2023.06.01 【ロボット・ドローン用部品技術特集】NICTが60ギガヘルツ帯大容量無線で飛翔中 ドローン間の〝すれ違い通信〟に成功
上空無線ネットワークの実現に期待
情報通信研究機構(NICT)は、ソニーセミコンダクタソリューションズと共同で、飛翔中ドローン間の60ギガヘルツ帯無線を用いたデータ伝送実験を試み、2機のドローンを用いたすれ違い飛行に伴う0.5秒程度の通信スポット通過時間で、120メガバイトのデータ伝送に成功した。
また、先行する1機が作る通信スポットを追うように2機目の飛行ルートを設定し、等間隔で飛行させる追従飛行をすることで、60ギガヘルツ帯でのリンク維持時間を延長でき、より大容量なデータ伝送も可能となることを確認した。
これらの成果は、ドローン群の協調飛行(すれ違い飛行や追従飛行)で作り上げる上空無線ネットワークの基盤技術としての活用に期待できるほか、滞空飛行ができない観測用途の無人航空機からの飛行中におけるデータ回収用途としての活用が期待される。
背 景
ビヨンド5Gによって達成すべき目標概念の一つに「超カバレッジ拡張」がある。実現には、従来の陸上移動通信ネットワークの構築だけでなく、空・海・宇宙空間までを通信サービスエリアとするための非地上系ネットワーク(NTN)の構築がカギとなる。上空ネットワークについては、農業分野や点検、物流といった幅広い分野で活躍し始めているドローンの活用が有効。
超高周波帯通信デバイスを用いたデータ中継機能をドローンに搭載すれば、リアルタイム中継ネットワークを上空に構築できるほか、大容量ファイルの転送用途などであれば、ドローンが受信したデータを一次保存したまま宛先となる遠隔地まで飛行搬送した上で無線転送する、遅延耐性ネットワーク(DTN)原理に基づいた中継ネットワークの構築も可能になる。
このような方法で、より低コストでカバレッジ性の高い上空無線ネットワークの構築が可能になると考えられる(補足資料1)。
ただし、超高周波帯を用いたドローン間通信は、従来のマイクロ波帯と比較して伝搬損失が極めて大きく、直進性が強いため、通信スポットが空間的に限定される特徴がある。特に、移動しながらの通信では、さらに、通信が可能な時間も限定される難しさがあり、これまで、飛翔するドローン間の超高周波データ伝送の実用性は明らかになっていなかった。
今回の成果
NICTは今回、ソニーセミコンダクタソリューションズと共同で、60ギガヘルツ帯無線デバイス(国際無線通信規格IEEE 802.15.3eに準拠し、2ミリ秒以下でリンク確立が可能)を搭載したドローン間通信システムを開発し、その2機のドローンを飛翔中に接近させ(図1)、わずか0.5秒程度(516ミリ秒)の通信可能時間内で120メガバイトを超えるデータを伝送することに成功した(図2)。
リンク確立までに数秒を要する一般的な通信規格では難しい飛翔中の、ごく短時間で生じる超高周波帯通信スポットの利用率が向上し、実験では、通信可能時間のうち、99%に及ぶ区間を実際のデータ伝送に利用できることを確認した。
また、ドローン2機が一定距離を保って飛行するようにルート設定し、追従飛行させることで、ドローンが作る60ギガヘルツ帯通信スポットを追尾し、通信リンクを維持することで、通信可能時間を延長することができた。
一例では、ドローンの追従飛行をした30秒間で、10ギガバイトを超える大容量データを伝送できることを確認できた(図3)。ドローンが滞空飛行することが難しい場面や、そもそも滞空飛行ができない航空機種を使う場面では、「すれ違い通信」による、航空機の機動力を損なわないデータ伝送が有効であると考えられる。
一方で、より大容量なデータを伝送する必要がある場面では、追従飛行などでリンク維持時間を延長することも可能で、これらを状況によって使い分けることが有効であることが分かった。
今後の展望
今回の成果で、超高周波デバイスを搭載した行き先の違うドローン同士が、適切な飛行ルートを計画・実行することで、データを交換・共有する上空ネットワークの構築が期待できる。
また、滞空飛行ができない航空機種であっても、すれ違いざまに超高周波通信を利用でき、飛び交う航空機が状況に応じて連携し合う大容量データ伝送技術への展開に期待できる。