2023.01.11 【電子部品総合特集】ハイテクフォーカス ローム アプリケーションの小型化・高速スイッチングを実現するGaNソリューション

GaN HEMT「GNE10xxTBシリーズ」

GaNデバイスの特性を最大限引き出す

市場動向

 SiC(シリコンカーバイド)デバイスとともに注目されているワイドバンドギャップ半導体の一つであるGaN(ガリウムナイトライド)デバイスは、従来のSi(シリコン)デバイスと比較して、単位面積当たりのオン抵抗を大幅に削減できる。また、同じオン抵抗製品においてチップサイズを小さくでき、スイッチング損失も大幅に低減できる。

 SiCデバイスが、より高耐圧・大電力対応に向けて進化を続ける一方、GaNデバイスはより高周波駆動へと進化しており、アプリケーションによる使い分けが進む(図1)。

 例えばLiDAR(ライダー)搭載のアプリケーションなどでは、狭パルス信号によって、より高精細な画像を得られるシステムを構築するために、高周波駆動できるGaNデバイスの適用が最適であり、市場導入が始まっている。

8Vゲート耐圧の150V GaN HEMT「GNE10xxTBシリーズ」の概要

 ロームの省エネ・小型化に寄与するブランド「EcoGaN」としてラインアップしたGaN HEMTの「GNE10xxTBシリーズ」は、独自の構造によりゲート・ソース定格電圧を一般的な6Vから8Vまで高めることに成功した(図2)。

 これにより、スイッチング時に6Vを超えるオーバーシュート電圧が発生した場合でもデバイスが劣化しないため、電源回路の設計マージン向上および高信頼化に貢献する。また、大電流対応かつ放熱性にも優れる汎用(はんよう)性の高いパッケージで製品化しており、実装工程でのハンドリングを容易にする。次にGNE10xxTBシリーズ(以下、本製品)の具体的な機能とその効果を紹介する。

独自の構造によりゲート・ソース定格電圧を8Vまで拡大

 一般的な200V耐圧以下のGaN HEMTは構造上ゲート駆動電圧5Vに対して、ゲート・ソース定格電圧が6Vであり、その電圧マージンが1Vと非常に狭い。デバイスの定格電圧を超えると劣化や破壊など信頼性に関する問題が発生する可能性があり、ゲート駆動電圧には高精度の制御が必要となるため、GaN HEMT普及の大きな課題となっていた。

 本製品はこの課題に対して、独自構造を採用することでゲート・ソース定格電圧を一般的な6Vから業界最高(2022年12月現在、ローム調べ)の8Vまで高めることに成功した。これによりデバイス動作時の電圧マージンを拡大、スイッチング時に6Vを超えるオーバーシュート電圧が発生した場合でもデバイスが劣化しないため、電源回路の高信頼化に貢献する。

大電流対応かつ放熱性にも優れたパッケージを採用

 本製品は、信頼性・実装性に対する実績が確立されている大電流対応かつ放熱性に優れた汎用性の高いパッケージを採用しており、実装工程でのハンドリングを容易にする。

 また、銅クリップ接合のパッケージ技術を用いて寄生インダクタンス値を従来パッケージから55%低減したことで、高周波動作を想定した回路設計時にGaN HEMTの性能を最大限引き出すことができる。

GaN HEMTの性能を最大限引き出すソリューション

 高速駆動可能なGaN HEMTの特性を最大限引き出すには駆動するゲートドライバーICも高速でなければならない。ロームでは、GaN HEMT駆動用に1チャンネル高速ゲートドライバーIC「BD2311NVX-C」のサンプル提供を開始している。BD2311NVX-Cは、最小入力パルス幅1.25ns(Typ.)に対応しており、その入力信号に対する出力遅延が3.4ns(Turn-on)/3.0ns(Turn-off)と極めて小さい。

 また、独自の制御技術でゲートへのオーバーシュート電圧を抑制できるため、GaN HEMTの駆動に最適である。さらに、EcoGaNと同様、面実装パッケージの採用により、基板実装しやすい製品となっている。

 GaN HEMTとGaN HEMT駆動用ゲートドライバーICによるソリューションは、LiDAR向けレーザーダイオード駆動のほか、基地局・データセンターをはじめとする産業機器や各種IoT通信機器の電源回路など、GaNデバイスの特徴を生かした高周波動作のDC-DCコンバーターなどにも適用できる。

設計をサポートするリファレンスデザイン

 ロームでは、GaN HEMT(EcoGaN)、GaN HEMT駆動用ゲートドライバーIC、半導体レーザーダイオードのデバイスを組み合わせたLiDARのレーザー駆動に関するリファレンスデザイン「REFLD002」を開発し、設計情報を公開している(図3)。

 LiDARの用途は、車の自動運転のみならず産業用途・インフラ用途に大きく広がっており、リファレンスデザインとして提供することでLiDARの特性向上(距離、分解能)に貢献する。

おわりに

 ロームは今後も、市場のニーズを先取りしながら、注力するパワーデバイスとアナログデバイスのすり合わせ技術をさらに進化させ、アプリケーションの省エネ・小型化に寄与することで、社会課題の解決を目指していく。

 〈筆者=ローム〉