2022.10.07 Let’s スタートアップ!Radiotalk 音声配信サービス「Radiotalk」が創り出す 「話で人を楽しませる人」が報われる世界

 成長が著しいスタートアップ企業を取材し、新しいビジネスの息吹や事業のヒントを探る「Let’s スタートアップ!」。今回は、誰でも「声」だけで始められる音声配信アプリ「Radiotalk(ラジオトーク)」を提供するRadiotalk。

 「Radiotalk」の配信者(Radiotalkの場合、おしゃべりで人を楽しませようという人)は、ライブ配信や収録配信によって、自身が生み出す音声コンテンツをリスナーに提供し、熱量の高いコミュ二ティーを形成することで収益を得ることができる。またリスナーは、毎日配信されるお笑い、雑談などの音声コンテンツを楽しみながら、配信者との双方向のコミュニケーションを楽しめる仕組みとなっている。

 配信者は既に10万人を突破し、中には年間1000万円以上もの売り上げを達成する配信者も登場している。Radiotalk社の創業者である井上佳央里さんに、サービス誕生の経緯や会社設立の狙い、未来予想図を聞いた。

プロフィール 井上佳央里(いのうえ・かおり) Radiotalk 代表取締役 / CEO
大学で放送を専攻した後、2012年にインターネット事業を運営するエキサイトに入社。17年8月に社内ベンチャー制度で、「Radiotalk(β版)」をリリース。19年3月にXTechの子会社として設立されたRadiotalkの代表取締役に就任。

コンテンツ配信の世界に「音声」のジャンルを切り拓く

 通勤や家事の合間などに、YouTubeやTikTok、Instagramなどのコンテンツ配信プラットフォームを楽しむ人が増えている。コンテンツで気に入ったものがあると、その配信者をフォローする人も多い。一方、配信者側は、フォロワーやファンを獲得することで広告収入などを増やし、中には「プロ」として専業で食べていけるようになる人もいる。

 こうしたコンテンツ配信プラットフォームの世界に、「音声」という新たな領域を切り開こうとしているのが、Radiotalk社だ。

 同社が提供しているのは、スマートフォンで誰でも簡単に始められる音声配信サービスアプリ「Radiotalk」。配信者は、リアルタイムに配信できる「ライブ配信」か、録音した音声を配信できる「収録配信」を選び、音声コンテンツを配信できる。音声には、簡単な操作でボイスチェンジなどのエフェクトや効果音を入れ、コンテンツを“盛る”ことも可能だ。また、「12分」という制限時間を設けることで、音声配信に慣れていない人でも挑戦しやすいよう工夫されている。

 一方、リスナーも、ただコンテンツを聞くだけではない。ライブ配信中には、「わかりみ」「推せる」「草」「なんでやねん」といった気持ちを表せる有料スタンプを、投げ銭(ギフティング)できる。配信者の収益にもつながるリアクションを取りながら、共にコンテンツを盛り上げることができるのだ。

 こうした配信者とリスナーが熱量の高いコミュニティーを形成できる仕組みが、多くのユーザーを集める呼び水となり、22年には、「Radiotalk」の配信者は10万人を突破した。「Radiotalk」のみで生計を立てる「ラジオトーカー」と呼ばれるプロ配信者も複数現れ、年収1000万円を超えるラジオトーカーも登場している。

「Radiotalk」の画面イメージ(画像提供:Radiotalk社)

サービス誕生のきっかけは「音声デバイス」の台頭

 ユーザーが急増する「Radiotalk」だが、そもそもどのような経緯で生まれたサービスなのだろう。Radiotalk社の代表取締役 井上さんは、サービス誕生の契機として、17年ごろの「GAFA各社による新しい音声デバイスの開発競争」を挙げる。

 「Radiotalk(β版)」は、17年に誕生しました。当時は国内でスマートスピーカーが登場したり、Apple社のAirPodsが発売されたりして、世の中がパソコン(PC)・スマートフォンに変わる新しいデバイスを模索する中で、GAFA各社からスマートスピーカーなどの新しい「音声デバイス」が登場し始めたころでした。

 そのころ私は、エキサイトというインターネット事業を運営する会社でブログサービスを開発していました。マーケットが変化する中で、考えたこと、感じたことを投稿したいというニーズ自体はこれからもあり続けるだろうとは感じていましたが、そこで使うデバイスや媒体がアップデートしていくだろうと考えていました。

 そうした中で、「音声を発信する」というサービスが、コンテンツ配信の新しいプラットフォームになり得るのではないかと思い立ち、17年8月にエキサイトの社内ベンチャー制度でリリースしたのが、「Radiotalk(β版)」です。

 ただ、この手のユーザー投稿型のサービスは立ち上がりに時間がかかるため、どうしても数億円の資金が必要になります。そのため、エキサイト社内の一事業部という、与えられた予算の中では、どうしても限界が生じると感じていました。

 そこで、エキサイトの親会社であるXTechの子会社としてカーブアウト(事業の一部門を切り出し、独立すること)する形で、外部資本金を入れ、19年3月に設立したのが、Radiotalk社です。

 ちなみに、エキサイトはもともと伊藤忠商事の子会社だったのですが、18年に、XTechがTOB(株式公開買い付け)し、XTechの傘下に置き換わっています。

 さらに私は、以前から個人として、XTechの代表で投資家兼起業家の西條晋一氏の勉強会に参加しており、起業家の視点を与えてもらっていました。

 そうした流れやタイミングの良さもあり、カーブアウト自体はとてもスムーズに進みました。

「Radiotalk」とRadiotalk社誕生の経緯について説明する井上さん

テレビにはない「ラジオ」の魅力にどハマりした

 では井上さんが、音声コンテンツに興味を持ったきっかけは何だったのだろう。

 音声コンテンツとの出会いは高校生のとき。YouTubeやニコニコ動画で、芸人さんMCのラジオコンテンツを聴いたのが最初のきっかけです。その後、大学で放送学科に入り、ラジオ制作に携わったことで、音声コンテンツへの興味がさらに膨らみました。

 大学ではスタジオでディレクターをしたり、70年代、80年代の音源を図書館のライブラリーで聞いたりなどし、音声コンテンツの面白さにどんどんのめり込んでいきました。

 ラジオの現場では、小さなスタジオで、カメラもない中で、少人数でしゃべったことを録音します。出演者も素を出せるというか、気の合う友達と電話でしゃべっているような感覚で、テレビとは違う、独特の面白さを提供できると感じていました。

 ただそんなラジオ業界に、私自身が就職するかというと、やはり難しいなと感じました。これから伸びるマーケットで戦っていきたいと考え、当時成長していたインターネットでコンテンツを作る会社、エキサイトに入社したという経緯になります。

 とはいえ、おしゃべりのコンテンツが面白いことには確信がありましたから、ブログサービスの開発に携わりつつも、心のどこかではいつか音声コンテンツをしたいという思いを抱いていました。

 そんな中で先ほどお伝えした、17年ごろの音声デバイスの台頭が起こり、やるなら今だと考え、行動に移したという流れになります。

学生時代はラジオの魅力にどっぷりハマった、と話す井上さん

会社作りは、ものづくり

 ちなみに井上さん自身は、もともと「自分で会社を興したい」という考えを持っていなかったという。

 あまり経営者になりたいとか、経営をやりたいという気持ちは持っておらず、良いプロダクトを作って、社会に影響を与えたい、社会を変えたいという気持ちの方が強かったです。

 そのため、私自身は必ずしも代表という立場にこだわっているわけではありません。ただ「Radiotalk」を大きくするためには、会社を設立し、私が代表になり投資家などを味方にしていく方が、成功に近づくことが逆算で分かったので、代表を務めているという形です。

 実際に会社を興して感じるのは、会社づくりも、やはり「作ること」で、ものづくりと同じだということです。特に採用だったり、株主に事業を説明したりといった“人”に関わる部分は、ものづくりの根幹で、「面白い」と感じることの方が多いですね。

“自分”でリソースを拡大していくことに戸惑いも

 会社設立後に井上さんが感じた苦労は、どういったことだろう。

 「リソースを“自分”で取りに行き、広げる」という発想を体に染み込ませるのに苦労しました。

 会社の一事業部としてサービスを運営していると、予算や人員に制限がある中で、何ができるかを考えるようになります。

 もちろんそれはプロダクトマネジャーの姿勢としては正解だと思いますが、会社を設立した後は違います。制限の中だけで考え続けていると、いつまでも事業がスケールアップしません。

 今持っている資金力を自分でさらに大きくし、人員も自分で広げていく。決められた中でつくっていくのではなく、広げていく方向に発想を転換させることに、最初は戸惑いがありました。

 幸いにも私は、起業家や経営者のコミュニティーに参加し、諸先輩方の話を聞くことができました。その中で、先人がつくってくれた経営の“型”のようなもの吸収し、実践していくことで、対応することができました。

起業家や経営者のコミュニティーに参加し、先人の“型”を学ぶことで、会社設立当初の戸惑いを払拭したという

大きなオフィスは持たず、完全なリモート環境を目指す

 Radiotalkで実施予定の社内制度についても聞いた。

 今二つの取り組みを考えています。

 一つが「エンタメ手当」。これは、「Radiotalk」運営に携わる正社員には、毎月5000円程度の手当が出るというもの。漫画でも演劇でもゲームでも何でもよいので、自分がエンタメコンテンツを楽しむために使うことができます。

 世の中には、いろいろなところにヒントがあるはずです。普段自分が興味を持っていないジャンルも含め、いろいろなエンタメに触れ、トレンドを知り、引き出しを増やしてもらうための手当です。

 もう一つが「機材手当」です。これは、エンジニアや技術職の人は1人当たり約60万円まで、ビジネス職はもう少し上限が下がりますが、リモートワークの機材を自由に選べるというものです。

 当社はオフィスを大きく構えるのではなく、完全にリモート環境で成り立つようにしていく予定です。

 というのも、「Radiotalk」というプロダクトは、世界中の人々と青春のようにはしゃぎ合うといった世界観を持つものなので、アジア圏、オーストラリア、ニュージーランド、日本国内など時差のない範囲で、エリアの枠にとらわれず、さまざまな方の雇用を生み出したいと考えているのです。

 リモートワーク環境を最大限上げるためにはどうすればよいのかと考えたときに、例えば、節約のためにPCの性能を抑えたことで、動きが固まるといったことが起こると非効率です。そこで機材手当を支給し、業務効率最優先の機材選びができるようにと考えているのです。

 つまり私たちは、オフィスの設備代や土地代に投資して、大人数を採用していくのではなく、大きなオフィスはない、その代わりに少数精鋭で、一人一人が良い機材で、高品質のアウトプットを出せる道を進んでいくということです。

オフィスは持たず、リモートで高品質なアウトプットを出せる環境を構築していくという

「おしゃべりで人を楽しませる人」が報われる未来を

 では「Radiotalk」の未来像はどのように描いているのだろう。

 まずは、しゃべることを職業にする「ラジオトーカー」を増やしていきたいです。今は数人ですが、3年後には、数百人ほどにはなっている状態を目指したいです。またそれに伴い、数十万人が毎月アクティブに「Radiotalk」を使っている状態にしていきたいですね。

 今、エンタメ業界の中で少しずつクリエーターが報われる環境が整いつつあります。以前であれば、例えば漫画家さんは、出版社や流通・版元などが間を介していて、本人の手取りはわずかでした。あるいは音楽アーティストであれば、作詞・作曲をしても、数%しか戻ってこないといったビジネスモデルでした。

 それがインターネットの普及により、直接本人に収益が届くという仕組みができつつあります。こうした流れを、「おしゃべりで人を楽しませている人」にも届けたい。例えば、これまでラジオパーソナリティーと呼ばれる人たちの中で、ギャランティーだけで生活できる人は限られていました。

 「Radiotalk」をさらに進化させることで、「おしゃべりで人を楽しませる人」が、社会的にも経済的にも報われる世界を作っていければと考えています。

求む。協同でアプリ開発を楽しめるエンジニア

 最後に、RadioTalk社が今必要としているものを聞いた。

 私たちが今必要としているのは、「協同を大切にするアプリエンジニア」です。

 当社では今、アプリエンジニアを募集していますが、エンジニアというと、人と会って話すことがあまり得意じゃないという方が少なからずいらっしゃると思います。

 ただ当社が今求めているのは、チームワークを持って、メンバーと共にアプリ開発を楽しめるタイプの方です。そういう意味で、「協同を大切にする」という言葉をつけさせてもらいました。

 当社メンバーとアプリ開発を楽しめるアプリエンジニアの方と共に、「Radiotalk」をさらに盛り上げていければと思います。

(取材・写真:庄司健一)
社名
Radiotalk株式会社
URL
https://radiotalk.jp
代表取締役
井上 佳央里
本社所在地
東京都港区南麻布 3丁目20-1 Daiwa麻布テラス5階
設立
2019年3月1日
資本金
1億5,393万6,280円(2022年8月時点)
従業員数
25人(インターンなど含む)
事業内容
音声配信プラットフォーム事業