2023.06.01 【ロボット・ドローン用部品技術特集】世界初、風力発電の風車を無停止点検 NTTが技術の実証実験を開始

図1 技術の活用イメージ

 NTTは、世界で初めて風力発電風車の無停止点検を実現する技術の実証実験を開始した。この技術では、点検対象構造物を挟み込む形で飛行させた2機のドローン間で、微弱無線を送受信し、その受信信号の変化を解析することで、フレネルゾーン(※1)内の点検対象構造物の損傷有無を検知する(図1)。

 従来は、風車を停止し点検をしていたため、発電効率の低下が生じていた。この技術は、これを回避可能とすることで、発電効率向上によるカーボンニュートラルへの貢献を目指す。

 点検には従来、一定の時間や日数、発電を止めないといけないため、その間の発電ができなくなるが、この技術で、稼働率をより上げることもできる。また、同様の構造物への展開も技術的に可能となっている。

 技術については、5月に開催された「つくばフォーラム2023」で紹介した。

1.背景

 2050年カーボンニュートラル実現や日本国内のエネルギー自給率向上に向けて、再生可能エネルギーの一つである洋上風力発電が将来の主力電力として期待されている。その導入目標は、経済産業省「洋上風力産業ビジョン(第1次)」によると、30年で約1000万kW、40年で約3000万~4500万kWとなっている。導入目標達成のためには、40年時点で約3600基(※2)の洋上風力発電の風車が日本沿岸に建設されることとなる。

 建設だけでなく、保守運用効率化も課題になると想定され、アクセスや現地作業が困難な環境条件を踏まえると、なるべく人手を介さない保守運用の実現が重要となる。また、洋上風力発電の想定設備利用率(※3)は30%(※4)で、その向上も課題となっている。

 そこで、洋上風力発電の定期点検の自動化による運用効率化と運転停止時間短縮による設備利用率向上の実現に向けて、これまで通信事業で培ってきた無線技術とドローンによる設備点検技術を組み合わせた研究開発に取り組んできた。

2.技術のポイント

・自律飛行ドローンを無線の送信機と受信機にしていること

・無線局免許不要の微弱無線を使用するため、どこでも使用可能

・周波数と送受信距離により決まるフレネルゾーンを簡単に変更可能

・フレネルゾーン内の受信信号の変化を検知可能

3.今回の実験および成果

 この技術は無線局免許不要の微弱無線を使用し、その送受信間の受信信号の変化により、送受信間にある構造物の損傷有無を検知するもの。

 2機のドローンに搭載し、微弱無線の送信機と受信機に見立てると、上空で微弱無線の送受信間に損傷有無を検知する対象物以外の遮蔽(しゃへい)物、反射物が無い状態にすることができる。この状態をつくることで対象物の軽微な変化を把握しやすくなる。

 またソフトウエア無線を活用しているため、送受信周波数を簡単に変更できる。無線局免許が不要な微弱無線による送受信であるため上空で自由にさまざまな周波数の電波を変化させながら送受信することができる。これにより周波数と送受信距離によって決まるフレネルゾーンを検知対象の構造物に合わせて変化させることが可能となる。

 ①実験室におけるフレネルゾーン内の受信信号の変化による損傷有無検知実証

 本技術で構造物の損傷有無を検知できることを確かめるため、ノイズ影響の少ない実験室でフレネルゾーン内の受信信号の変化を検知する屋内実験をした。

 この検知は風車停止状態で行う画像撮影・解析など既にある技術を使った点検の前段階で使用することを想定している。このため、運転停止基準の判断に使えるかどうかが重要となる。

 今回の実験では風力発電設備のブレード点検ガイドライン(※5)に記されている3状態と正常状態を比較することで、回転中のブレード損傷の状態を判断することを目指した(図2)。

図2 判定する損傷レベル

 その結果、運転に影響する計画的に補修を行う状態と保安停止を要する状態の損傷有無を検知することに成功した(図3)。

図3 屋内実験

 ②屋外での微弱無線の送受信の実証

 2機のドローンを微弱無線の送信機と受信機に見立て、上空で微弱無線の送受信する屋外実験をした。ドローンで上空を飛行する際にはノイズの影響を強く受けるが、その対策もして実験した結果、上空30メートルでの微弱無線送受信に成功した(図4)。

図4 屋外実験

 また2機の自律飛行ドローンの操作で、上空で微弱無線の送受信距離を意図通りに変化させ(※6)、フレネルゾーンを簡単に変更できることを確認した。

4.今後の展開

 今後は技術確立に向けて、実際に屋外で運転中の複数の風力発電風車に対して本技術を活用する実験をし、屋外の実物でも損傷検知ができることを確認予定。

 さらなる研究、実証実験を重ねることで、洋上風力発電の定期点検の自動化による運用効率化と設備利用率向上による発電量増加を実現し、カーボンニュートラルへの貢献を目指す。〈資料提供:NTT〉

<用語解説>

※1フレネルゾーン 無線送受信の距離と周波数によって決まる無線が伝搬する空間のこと。

※2 再エネ海域利用法に基づく促進区域指定「ラウンド1」の1.26万kW/基を元にNTTで試算

※3 設備利用率 定格出力で100%運転(24時間365日)した場合の発電量に対する、実際に1年間で発電した電力量の割合のこと

※4 経産省調達等算定委員会資料2023年2月8日より

※5 日本風力発電協会「風力発電設備 ブレード点検および補修ガイドライン」より

※6 2機の自律飛行ドローンの安定飛行は、NTT西日本グループのジャパン・インフラ・ウェイマークに作業を委託して実施。