2022.09.28 【関西エレクトロニクス産業特集】関西でも産学連携が加速 最先端技術や製品、競争に打ち勝つキーに

村田製作所が14日、みなとみらいイノベーションセンターで開催した共創プロジェクト「KUMIHIMO Tech Camp with Murata」説明会のデモの様子

 エレクトロニクス分野に限らず、各分野で企業と大学との協業、共創が活発になっている。企業は社内だけでなく、社外、特に専門的領域で多くの知見を蓄積する大学と連携し、新技術、新製品、新システムの開発を急ぐ。大学も開かれた大学改革を進め、研究成果の社会実装に取り組む動きが加速している。

 目まぐるしい技術革新の中で、開発スピード、社会実装スピードが企業力アップ、ひいては国力アップに直結することが明白になっている。

 中でも関西は、多くの優れた大学を有し、産学連携が古くから企業活動の中に取り込まれてきた。企業創業者と大学研究者との協業、共創によって、世界有数の企業になった例は枚挙にいとまがない。特にグローバル競争が熾烈(しれつ)な最先端技術や製品では、産学連携が競争に打ち勝つキーになることが少なくない。

 官もこうした産学連携を後押しする形で産学官連携による共同研究成果、共創が進む。企業のニーズと大学のシーズがうまく融合し、社会課題の解決、カーボンニュートラルの実現に向けた関西の産学連携事例を紹介する。

各社の事例紹介

協創イノベーション

ダイキン工業が阪大と進める人流検知と連動した空間のエネマネと快適性を両立するシステムの実証実験

 ダイキン工業は、将来の成長を見据え、自前主義から脱却し、産官学との連携を深め、新たな価値を創出する協創イノベーションの実現に挑戦している。

 産学連携については、国内外の多くの大学と協創関係を構築、人材交流を深めている。

 このうち東京大学、京都大学、大阪大学、同志社大学、鳥取大学とは、包括連携協定を結んでいる。

 各大学と同社の強みを生かした研究プロジェクトを多数立ち上げ、協定期間中に10億~100億円程度の資金も投入、先進技術を用いた新しい価値を生み出す機器・システムなどの社会実装を目指している。

 各大学とは「空気」や「空間」の価値を高める機器・システムや空調事業関連の新材料、新プロセス、加工技術の開発、環境分野での素材開発・工法開発など多岐にわたる研究プロジェクトを走らせている。

 例えば、2021年4月に開校した大阪大学外国語学部新箕面キャンパスでは、スマートキャンパスを先導する空気空間のデザインと大規模なエネルギーマネジメントの実証を多面的に進め、成果を上げている。

スタートアップと

 世界的な電子部品メーカー村田製作所は14日、一般向けには販売していないセンサー、通信モジュールなどの電子部品を大学やスタートアップに提供。従来は困難だったアイデアの実現を目指すプロジェクト「KUMIHIMO Tech Camp with Murata」をスタートさせた。

 みなとみらいイノベーションセンター(横浜市西区)でリアルとオンラインのハイブリッドで開催した同プロジェクト説明会で、同社の岩坪浩取締役専務執行役員で技術・事業開発本部長、医療・ヘルスケア機器統括部担当は「私たちが思いつかないようなアイデアを出してほしい。大風呂敷でもいいので事業化の案も歓迎する」と参加した大学、スタートアップに呼びかけた。

 さまざまな糸からなる「組みひも」のような共創を目指して、11月から23年1月に募集し、書類審査やプレゼン審査を経て、採用した先と連携を進める。

 8日には、関西電力と大阪公立大学がカーボンニュートラルのさらなる推進を目指し、包括連携協定を締結した。大阪公立大学のキャンパスにおけるカーボンニュートラルの実現に向け、エネルギーマネジメントや再生可能エネルギー、未利用エネルギーの利活用などの検討を進める。相互に情報や意見の交換に努め、緊密に連携し協力していく。

 翌9日には、名古屋大学、大阪大学、東北大学、奈良先端科学技術大学院大学の共同研究グループが、東洋アルミニウムの特殊ペーストをシリコン単結晶基板に印刷、数分間の熱処理で、高品質なシリコンゲルマニウム半導体を作製することに成功したと発表した。

 超高効率多接合太陽電池の化合物半導体薄膜太陽電池を作製するには、高価なゲルマニウム基板上に複数の化合物半導体薄膜太陽電池を重ねなければならなかった。この課題を安価なシリコン単結晶基板に特殊ペーストを印刷、熱処理することにより高品質なシリコンゲルマニウム半導体を形成し、解決した。宇宙などで使用する超高効率多接合太陽電池の製造コストを10分の1以下にできるとみている。

医療分野で提携

 計測・医療機器の島津製作所も産官・産学連携には積極的だ。今年になっても依然として医療分野での提携発表が目立っている。

 1月に慈恵大学と臨床分野での5カ年の包括連携協定を結び、自社の技術を最先端の臨床分野で応用する。

 具体的には同社の分析計、臨床検査装置、画像診断装置などを慈恵大の臨床で使用するほか、共同研究の促進、人材育成などを慈恵大傘下の東京慈恵会医科大学や同付属病院、健診センターなどで進めていく。

 同社は京都大学発のベンチャー企業「リジェネフロ」にも出資、iPS細胞を用いた腎疾患の細胞療法開発に技術面と資金面で協力することになった。

 リジェネフロは1月に島津製作所を含め12社から約14億円を資金調達、iPS細胞由来ネフロン前駆細胞を有効成分とする細胞医薬の実用化に取り組む。

 また、同社は医学分野の予兆検知技術の共同開発を、香川大学発のベンチャー、メロディ・インターナショナル(MI)、京都大学、熊本大学とともにスタートさせた。

 4者はMIの心拍変動解析技術と島津製作所の心電デバイスを組み合わせ、妊産婦の「うつ」の発症・重症化の防止を目的にした「妊娠うつ・産後うつ」の予知検知技術を開発する。

 創薬分野では、世界最小の発光酵素「picALuc(ピカルック)」を東京工業大学と共同開発し、23年までの製品化を目指す。

 ピカルックの創薬や診断・検査などの用途開発に向けて協力した企業や研究機関には、サンプル(試供品)を供給する考えだ。

 メンタルヘルス分野では、同社は九州大学とヒューマン・メタボロ-ム・テクノロジーズ(HMT)が取り組む血液検査によるうつ病の診断補助技術の実証実験に参画することで、企業におけるメンタルヘルスの早期発見を目指す。

包括協定と寄付講座

 日本電気硝子は、6月に滋賀県立大学とガラス工学の分野で7期目となる包括協定の期間延長と寄付講座の継続で合意した。

 両社は07年に第1期の協定を締結、3年ごとに更新、今回の締結は28年までの3年間。

双方はガラス工学分野で共同開発とガラス技術者の人材育成に乗り出すほか、滋賀県立大に日本電気硝子の寄付講座を置く。

 日本電気硝子は第1から3年ごとに1億円を寄付、第7期までの寄付総額は7億円になる。