2023.06.23 【OTOTEN特集】コロナ禍を経て変化するオーディオ市場
完全ワイヤレスイヤホンは量販店でも存在感を発揮する
完全ワイヤレスイヤホン浸透
若年層中心にカジュアル化が拡大
国内のオーディオ機器は、コロナ禍を経て需要に大きな動きが出た市場だ。コロナ下には家庭で楽しむエンターテインメントの一部として巣ごもり需要で盛り上がったが、レジャーや旅行などのサービス消費が増えた現在、オーディオ機器の販売動向には落ち着きも見られる。半面、テレワークの普及で、完全ワイヤレスイヤホンのようなカジュアルに使える製品が浸透。本格的なオーディオに触れる端緒にもなると期待されている。趣味嗜好(しこう)の強いカテゴリーであるため確実なファン層を抱えるが、オーディオ業界には今後の市場の成長に向けて、本格オーディオを若年層に広げるきっかけづくりも求められる。
出荷台数に厳しさ
電子情報技術産業協会(JEITA)の統計によると、2022年のオーディオ関連機器の出荷金額は、前年並みの727億円となった。全体的な物価高などもあり、金額面では健闘しているものの、個別項目の出荷台数を見ると厳しさもにじむ。
例えばアンプは前年比10.7%減、スピーカーシステムは同11.9%減、ステレオヘッドホンは同14.4%減だった。システムオーディオは同1.4%増とわずかに前年を上回ったが、これらが前年を割る状況は23年に入ってからも依然として続く。直近のデータとなるオーディオ関連機器の5月単月出荷金額も前年同月比27.5%減と苦戦を強いられている。
しかしオーディオ機器は、音質の純度を高める技術の進展だけでなく、IoT技術を駆使した機器の広がりにも目を見張るものがある。その代表的な機器の一つとして市民権を得ているのが、完全ワイヤレスイヤホンだろう。
完全ワイヤレスイヤホンは、有線でプレーヤーと接続するという煩わしさからユーザーを解放した。混雑した電車内で目にすることが多かった、イヤホンコードが他人のバッグなどに引っかかるといった事象も、最近ではすっかり目にしなくなった。テレワーク時にウェブ会議で使う機会が増えた上、低価格な製品から高級機まで選択肢も幅広く、好みのものを使える環境が整っている。
音の伝え方にも、空気の振動を耳から鼓膜に伝える「空気振動」、骨の振動を通して音を聴く「骨伝導」などの種類がある。これらは当然音質にも関わってくるが、耳に挿し込むカナル型一辺倒だった以前に比べて状況は変わったと言える。周囲の環境音が聞こえるオープンタイプにもさまざまな製品が登場して人気を集めるなど、「ながら聴き」を楽しむ目的でも選ばれるようになった。
家電量販店でも完全ワイヤレスイヤホンの売り場は以前よりはるかに大きく取られ、存在感を増すようになった。同時に、音質にこだわるユーザー層にアプローチする高級機も登場。さらなる音質を追求してヘッドホンを選択肢に入れるユーザーも現れるなど、若年層を中心に本格オーディオに触れるきっかけづくりとして、完全ワイヤレスイヤホンは重要なポジションを築きつつある。
ポータブルスピーカーも同じような立場と言えそうだ。防水性能を備えたものなど、アウトドアシーンで活躍する製品も少なくない。音質の追求に加えて、LEDを搭載して音楽に合わせた演出を実現する製品もあり、イヤホンに限らず、スマートフォンを軸に音楽を聴く環境はかなり広がった。
ピュアオーディオ
アンプやプレーヤー、スピーカーなどを個別にそろえてシステム化する「ピュアオーディオ」は、年配者層を中心とする本格的なオーディオファンの心をつかんでいる。ただ、若年層への浸透には課題もある。「本格オーディオ=高額」というイメージが根強いこともあるが、音楽をカジュアルに楽しみたいオーディオファンに向けた提案もこれからは重要になるだろう。コロナ禍を経てそうしたカジュアル層はむしろ増えたはずだ。
ハーマンインターナショナルがJBLブランドで展開するパーティースピーカーは、そんなカジュアル層の心をつかみ、新たな需要を掘り起こしている。
パーティースピーカーはその名の通り、友人を招待してホームパーティーを開いたり、海辺に持っていきその場を盛り上げたりするためのスピーカー。ポータブルスピーカーよりも大型で、LEDを使った演出も激しいものが少なくない。
ハーマンは19年、パーティースピーカーを日本に投入した。22年までの4年間で、販売は19年比6倍以上に増加。仕掛けたハーマン自身も「日本でこれほどの需要があったとは」と驚きを隠さないほどだ。
パーティースピーカーはユーザーそれぞれが思い思いの使い方をしており、統一された用途はないとしている。ただ、掘り起こせていないオーディオの潜在需要があることを感じさせる。コロナ禍を経てライフスタイルや価値観が変化し、求めるオーディオ機器にも多様化が加速している可能性がある。