2025.12.11 三菱電機が物理モデル組み込みAI開発 少量の学習データで機器の劣化を推定
従来の劣化推定と物理モデル組み込みAIの比較
三菱電機は、少量の学習データで機器の劣化を高精度に推定する物理モデル組み込みAI(人工知能)を開発した。同社のAI技術ブランド「Maisart(マイサート)」のうち、物理空間での信頼性・安全性を重視した「Neuro-Physical AI」の開発成果で、製造現場のアセット運用の最適化に貢献する。
劣化した機器の長期的な利用は、設備自体の故障や製品不具合を引き起こす恐れがあるため、事前に劣化を推定して適切な対応につなげる「予防保全」のニーズが高まっている。従来の予防保全は、機器の挙動を数式やシミュレーションで再現し、その結果を基に劣化を推定する方法が一般的だったが、近年は劣化推定のルール構築にかかる労力削減に向け、機器から収集したデータを利用してデータの正常範囲を構築するAI手法が台頭している。
従来のAI手法には、正常範囲の設定に運転パターンや個体差、設置環境などの大量の学習データを要し、条件が変わるたびに再学習が必要だ。同社は、AI手法の実用化に向け、機器を動かすのに必要とする力を求める物理モデルの理論式を用いて対象機器の挙動や特性についてあらかじめ学習させ、個体差などを少量データで学習し劣化を高精度に推定する新たなAI診断技術を開発した。
物理モデル組み込みAIは、あらかじめ対象機器の挙動や特性を学習したAIに、設計仕様に反映されない個体差や環境条件を実測データから学習させるだけで、個体ごとの変動を推定する。追加学習は物理モデルの補正のみを目的とするため、少量の実測データで対応可能。同社の産業用ロボットを用いた実証では、従来手法と比べて、約90%の学習データ削減を実現した。
学習データに含まれない変動が生じた場合も、物理モデルを用いて変動時の機器の特性を推定できるため、劣化推定の高精度化を実現する。同社が行った実証では、機器のほぼすべての劣化を推定し、劣化推定性能は従来手法より約30%向上している。
同社の情報技術総合研究所AI研究開発センター長の毬山利貞氏は、物理モデル組み込みAIについて「三菱が機器開発などで培ってきたノウハウを入れた独自のフィジカルAIだ」と話した。今後は産業機器やロボットなどの実機での実証評価に取り組み、2027年度以降の製品適用に向けた検討を進めていく。








