2020.01.30 次世代技術者養成校「42 Tokyo」4月開校 長谷川文二郎事務局長に聞く

4月開校予定の42 Tokyo。長谷川文二郎事務局長がインタビューに応じた。

協賛企業一覧(同社提供)協賛企業一覧(同社提供)

東京都港区の校舎は24時間いつでも活用できるという。東京都港区の校舎は24時間いつでも活用できるという。

42の教育システムについて説明する長谷川事務局長42の教育システムについて説明する長谷川事務局長

受験者は協力して課題に取り組む受験者は協力して課題に取り組む

多彩な企業と連携 学費完全無料 

 次世代の技術者養成校として注目を集める「42 Tokyo」(東京都港区)の長谷川文二郎事務局長は、電波新聞のインタビューに応じ、教育プログラムの狙いや開校に向けた見通しを語った。詳しい内容は明かさなかったが、実施中の入学試験「Picine(ピシン)」の様子も公開した。

 42 Tokyoはフランス発の技術者養成システム「42」の東京校で、アジアではソウルに続く2校目。

 学費完全無料や課題解決中心のカリキュラムが特徴で、日本ではネットサービスのDMM.comが、アマゾン・ウェブサービス(AWS)やグーグル、マイクロソフト、NTTドコモ、パナソニック、文藝春秋などの多彩な企業と連携して運営する。開校は4月6日に予定している。

 昨年9月から経済産業省が推進しているAI人材育成事業「AI Quest」は42がモデル。フランス本国に加え、米国・シリコンバレーで実績を上げてきた“本家”が日本に上陸する形だ。主なやりとりは次の通り。

 ―日本進出の経緯は。

 長谷川事務局長 DMM.comの亀山敬司会長が、学費完全無料で学歴や職歴の縛りが一切ない教育システムに可能性を感じ、教育機会の平等のために誘致を進めた。

 ―学校教育法の枠外での開校だが、背景にある考え方は。

 長谷川事務局長 2013年、42がフランスでスタートした際、個人資産で設立した点が大きいのではないか。取得した学位で職業が決まる学歴社会では、技術者不足の解消が難しかった。全く新しいシステムで教育機会を提供する必要があったのだろう。

 ―東京ではどんな結果を期待しているか。

 長谷川事務局長 パリ校では出身者への起業支援など、単なる慈善事業にとどまらない取り組みが進んでいる。だが、東京校の生徒が得られる成果は、起業というよりも、社会の中で学び続ける姿勢だと考えている。

 生徒にはソフトウエアエンジニアに限らず、どの業界でも通用する“学ぶ体質”を持った人に成長してほしい。確かにグーグルやアマゾンに入社する出身者もいるが、業界に関係なく42で得た成果を社会に還元してほしい。

 ―カリキュラムの特色は。

 長谷川事務局長 42はいわゆる授業がなく、講師もいない。課題があって、生徒は自分で解決策を探し、基礎から学んでいく。詳細な手段はすべて自主性に任せる。

 起業志向や特定の専門性を伸ばすのではなく、社会が急速に変化する中で、普遍的に通用する学習体質を育てたい。エンジニアリングに限らない進路で評価されているのも42の特色。コンサルティングファームは42ならではの進路だろう。

 ―昨年発表のAI戦略で、政府も人材重視の方針を打ち出している。こうした流れに42をどう位置づけるか。

 長谷川事務局長 経産省が進めるAI Questとは別の動きだが、機会があれば連携したい。いわゆるAI人材の育成は急務だが、42の重点目標は教育機会の創出だ。

 特定の方向性よりも自学自習のコミュニティを大切にして運営したい。過酷な入学試験はあるが、生徒がやりたいようにできる環境を提供する予定だ。

 ―協賛企業を募った理由は。

 長谷川事務局長 DMM.comのためだけの事業ではなく、新しい教育機会の創出が目的。一般社団法人として長く続けていくためにも、いろいろな企業がメリットを感じて、42というニュートラルで開かれた教育の場を支えていく仕組みをつくりたい。

 ―協賛企業との連携は。

 長谷川事務局長 結論から言うと(協賛企業との)連携を進める。例えばAWSやマイクロソフトのような、ソフトウエアの世界を先導する企業とは、教材面で協力したい。

 ソフトウエア以外の企業とも、ワークショップやハッカソンを通じて、協賛企業社員が生徒に社会の様子を伝え、同時に生徒からも刺激を得られるような良い関係を築きたい。こうした協賛企業との連携を通じて、生徒が円滑に社会へ出ていけるようにする。

 ―入学試験が始まった。東京校の募集状況は。

 長谷川事務局長 11月に募集を開始した。18歳以上は誰でも応募でき、数千人規模の応募があった。事前の選考は933人が通過。試験は約300人ずつ3回に分けて実施する。

 定員や試験の内容は明かせないが、欧州の高等教育に近い考え方で、全員横並びではなく、コミュニティに合う人が残って、自分の学習を進展させる形だ。