2023.01.19 【LED照明特集】照明メーカーも密接、「2024年問題」 人手不足が深刻化 物流の効率化が必須

空間演出に照明は不可欠。脱炭素とともに価値の再定義が進めば、市場の成長につなげられる可能性もある

13日に開催された賀詞交歓会では「2024年問題」を懸念する声も聞かれた13日に開催された賀詞交歓会では「2024年問題」を懸念する声も聞かれた

 国内の照明市場がコロナ禍前の水準に戻ろうとする中、懸念材料として浮上してきたのが、建設や物流業界での「2024年問題」だ。働き方改革の一環として24年4月以降、時間外労働の上限規制が適用される。両業界とも人手不足が深刻である上、照明とも密接に関わっており、対策を検討する照明メーカーも出始めた。照明各社には、培ってきた光の技術を生かした新領域への挑戦とともに、喫緊の課題として2024年問題への対処も求められている。

省エネでLED照明に注目 出荷台数が復調傾向

 「エネルギー価格の高騰は、LEDにとっては追い風。初期に導入したLEDからの買い替えも進み始めている」

 13日に日本照明工業会(JLMA)がホテル グランドニッコー東京台場(東京都港区)で開催した賀詞交歓会で、冒頭あいさつに立った島岡国康会長は、照明市場に対する期待を語った。

 実際、電気代の高騰が続いており、手軽に省エネにつなげやすいLED照明への注目度と期待は高まっている。照明各社にとって追い風になっていることも事実だ。

 三菱電機照明の吉村恒則社長は「電気代の値上がりは、倉庫などでLED化への投資の後押しになっている側面もある」と話す。

 11年3月に発生した東日本大震災をきっかけに導入が加速したLED照明は、初期に導入されたものが10年以上経過している。当時は蛍光灯などの既存光源からの交換による省エネ性が重視されていたことから、LED素子の光の〝粒感〟が強い、質の低いLED照明が多かった。

 現在は導光板技術の進化などで光を均一に発せられるようになったほか、効率面も向上して省エネ性はさらに高まっている。「初期LED→最新LED」に加え、照明制御システムを組み合わせればさらなる節電ニーズにも応えられる。

 ウィズコロナとなり、一時的に延期されたり中止されたりしていた商業施設やホテルなどの設備更新需要も戻りつつある。そうした社会環境の変化を受け、LED照明の出荷台数も復調傾向にあるが、そこに立ちはだかってくるのが2024年問題となる。

 建設業や物流業では24年4月から時間外労働の上限規制が適用される。ただでさえ人手不足の業界であるだけに、製品の配送や工事面などへの影響が懸念されており、メーカー側も対応を求められるところ。影響を受けるのは照明に限った話ではないものの、特に物流はEC(電子商取引)の拡大が続いていることから、さらなる逼迫(ひっぱく)が不安視され、照明各社にとっても効率化への工夫は必要になってきそうだ。

 東芝ライテックの平岡敏行社長は「物流面では共同運送による効率化などに道筋を付けていかなければならない」と指摘している。

 賀詞交歓会の場でも、2024年問題を懸念する声が聞かれた。ある照明大手の幹部は「建設業の働き方改革が進むのはいいこと」としながらも、「心配なのは、人手不足からくる工事の遅延などがさらに深刻化しそうなことだ」と話す。さらに「メーカー間の共同配送も、できるところは既に着手している。これ以上は簡単ではない面もある」とこぼした。

 とはいえ24年4月まで1年余りしか残っておらず、待ったなしの状態。物流改革などには時間もかかるが、問題を意識して取り組むメーカーとそうでないメーカーとでは、その後の事業運営で明暗が分かれる可能性もある。成長戦略を描く上で避けては通れない道筋と言えそうだ。

培った技術を生かす照明メーカーらしい商品続々

 ■新領域への挑戦も課題

「光る」だけではない新たな提案も進む

 国内の照明市場がコロナ流行前の状態に戻ったとしても、LED照明普及による需要の一服感や、少子高齢化などの社会的な流れもあり、大幅な成長は見込みにくい。そこで照明各社は、培ってきた光技術を生かして新領域への挑戦を加速している。

 「新規事業にもドライブをかける一年にする」と今年の意気込みを語るのは、ホタルクスの山村修史社長だ。

 同社は、光触媒除菌脱臭機や紫外線LED除菌器に加え、昨年、赤外線通信で家電を操作できるスマートリモコン市場に参入した。LEDシーリングライトのアダプター部分にスマートリモコン機能を内蔵するという〝照明メーカーらしい〟製品に仕上げた。

 昨年12月には、インターネット接続を不要にした対話式の「アンサーバック」で音声操作が可能な「しゃべリモ」を発売し、その声に人気アニメの声優を起用した。他社との協業を生かし、コンシューマー向けでLEDシーリングライトを中心に展開してきたホタルクスのイメージを変えるような製品にも挑戦している。

 「50年に一度の変革の時」という覚悟を持って新規事業の創出に挑んでいるのが、岩崎電気だ。同社売り上げの主力だったHIDランプの減少は避けることができない。LED照明への転換だけでは不足しているため、新たな収益の柱を創る必要がある。それはホタルクスも同じで、新規事業は管球類の減少を補うための一手と位置付ける。

 岩崎電気の伊藤義剛社長は「HIDランプはこれからも減る。当社を代表するような製品であったため、これに替わる〝岩崎らしい〟製品を出していきたい」と力を込める。 殺菌事業にも取り組んでいるものの、コロナ禍で需要が活発化した殺菌関係は現在、踊り場的な状況となっている。殺菌にプラスアルファするようなソリューションの提供を目指し、試行錯誤を続けている。

「ライティング5.0」が重要に

 ■脱炭素けん引、その先に

 LED照明は、政府が50年に温室効果ガスの排出を全体としてゼロを目指すカーボンニュートラル(脱炭素)の実現に不可欠な製品。ストック(既設照明)のLED化率はようやく半分という折り返し地点まで来た。

 半面、家庭に限らず商業施設やビルなどの建設では、照明設備の検討は後回しにされがちだ。建物を構成するメイン商材ではないため、重要度が理解されにくいという課題がある。

 こうした状況を「ライティング5.0」の商材がどう変えていけるかも今後は重要になってくる。脱炭素の加速と合わせて社会環境の変化に対応し、照明空間の価値の再定義にも生かすことができれば、照明市場の成長につなげられる可能性は大きい。照明各社には、業界全体を成長させる上でも今後の真価が問われそうだ。