2023.02.01 NHK広島と平和祈念館 被爆証言、未来に残す AIや音声認識を活用

応答装置で梶本さんに質問する加藤さん

 NHK広島放送局は、最新の人工知能(AI)と音声認識技術を活用して映像の被爆者が質問に答える「被爆証言応答装置」を開発し、このほど関係者に披露した。

 同局が国立広島原爆死没者追悼平和祈念館(広島市中区)と共同で立ち上げた「被爆体験継承プロジェクト」の一環。広島・長崎で被爆した人の平均年齢が84歳となり被爆体験の伝承が課題となる中、当時の記憶を未来に残すため開発に挑んだ。

 「8月6日、一番忘れられない光景はなんですか」。質問者がこう問いかけると、画面の中の女性は「顔が倍にもふくれ上がったような人がいたんです」と、当時目撃した光景について語り始めた。

 女性は、現在92歳の梶本淑子さん。14歳の時に爆心地から2.3キロメートル北にある飛行機の部品工場で被爆し、2001年から証言者として活動している。

 装置に向かって質問をすると、その答えに該当するものをAIが引き出して梶本さんの肉声の証言映像を流す。

 開発に際してはAIや歴史の伝承に詳しい専門家の助言の下、高校生などが考えた900問以上の質問を梶本さんに尋ね、5日間にわたる撮影で10時間分の回答を収録した。

 質問と回答は、戦争や被爆経験に関するものだけでなく、「好きな花」など梶本さんの人柄に関するものも。映像の最後、梶本さんは「音楽や文章、演劇などそれぞれの得意なやり方で戦争の悲惨さや平和の尊さを伝えてほしいと思います」と語りかけていた。

 プロジェクトは21年秋に始動。昨夏の完成を目指して進めていたが、技術的に不十分なところもあり半年遅れでの完成となった。

 1月23日には報道陣に公開され、3月18日に放送予定の特別番組「永遠に語り継ぎたい ~未来に残す、あのときの記憶~」(BS1、午後9時~9時49分)でナビゲーターを務めるアイドルグループ「NEWS」の加藤シゲアキさんが登壇。

 広島市生まれで、今回は装置の開発段階から立ち会っていた加藤さんは「出来上がったものを体験してみて、完成度が高く驚いた」とコメント。「一方的に話を聞くだけではなく、質問をすることで自分の中でも考えられるようになり、より実感を持って理解できるのでは」と話した。

 現時点で一般公開の予定はないが、責任者の生田聖子チーフプロデューサーは「今後も精度向上などに取り組み、プロジェクトを継続していきたい」としている。(広島)