2023.01.11 【電子部品総合特集】電子部品各社に聞く23年の経営戦略 電波新聞社アンケート

 電子部品メーカー各社は、2023年に向け、成長市場での事業拡大に努めるとともに、中長期視点での新規市場や新規事業開拓への取り組みを加速させる。各種の事業環境変化への対応を考慮した社内体制再構築にも力が注がれる。電波新聞社では主要電子部品メーカーを対象に、「23年の経営戦略」に関するアンケートを実施した。それによると、23年の電子部品市場は年間トータルでは成長が見込まれ、各社の23年度事業計画も積極姿勢が目立つ。アプリケーション別では、自動車関連を軸に、FA・産業機器や医療・ヘルスケア、通信インフラ、エネルギー関連などの分野での事業拡大を目指す。BCP(事業継続計画)対応や脱炭素化への取り組みなども重視されている。

6割弱の20社が「増」、5社「減」

2023年の電子部品需要

 「23年の電子部品需要」(22年比、金額ベース)についての質問では、回答35社中、6割弱の20社が「増」と回答。うち11社が「10%未満の増」と予想した。「横ばい」は7社で、「減」と回答した企業も計5社に上った。

 2023年の電子部品市場は、22年後半以降の民生機器関連をはじめとする部品需要停滞や、中国景気の低迷、高インフレを背景とする欧米でのリセッション懸念などから、不透明感も増しているが、22年との比較では成長を予想する企業の方が多い。

「139~135円」が最多、予測難しい

23年前半の円相場の予想(対ドル)

 2022年は春以降、急速な対米円安が進行し、22年10月には一時、1ドル=約152円をつけるなど、為替面では歴史的な年となった。電子部品メーカー各社の22年度期初時点の想定為替レートは1ドル=115円前後としていた企業が多かったため、春以降の大幅な円安進行で各社の輸出事業の採算性が好転し、売り上げや利益の押し上げにつながった。一方で原材料の輸入コスト上昇など、円安による相応のマイナス影響も受けた。

 「23年前半の為替相場についての予想」(対ドル)では、回答35社中で最も多かったのは、「139円~135円」とした13社。それに次ぐのが「134円~130円」の12社となっている。

 22年はインフレの加速に対処するため、米FRB(米連邦準備理事会)が予想を上回る急激な政策金利引き上げを実施。その結果、大幅なドル高が進行したが、23年はFRBの利上げペースは鈍化が見込まれている。一方で22年12月には日銀による金融政策の一部変更があり、その後急速な円高が進んだ。23年の為替相場も当面は予測が難しい状況が継続することが予想される。

「10%未満の増」が44%占める

23年度の売上高目標

 各社の「23年度の売上高目標」(22年度見込み比)を聞いた。回答32社中、最も多かったのは「10%未満の増」とした14社で、全体の44%を占めた。全体では「増」と答えた企業が計23社に上り、全体の7割強に達した。「20%以上の増」とした企業もみられている。

 一方、「減」とした企業は計3社にとどまった。

 2023年の電子部品のグローバル需要は、22年と比較すると特に23年前半はやや厳しい市況が予想されているが、各社は成長マーケットや成長する顧客へのアプローチを通じた事業拡大を図ることで、23年度も成長の継続を目指す。

8割が「増」、2ケタ以上は16社

23年度の営業利益目標

 「23年度の営業利益目標」(22年度見込み比)では、回答32社中、「増」と答えた企業が計25社と全体の約8割に達し、うち16社は「2ケタ以上の増」と回答し、「20%以上の増」とした企業も9社を数えた。「横ばい」は4社で、「減」と回答したのは3社にとどまった。

 各社は増収効果に加え、事業構造改革を通じた収益性改善などにより、2023年度も積極的な収益拡大を目指す。

投資対象は「新製品関係」が55ポイント

23年度の設備投資計画

 「23年度の設備投資計画」(22年度見込み比)は、回答33社中、最も多かったのは「前年並み」と答えた16社。次いで「多少増額する」が8社、「大幅に増額する」が7社となっている。全体では、「増額する」とした企業が計15社と4割以上に達した。

 各社の設備投資は、2021年度はコロナ禍により不要不急の投資を抑制する動きも一部見られたが、全体としては高水準が継続し、22年度も旺盛な部品受注に対応するため積極投資を実施している企業が多い。

 23年度については、先行きの市場見通しがやや不透明のため、前年度比横ばいを計画する企業が多いが、設備投資金額の水準自体は高水準となる見通しだ。

 「主な投資対象項目」(複数回答)では、最も多かったのは「新製品関係」の55ポイント。以下、「工場の自動化・省力化」48ポイント、「海外工場の開設、拡張」42ポイント、「国内工場の開設、拡張」39ポイントの順となっている。

 23年度は海外工場に加えて、BCP対応や地産地消などの観点から、国内工場での体制拡充を計画している企業も多い(1位=5ポイント~5位=1ポイントとして集計)。

「増」は6割弱、最多は「横ばい」

23年度の研究開発費計画

 「23年度の研究開発費計画」(22年度見込み比)では、回答31社中、最も多かったのは、「横ばい」の12社だが、全体では「増」と回答した企業が計18社と6割弱に達した。「20%以上の増」と回答した企業も4社を数え、「減」とした企業は1社にとどまった。

 「23年度に技術開発で力を入れていく市場・分野(複数回答)」では、回答38社で最も多かったのは「自動車関連」の35社。2位は「FA・産業機器市場」の30社。以下、「医療機器/ヘルスケア関連」「通信インフラ市場」「エネルギー関連」「ロボット関連」と続き、全体として自動車や産業機器関連分野を23年の技術開発での重点分野に掲げている企業が多い。

 「23年度から25年度を視野に技術開発に力を入れる市場・分野」(複数回答)では、回答37社中、最多は「次世代自動車」の32社。2番目は「医療用エレクトロニクス/ヘルスケア」の26社となった。以下、「次世代通信インフラ関連」「再生可能エネルギー(太陽光発電、風力発電等)」「ロボット」「次世代スマートフォン」「次世代製造装置」の順となっている。

 各社は中長期での事業拡大に向け、自動車や医療機器、通信インフラといった高付加価値分野での事業創出のためのR&Dを強化する。カーボンニュートラルの実現に向けて重要性が高まっている再生可能エネルギー分野へのR&Dも重視されている。

重視する国は中国、米国、日本

電動車市場への取り組み

 世界的な需要拡大が続く電動車市場に向けた事業計画を聞いた。

 「電動車への拡販活動で重視する国」(複数回答)の質問では、最も多かったのは「中国」の60ポイント、2番目は「米国」の53ポイント、3番目は「日本」の52ポイントとなり、多くの企業が米中日の3カ国での拡販活動を重視している。以下、「ドイツ」が19ポイント、「韓国」が4ポイントと続いている(1位=5ポイント~5位=1ポイントとして集計)。

 「電動車市場売上高の23年度目標」(22年度見込み比)では、回答34社中、「2ケタ以上の増」と答えた企業が計24社と全体の約7割に達した。うち7社は、「30%以上の増」と回答した。

 xEVのグローバル需要は、23年も22年に続き、高い成長が見込まれており、24年以降もさらに加速化が予想されている。各社は23年度も電動車向けビジネスでは高い成長を計画する。

「省資源やリサイクルの推進」最多

脱炭素化(カーボンニュートラル)への取り組み

 「脱炭素化(カーボンニュートラル)の達成に向けて取り組んでいること」(複数回答)の質問では、回答37社中、最も多かったのは「省資源やリサイクルの推進」の34社。以下、「自社全体の数値目標の設定」「目標達成に向けた具体的な計画策定」「環境配慮製品の開発」「自社オペレーションでの再生可能エネルギー活用」の順となった。

 「自社のオペレーションでの再生可能エネルギーの活用の有無」では、回答38社中、約6割の23社が「導入済み」と答えた。このほか「近く導入予定」が1社、「導入を検討中」が8社となっている。

 「企業活動を通じたカーボンニュートラルの達成時期」についての質問では、回答した38社中、42%に当たる16社が「達成時期目標を設定済み」と回答しており、「近く目標時期を設定する」と答えた企業も7社を数えた。

 1年前に実施した同様のアンケートでは、「達成時期目標を設定済み」と答えた企業が全体の2割弱にとどまっていたのに比較すると、過去1年間でカーボンニュートラル達成時期目標を設定した企業が大きく増加したことになる。

 各社の「カーボンニュートラル達成時期」の質問では、回答18社中、最も多いのは、政府目標と同じ「2050年まで」とした13社。一方、「2030年まで」と回答した企業が3社、「2045年」までとした企業も1社あり、積極的な目標値設定がみられている。

全体の4分の3が「見直し行う」

米中摩擦や地政学リスクなどを見据えた社内体制見直しの取り組み

 「米中摩擦の激化や中国のゼロコロナ政策、地政学リスクの高まり、円安進行などを見据えた社内体制見直しについて」の質問では、回答35社中、「見直しを行う」と答えた企業は26社となり、全体の約4分の3を占めた。

 「『見直しを行う』と回答した企業に対する具体的な内容」(複数回答)では、回答27社で最も多かったのは「生産拠点のグローバルでの分散化」の19社。次が「サプライチェーンの見直し・変更」とした17社。以下、「国内生産強化」「Webを活用した営業・プロモーション活動強化」「グローバル物流体制の強化」と続いている。

 「グローバル生産体制拡充や最適化を進めるうえで、今後生産比率を高めるエリア」(複数回答)では、回答33社中、最も多かったのは「東南アジア」と答えた27社で、全体の約8割の企業が回答した。次いで多かったのは「日本」の17社。このほか、「中国」「北米」「韓国」「インド」など多様な国が挙げられた。

 近年のエレクトロニクス業界では、BCP対応や地産地消に対応したグローバル生産体制の構築が重要性を増しており、23年度に向けても、ASEANや日本を軸に、グローバルでの生産体制分散化や最適が一段と進展する見通し。

半導体不足は「3月まで」が最多

部材不足や物流ひっ迫状況について

 各社に、半導体をはじめとする部材不足や物流ひっ迫状況の今後の見通しなどを聞いた。

 「半導体をはじめとする部材不足の継続時期の見通し」では、回答35社中、最も多かったのは「23年3月まで」と答えた8社。次いで多いのは「23年6月まで」の5社。一方、「23年7月以降も部材不足が続く」と回答した企業も計11社に上り、「24年3月まで」とした企業も3社みられた。

 2022年以降、パソコンやスマートフォン、ゲーム機などの民生機器向けの半導体や、メモリー関連の需給はかなり充足されてきているが、車載用の半導体やハーネス関連、一部の電子部品などでは依然として不足状況が継続しており、部材不足解消時期は部品企業によっても見方が分かれている。

 「物流ひっ迫の継続時期」については、回答35社で最も多かったのは「23年3月まで」と答えた12社。次いで「23年6月まで」が4社となったが、「23年7月以降も続く」と回答した企業も計7社に達し、「24年4月以降も続く」と答えた企業も見られている。

全体の9割近くが「値上げを実施」

販売価格是正の取り組み

 最近の電子部品市場では、原材料価格やエネルギーコストの上昇が製造コストを上昇させ、大きな課題となっている。

 「原材料価格高騰やエネルギーコスト上昇、円安による電子部品製造コストへの影響」に関する質問では、回答40社の全社が「影響がある」と回答。うち7割強の29社は「強く影響を受けている」と回答した。

 「販売価格是正の取り組み状況」についての質問では、回答38社で、「値上げを実施している」と答えた企業が計33社と全体の9割近くに達し、うち13社は「多くの品目で値上げを実施している」と回答した。「現在は行っていないが今後値上げを実施する予定」とした企業もみられた。

 原材料価格やインフラコスト、人件費などの上昇が進む中、電子部品メーカーが安定的な事業活動を進めていくためには、販売価格を適正化していくことは極めて重要。最近は業界全体でも調達部材の値上げへの理解度が増しているとされ、2023年に向けて、価格是正がさらに進展することが予想される。

次世代自動車、エネルギー関連…

2030年の電子部品需要牽引マーケット

 「8年後の2030年に電子部品需要の新たな牽引(けんいん)役になっていると予想されるマーケット」について聞いた。

 回答37社で最も多かったのは「次世代自動車」の127ポイントで、2位以下の2倍以上のポイントとなった。2番目は「エネルギー関連」の50ポイント。以下、「ロボット」「5G/6G関連」「医療・ヘルスケア」「次世代通信市場」「次世代携帯端末」の順となっている(1位=5ポイント~5位=1ポイントとして集計)。

 CASEをメガトレンドとした技術革新が進む自動車は、短期・中長期の両面で、事業拡大のための最重点アプリケーションに位置付けている電子部品メーカーが多い。エネルギー関連も、カーボンニュートラルへの対応のため、再生可能エネルギー分野のイノベーションの重要性が固まっている。ロボットは、少子高齢化の進展で労働者不足が深刻化する中で、産業用ロボットやサービスロボットの需要は今後も中長期で大きく増加する見通し。30年頃には6G(第6世代移動通信システム)市場立ち上がりへの期待も高い。

 このほか、「次世代製造装置」「ウエアラブルデバイス」など、さまざまな分野が中長期での電子部品需要の牽引マーケットに想定されている。

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