2024.01.18 【情報通信総合特集】2024市場技術/トレンド 5G

NECプラットフォームズは昨年8月から稼働を始めた掛川事業所(静岡県掛川市)の新工場にローカル5G環境を構築した

ローカル5Gの導入が進む
キャリア通信も活用現場の効率化へ

 高速通信規格5Gをエリア限定で使う「ローカル5G」の導入が進んできた。高速大容量・低遅延・同時多接続の強みを生かし、工場など製造現場の業務効率化に活用。一方で、携帯電話の通信事業者が提供する5Gを使い、大掛かりな工事をせずに低コストで工場や事業所に5G環境を構築するサービスも始まっている。普及の遅れが指摘される5Gだが、現場への定着にはもう少し時間がかかりそうだ。

 NECグループでハード製造を担うNECプラットフォームズは、昨年8月に稼働を始めた掛川事業所(静岡県掛川市)の新工場で、ローカル5Gをグループで初めて現場に本格導入した。

 新工場は地上4階建て、延べ床面積1万5632平方メートル。企業や家庭向けの5Gルーターや無線LAN製品などを年間約300万台製造する。工場内の随所に設置したカメラの画像や動画データを、高速低遅延のローカル5Gで通信できる環境を整備した。

 製品や部品の運搬には、定量で小単位の荷物を無軌道で宅配便のように運ぶ自律走行搬送ロボット(AMR)17台と、床に引かれた白線をガイドに貨物列車のように走り定ルートで多くの荷物を運搬する無人搬送車(AGV)8台を使う。1台のローカル5Gアンテナで2430平方メートル1フロア全体をカバーできるという。

 AMRは、カメラ映像データを基に自己位置を測位する「Visual SLAM技術」を使い、NECの自律ロボット制御ソフト「マルチロボットコントローラ」で複数台を同時に制御する。最適な走行経路をリアルタイムに計算して渋滞を回避するほか、他車両の位置情報を活用して交差点などで衝突しないよう制御する。

 AMRは大量の画像データと位置情報を常時送受信しながら走行するため、高速低遅延の5Gの通信環境が不可欠という。工場責任者の石塚直美執行役員は「ローカル5Gの無線技術と自律搬送制御技術の融合で生産効率30%向上を目指す」と説明する。

 製品に関する秘密情報をサプライチェーン全体で保護する「セキュア生産」にも取り組んでいる。業務に応じて入退出可能な区画を設定し、ICカードと顔認証を組み合わせた入退出システムで人の出入りを厳格に管理するほか、セキュリティー機器によってサイバー攻撃への対応も高めたセキュア生産を取り入れた。

 携帯電話の通信事業者(キャリア)が提供する5Gを活用して現場の5G環境を構築するのは、無線通信機器大手のアイコムだ。

 キャリア5G対応の新型ゲートウェイ機器「IP50G」を昨年末に市場投入した。携帯電話と同じ回線の5Gを活用することで、大掛かりな工事をすることなく、工場や事業所に5G環境を構築できるのが特長。

アイコムが市場投入したキャリア5G対応の新型ゲートウェイ機器「IP50G」

 工場では各種センサーや映像など大容量のデータを扱うデバイスが増加する一方、インターフォンなどの映像関連機器や構内放送の音声機器など従来のアナログ装置が残る現場も多い。このため新製品は5Gのほか、Wi-Fiや有線LAN接続にも対応。USBポートなど各種IoT機器の入出力端子なども搭載した。

 飯干勇一商品企画課長は「通信事業者が提供する通信を使うことで、工場や事業所内に新たにケーブルを張り巡らせることなく、大容量、高速通信が特長の5Gを使うことができる」と強みを強調する。

コスト面で課題

 ローカル5Gは、個別に基地局を開設して閉域内のネットワークを構築する必要があるためコスト面に課題があった。アイコムは、携帯電話と同じ回線を使って導入コストを抑えることで中小企業でも導入しやすくした。

 工場間のデータ転送には、インターネット上に仮想の専用線を設定して特定の人のみが利用できるVPN(仮想私設網)を使い、セキュリティーも強化した。

 KDDIと共同で実施したアイコム自社工場(和歌山県)での検証実験では、パソコンのウェブカメラで撮影した工場作業員の動作のデータをIP50G経由で本社に送り、人工知能(AI)で解析を行った。工具を使った生産工程が工具の変更で約8秒短縮されるなど生産性の向上につながったという。

 一方、日立製作所やソニー、NECなど約120の企業・団体が連携して5Gを活用したサービス創出を目指す「5G利活用型社会デザイン推進コンソーシアム」が昨年まとめた調査リポートでは、ローカル5Gの本格的な普及期は2025年以降になるとの市場見通しが示された。中小企業への普及拡大が鍵を握り、23~24年を、ハード・サービスの使いやすさや通信品質を高める時期と位置付けている。

 あるハード製造会社の社長は「5Gの普及が遅れているのは、4Gよりどう優れているのかが伝わっていないことも要因」と指摘。5Gを使えば何がどう便利になるのか、明確に示すことが普及の鍵となりそうだ。