローン(熊谷牧場牛舎前)受精卵が入った箱を届けて飛び去るドローン(熊谷牧場牛舎前)

 『ドローンが、日本の食料問題を救う』。北海道上士幌町とJA上士幌町、ドローン配送のNEXT DELIⅤERY(山梨県小菅村)の3者は共同で、世界初となるドローンを活用した「空飛ぶ牛の受精卵」移植実証に成功した。(冷凍保存しない)新鮮卵を迅速に農家宅に配送することで、乳牛を借り腹とした和牛受精卵移植による子牛生産増大が期待される。

 実験では、JA全農ET研究所(北海道上士幌町)の協力のもと、ET研究所で採卵された牛の受精卵(冷凍保存されない新鮮卵)をドローンで上士幌町内の農家宅に配送し、移植する実証を行った。牛の受精卵のドローン配送は世界初となる。

 日本の肉牛生産現場では、構造的な子牛供給不足が深刻化している。そうした中で、和牛の子牛供給手段として、乳牛を借り腹とした和牛受精卵移植(ET=エンブリヨ・トランスファー)による子牛生産の重要性が増している。ET研究所は早くから、この受精卵供給体制を構築し、JAと一体となって和牛生産基盤を支えてきた。

 一般的な受精卵移植は凍結・保存した受精卵を使用するが、冷凍や解凍の課程で受精卵が損傷を受けると受胎率が低下してしまう。一方、新鮮卵は安定した受胎率が得られるが、採卵当日の移植が必要で、採卵・流通・利用の面から広域流通が困難だった。ドローン配送は、受精卵を迅速かつ安全に輸送することで、これらの課題解決につながることが期待されている。

 今回の実験では、ドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況の評価と、従来のナイタイ高原牧場へ牛を運び新鮮卵を移植する方法、あるいは農家が自ら研究所に受精卵を車で引き取りに行く方法と、ドローンを活用し農家庭先に輸送する方法を比較し、輸送にかかる農家の手間やコストなどを比較してドローン配送の有効性を検証した。

 その結果、ドローン配送による温度管理・振動・配送後の移植状況は問題ないレベルで、実用に耐えると確認された。また、輸送時間が少なく振動が少ないほど受胎率は向上し、仕事の効率化にもつながる、家畜防疫上も良い、などの結果が得られた。最近は畜産業界でも少子高齢化による人手不足が深刻なため、業務のDX化による生産性向上も期待されている。

 3者は今後、実用化に向け、今年度中に違う季節に複数回の実証を行う予定。

 実証実験には、NEXT DELIⅤERYの親会社で次世代ドローンのスタートアップ企業であるエアロネクスト(東京都渋谷区)がACSLと共同開発した日本発の量産型物流専用ドローン「AirTruck」が使用された。

 上士幌町は北海道十勝地方に位置する人口約5000人の自治体で、東京23区より広い約700平方メートルの広大な面積を持つ。全国トップレベルの酪農業を軸に、バイオマスガスの再エネ発電や、ICTを活用した福祉バスのデマンド運行、買い物弱者向けドローン配送など、さまざまな社会課題への取り組みが評価されている。