2022.10.06 【自動車用電子部品技術特集】自動車用アルミ電解コンデンサーの最新技術動向 ニチコン
【写真1】チップ形アルミ電解コンデンサー「UBHシリーズ」
はじめに
近年、自動車を取り巻く環境は大きく変化しており、環境問題意識の高まりから脱炭素化に向けて内燃機関から電動車(xEV)への移行が急速に進められている。さらに、安全性能向上に向けた先進運転支援システム(ADAS)に関わる安全関連技術や自動運転機能を搭載した自動車の開発が加速しており、それら機能の実現に不可欠な自動ブレーキ、画像認識、センサー関連機器の開発も進んでいる。
このような車載用途で使用されるコンデンサーに対しては高信頼性品の要求が増えており、小形・高容量化、高許容リプル電流化、低ESR化が求められている。
また、内燃機関を併用した自動車では48V電源を含めたハイブリッド化や各種油圧駆動機器の電動化による排出CO₂量削減が進められており、電子回路が高温環境であるエンジンルーム内へ設置される事例が増えるとともに、増加する電力消費量削減の観点で、回路電圧の高圧化の動きも進んでおり、高温過酷環境への対応、定格電圧の高電圧化に対する要求も増えている。
以下に車載用途向けアルミ電解コンデンサー、導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーおよび導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの最新技術動向について解説する。
アルミ電解コンデンサー
150℃高温度長寿命低温ESR規定品「UBHシリーズ」
電子回路を高温環境のエンジンルーム内に設置するために、搭載部品の高温度化ニーズが高まっている。車載対応における主な要求事項は、小形・高容量化、低ESR化、長寿命化が挙げられるが、当社では定格温度105℃・125℃をメインとしてさまざまなシリーズをラインアップし、対応してきた。今後、エンジンおよびエンジン駆動周辺ECUへ対応するに当たり、より過酷な高温度環境への対応が求められる。そこで、当社は超高温度対応に向けた開発を進め、150℃1,500~2,000時間対応の「UBHシリーズ」【写真1】を開発した。
本製品は、これまで当社が培ってきた高容量化、低抵抗化、高信頼性化技術を駆使しており、150℃環境下に対応する低比抵抗・低蒸散性電解液の採用や封止設計の最適化、電極箔(はく)の高倍率化および収容面積拡大により、現行の150℃1,000時間品「UBCシリーズ」から約2倍の高容量化を達成するとともに、高い信頼性特性を実現している。この150℃1,500~2,000時間対応品は、当社独自のラインアップであり、ケースサイズはφ8×10L、φ10×10Lの2サイズ、定格電圧および定格静電容量は25V・35V、100~270μFである。【表1】に示す通り、現行品に対して1.2~2.1倍の静電容量を収容できることから、エンジンルーム内へ搭載される機器の小形化、軽量化、員数削減、高性能化に貢献する。
導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサー
125℃4,000時間 高容量品「GYFシリーズ」
導電性高分子ハイブリッドアルミ電解コンデンサーは、導電性高分子と電解液の2種類の電解質を採用することで、導電性高分子の特長である低ESR性能と優れた高耐熱性能に加え、電解液によるアルミ酸化皮膜修復性能を有している。これにより、アルミ電解コンデンサーに比べて低ESR化、高許容リプル電流化、長寿命化が可能であり、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーに比べて漏れ電流が低いことを特長としている。当社は125℃4,000時間保証標準品のGYAシリーズと比較して1ランク高容量化を実現したGYEシリーズを2021年に市場投入しているが、今回、GYAシリーズと比較して2ランク高容量化を図ったGYFシリーズ【写真2】を開発した。
GYFシリーズは、高容量電極箔および薄手化セパレーターを採用することにより高容量化を実現している。また、信頼性はGYAシリーズと同等性能を維持し、125℃4,000時間の耐久性と85℃85%RH.2,000時間の耐湿性能を保証する。現行品との定格静電容量・定格リプル電流比較を【表2】に示す。同一サイズで高容量化を達成、さらに、定格許容リプル電流値はGYAシリーズと比較して最大1.44倍が許容可能であることから、コンデンサー員数削減によるユニットの軽量化・小形化、回路設計のさらなる高性能化に貢献する。
導電性高分子アルミ固体電解コンデンサー
「PCZ・PCH・PCM・PCLシリーズ」
高温度条件下でも動作する高信頼性が要求される車載用途向けに、業界最高温度となる150℃2,000時間保証「PCZシリーズ」【写真3】を定格拡大して量産中。導電性高分子をはじめとする構成部材の最適化、アルミ酸化皮膜に対する自己修復能力の改良および封止技術を向上することで、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーがこれまで搭載できなかった超高温度領域でも低ESR化・高リプル電流対応を維持したまま、150℃2,000時間保証を可能とした。ケースサイズはφ8×7L~φ10×12.7L、定格電圧および定格静電容量は16~63V、12~1,000μFをラインアップしている。
また、パワートレイン系ECUがエンジンルーム内に搭載されることが多くなり、冷却ファン停止時のホットソーク条件でも対応可能な耐熱性を有したコンデンサーに対して、小形化、低背化や省電力化に伴う高耐電圧化などのさまざまな要求が増えている。これに応えるため車載用として135℃4,000時間保証「PCHシリーズ」【写真4】のラインアップを拡充した。
PCHシリーズに向けて開発した新技術を、定格電圧16、20、80Vおよびφ6.3のケースサイズに展開するとともに最適化を図り、135℃品のラインアップを具現化した。これにより、高温度環境下においても、低ESRや高許容リプル電流を必要とする用途に合わせた製品を提供できるようになった。
車載用途および情報通信用途等で増加している長寿命化要求に対応すべく、業界最高レベルの125℃8,000時間保証「PCMシリーズ」【写真5】のラインアップを拡充している。ケースサイズはφ6.3×6L~φ10×12.7L、定格電圧および定格静電容量は16~80V、12~1,000μFである。各種部材の最適化を図ることで、従来の2倍である8,000時間保証を実現、125℃以下の高温度環境下でより長寿命を必要とする用途に最適な製品を提供可能になる。
先進運転支援システム、インフォテインメント等の関連機器等における105℃での長寿命化要求に対応すべく、105℃20,000時間保証「PCLシリーズ」を定格拡大している。製品サイズはφ5×6L~φ10×12.7L、定格電圧および定格静電容量は2.5~25V、12~3,300μFである。
これらの製品ラインアップにより105℃から150℃までの幅広い使用温度範囲における用途に合わせた製品を提供し、導電性高分子アルミ固体電解コンデンサーの強みである低ESR、高リプル電流、耐久性後の安定性、高温度下での長寿命を提案している。そこで、超高温度対応の150℃対応シリーズでのコンデンサー種類別の特性比較を【表3】に示す。
今後の展望
車載電装システムの世界市場は2030年には42兆円台の市場規模に達すると予想されており、拡大傾向にある。今後の注目市場としては「ADAS」や「自動運転システム」「ドライバーモニタリングシステム」などの安全関連技術や自動運転機能の分野が挙げられており、より小形・高性能な車載対応電子部品の需要が高まることが予想される。それに伴い、コンデンサーのさらなる高性能化が必要となり、小形・高容量化はもちろん、長寿命化、高温度化、大電流対応化などの実現が急務となる。当社は今後もお客さまの要求に対して迅速かつ最適なコンデンサーを提供できるよう、開発を進めていく。〈ニチコン(株)〉