2023.01.26 【水晶デバイス特集】日本電波工業 5G小型基地局を重点分野 小型・高品質品開発へ

5G小型基地局向け7×5ミリメートルサイズOCXO

 日本電波工業は、ADAS/自動運転技術の高度化が進む自動車や、5Gスマートフォンを中心とする移動体通信、5G小型基地局(RU)などを重点分野に掲げ、市場ニーズにマッチした小型・高品質の水晶デバイス開発に力を注いでいる。

 自動車市場向けは、ADAS/自動運転技術の高度化などにより水晶デバイスの員数増が見込まれる中で、今後も積極的な事業拡大を目指す。

 車載用水晶発振器では、2.0×1.6ミリメートルサイズ(高さ0.8ミリメートル)で業界初となる125度の高温下で動作可能かつ高周波出力対応(100メガヘルツ)のOCXO(温度補償水晶発振器)を開発。自社で育成した高品質で高Q値の人工水晶を用い、フォトリソグラフィー工程による水晶振動子設計の最適化と、高温動作/高周波に対応した発振回路との併用を図ることで、高温動作/高周波対応の2016サイズTCXOを開発した。

 さらに業界初となる車載安全用途向け3225サイズ差動出力水晶発振器を開発した。

 車載カメラでは映像データの高速伝送が必要なため、民生市場で使用されてきた高速通信規格の車載転用が進んでいる。高速通信では雑音に起因するエラーが大敵となるため、高速基準クロック源には高品質で信頼性の高い差動出力発振器が必要となる。

 同社はこうした動きに対応し、業界に先駆けて高速伝送の基準クロック源に使用できる車載安全用途向け差動出力発振器を開発した。105度対応で、AEC-Q100/AEC-Q200に準拠。

 5Gスマホ向けでは、NX1612SD(外形サイズ1.6×1.2×0.65ミリメートル)で76.8メガヘルツのサーミスター内蔵水晶振動子を2020年から量産開始した。

 移動体通信の5G移行に伴い、チップセットに使用されるクロック源の高周波化が進むことで受信感度や通信効率低下を招く懸念があった。これに対し、同社は装置内部の基準発信源を36.4メガヘルツから76.8メガヘルツに高周波化し、逓倍回数の削減による位相ノイズ改善などの対策を行うことで同製品を開発した。同製品は米クアルコムの5Gスマホ向けSoCの認定第1号を取得した。

 同社は、5Gでの高周波化、低雑音、水晶振動子のドライブレベル引き上げ、高安定な温度特性維持など水晶振動子への厳しい要求に対応するため、高品質の原石を自社生産し、フォトリソ技術を生かして平行平面ウエハー、微細加工技術から、超小型水晶デバイスを供給するという優位性を確保している。

 21年には、5Gスマホ向けに、より小型のNX1210ACサーミスター内蔵水晶振動子(76.8メガヘルツ)を開発した。クアルコムの5Gスマホ向けチップセットSoC認定第1号取得製品と同等特性で実装面積を大幅に縮小した(1.2×1.0×0.55ミリメートル)。

 基地局向けでは、小型基地局向けに世界最小クラス(7×5ミリメートル)でかつ動作上限温度プラス95度対応OCXO(恒温槽付き水晶発振器)を開発した。

 5Gやローカル5G用の小型基地局は屋外の鉄柱上部や建屋屋上、屋内の壁面など狭いスペースに設置され、設置環境も直射日光や風雨にさらされるなど厳しい。基地局内部部品は高密度実装による内部温度上昇や高温・多湿の外部環境の影響を受けるため、高温時の安定動作や良好な温度スロープ特性、良好な位相雑音特性を有する小型の高安定水晶発振器が求められる。

 同社はこうしたニーズに対応し、OCXOを構成する発振器回路、温度制御回路などの全てを1チップに収めた専用ASICを開発し小型化を実現。水晶原石育成から水晶振動子製造までの一貫生産の強みを生かし、新たに高Q原石による小型SC-cut振動子を開発することで、5Gで要求される高安定・低雑音を実現した。温度スロープ特性も従来の高精度TCXOに比べ200分の1のプラスマイナス0.1×10-9/度を実現。気密パッケージ採用により信頼性を高めた。

 同社は、半導体製造装置のカメラレンズに堆積するガスのモニターや、半導体装置においてガス処理する際の処理量を均一化するための条件出しにリアルタイムでモニター可能なセンシングシステムを開発した。宇宙分野向けに開発した「アウトガス分析システム『Twin-QCM』」の新たな展開として、一般産業分野での利用が拡大している。