2022.09.28 【汎用インバーター特集】カーボンニュートラルに貢献高性能
「脱炭素社会」の実現に重要な役割を担う汎用インバーター
カーボンニュートラルの達成に向けて世界各国が動き始め、産業界でも関心が急速に高まっている。FA各社は、産業用モーターと組み合わせて設備を最適に動かすことで大幅な省エネを実現でき、カーボンニュートラルの達成に重要な役割を果たす産業用インバーターの普及に取り組んでいる。
産業用インバーターのうち、駆動する交流モーターが75kW以下のインバーターを「汎用(はんよう)インバーター」と呼んでいる(経産省機械統計分類準拠)。冷蔵庫やルームエアコンなど家電製品にも電子回路として組み込まれているが、産業用とは区別している。
資源エネルギー庁によると、工場やビルなど産業用モーター(主に三相誘導電動機)の日本国内における普及台数は1億台を超え、消費電力量は、日本における産業部門の消費電力量の75%、消費電力量全体の約55%を占めるとされる。モーターの消費電力を少なくすることは、CO₂の削減につながる。
産業用モーターは交流で動き、回転数は周波数と相関関係にあることから、このままモーターを回すと回転数は一定になる。産業用インバータ-は、モーターを動かす交流電源の周波数を負荷に応じた回転数に制御することで、効率的に省エネを実現する。
エレベーター、エスカレーター、クレーン、ファン、ポンプ、工場の生産設備・搬送装置など、さまざまな産業分野で用いられている。FA各社では「カーボンニュートラルに貢献する省エネ機器」に位置付け、新たなビジネスチャンスとして普及に取り組んでいる。
例えば金属加工機は、対象物をモーターで高速回転させながら切削加工などを行う。その際、インバーターが対象物の形状、硬度などに合わせてモーターの回転数を切り替えることで最適な加工を実現する。エレベーターを停止階でゆっくり停止させるためにインバーターが用いられ、オフィスの空調温度を自動的に調節する場合も空調機のモーターにインバーターを組み合わせている。
あるメーカーの試算によると、ビルなどの空調においてインバーターを使用すると、使用しない場合に比べて電力料金は約4分の1に低減できるという。
インバーターは交流電源をいったん直流に変換(コンバーター回路)した後、再度、スイッチングにより交流に変換し、周波数と電圧を自在に変える。スイッチング素子は、現在はIGBT(絶縁ゲートバイポーラートランジスタ)が用いられるが、次世代パワー半導体デバイスと呼ばれるSiC(シリコンカーバイド)や、GaN(窒化ガリウム)を採用した製品も増えてきた。
産業用インバーターは高速応答、人工知能(AI)技術搭載による設備停止の要因解析、予兆保全機能の搭載など進化を続けている。
インバーターの主要部品であるスイッチング素子の出力電流・出力周波数をモニタリングすることで、異常を予知する予兆保全機能や、モーターの異常発生時に直前の出力電圧・出力周波波形を記録するトレースバック機能、AI技術による過電流などでの設備停止の要因解析、IoTやスマートファクトリーに対応した産業ネットワーク通信機能など、新たな機能が付加されてきた。
安川電機の戦略と主力製品
安川電機は、グループの環境ビジョンとして「YASKAWA ECO VISION」を掲げ、2050年に同社グループのグローバルの事業活動に伴うCO₂排出量を実質ゼロ(カーボンニュートラル)にする取り組みを進めている。この目標の実現の一環として、創業以来100年にわたり培ってきたモーター技術・パワー変換技術を活用したモーターや、インバーターなど省エネ製品の供給を通じ、カーボンニュートラルの実現に貢献する。
同社は1974年に世界初のトランジスタインバーターを出荷して以来、21年1月には累積出荷台数3000万台を達成した。モーター制御を強みとしてベクトル制御、デジタル制御、IGBT駆動など、これまでに世界に先駆けたドライブ技術を搭載したインバーターを数多く製品化してきた。
インバーターGA700/GA500
機械装置・設備を高付加価値化
現在は高性能インバーターGA700、小型高性能インバーターGA500を主力製品として売り上げを伸ばしている。GA700は、新モーター制御による高効率化、周辺機器を取り込んだシステムのコストダウン、世界中どこでも使える優れた環境適合性で機械装置・設備の高付加価値化を実現する。
GA500は、同社独自のPMモーター用アドバンストベクトル制御技術により、センサーレスでPMモーターの磁極位置を検出、運転することで、ゼロ速度100%トルクを出力可能にした。インバーターによるモーター制御を通じて、機械の稼働状況を高速でモニタリングし、これらの情報から高い生産効率、高い品質、機械・設備の異常予兆検知を実現し、止まらない生産を実現するCBM(コンディション・ベースド・モニタリング)の提案も広げている。
このほか、高力率電源回生マトリクスコンバーターU1000、高力率電源回生コンバーターD1000、電源回生ユニットR1000、PMモーターと組み合わせ、さらなる省エネも実現する。
PMモーターでは、小型化を徹底的に追求し、冷却ファンレスにより最大70%の業界最薄のモーター長と、全容量において世界最高効率であるIE5(国際電気標準会議=IECが定めるモーターのエネルギー効率に関する国際規格)を達成した、エコPMモーターフラットタイプを今年3月に市場投入した。小型高機能インバーターGA500と組み合わせることで、全負荷においての総合効率が向上する。