2023.01.11 【電子部品総合特集】ハイテクフォーカス ニチコン 小形リチウムイオン二次電池の最新技術動向 高い入出力密度の「SLBシリーズ」
■小形リチウムイオン二次電池の概要
2019年に市場投入した小形リチウムイオン二次電池「SLBシリーズ」(写真1)は、負極にチタン酸リチウム(LTO)を採用することによって、電気二重層キャパシター(EDLC)やリチウムイオンキャパシター(LIC)に迫る高い入出力密度を実現。20Cレート(※1)での急速充放電を可能にしている。
また、高レートで数万サイクルもの充放電を繰り返しても容量劣化が小さいという高耐久性を備え、マイナス30度環境下においても動作可能な優れた低温特性を持つ。短絡や劣化の原因となるリチウム金属の析出が発生しにくく、発火・発煙の危険性が極めて低い安全な蓄電デバイスである。
これらの特長からSLBシリーズは、環境センサーをはじめとするエネルギーハーべスティングと組み合わせた各種IoTエッジデバイス用電源として最適なリチウムイオン二次電池である。
※1 Cレートは電池容量(公称容量)に対する充電または放電電流値の比率のこと。
(例)1C=1時間で充電または放電できる電流値。0.5C=2時間で充電または放電できる電流値。
■製品ラインアップ、放電特性
22年12月現在の製品ラインアップは、最小サイズが直径3ミリメートル、長さ7ミリメートルで公称容量0.35mAh、最大サイズが直径12.5ミリメートル、長さ40ミリメートルで公称容量150mAhまでの5サイズをそろえている。また、サイズによっては横置き可能なLフォーミング品をリード加工バリエーションに新たに追加し、基板実装時の利便性を高めている。
これらのサイズバリエーションと、優れた放電特性を組み合わせることで、BLE通信からLoRaWANやLTE-MをはじめとするLPWA規格に相当する通信時の電流負荷までカバーすることができる。
22年11月に新たに追加した直径4ミリメートル、長さ25.5ミリメートルで公称容量4mAh品のCレート特性を一例として紹介する。
一般的なリチウムイオン二次電池の場合、低レート充電(例‥0.5Cレート)、中レート放電(例:1Cレート)での使用例があるが、SLBシリーズは、充電/放電ともに20Cレートに達する高レートでの急速充放電が可能という特長がある(図1)。
■IoTエッジデバイスの通信モジュールに最適な大電流パルス放電特性
さらに、SLBシリーズは瞬時に大電流を放出するパルス放電特性にも優れる。図2に直径8ミリメートル、長さ11.5ミリメートルの公称容量14mAh品を用い、満充電状態から大電流間欠放電(電流値1.0A、パルス幅1.5s、周期10s、繰り返しサイクル10回)させた際の電圧変化を示す。
約70Cレート相当の大電流パルス放電であるが、大きな電圧ドロップは発生せず、10回目放電終了時の電圧もSLBシリーズ下限電圧の1.8Vから余裕があることが分かる。
各サイズの最大充電電流は20Cレートと規定しているが、放電においては短時間であれば規定電流を超える高レート放電にも対応でき、データ送信などの際に瞬間的な大電流が要求されるIoTエッジデバイスの通信モジュール用途や、電源バックアップ用途などにも使用可能である。
※本結果は性能保証をするものではなく、20Cレートを超える放電用途での使用検討をされる場合は別途、お問い合わせをお願いします。
■エネルギーハーべスティングとの組み合わせに最適な極低レート充電特性
また、SLBシリーズは、前記の高レート充放電特性のほかに、極低レートでの充電でも効率よく蓄電できる特長を有する。図3は直径3ミリメートル、長さ7ミリメートルで公称容量0.35mAh品において極低レート充電した際の充電カーブの一部抜粋である。25度環境、1/3500Cレート(100nA)という極低レート充電においても約90%の高効率で蓄電が可能であり、例えば太陽光発電や振動発電などのようなエネルギーハーベスタからの微弱電流を蓄電するのに最適である。
■エネルギーハーベスティング評価ボードの開発
これまで述べてきたような優れた電池特性を有するSLBシリーズの評価を簡便に行えるように、エネルギーハーベスタを接続するだけでシステム用電源が構成できる評価用ボードを開発した(写真2)。
ハーベスタは直流出力(太陽電池など)・交流出力(振動発電など)問わず接続でき、高効率パワーマネジメントICを介して、SLBシリーズに蓄えたエネルギーを直接または3.3V/5Vに昇圧したものを負荷に接続して使用する。SLBシリーズ全サイズに対応しており、使用するハーベスタや負荷回路に最適な設定をスイッチで簡単にカスタマイズできる仕様としている。
■今後について
ニチコンの小形リチウムイオン二次電池・SLBシリーズは、上記のような優れた充放電特性を有しているだけでなく、サイクル特性、低温特性にも優れておりエネルギーハーべスティングと組み合わせたIoTエッジデバイスに最適である。
当社では市場からの要求に応えるため、現在のカテゴリー温度範囲マイナス30~プラス60度の拡大として80度対応品の開発を進めており、5月からサンプル対応の予定である。民生用途のみならず、産業機器関連でも使用でき得る耐久性を目指しており、より一層の用途拡大を進めていく。
〈筆者=ニチコン〉