2024.02.15 ルネサス、米ソフト会社9000億円で買収 半導体メーカーから二刀流へ

オンライン会見する柴田社長(左上)ら

 ルネサスエレクトロニクスは15日、ソフトウエアの米アルティウム社を買収すると発表した。買収金額は91億豪ドル(9000億円弱)。同社はプリント配線基板をクラウド上で設計できるソフトを開発・提供しており、高いシェアを持つ。ルネサスとはかねて提携していた。

 電子機器の設計・開発工程をクラウド上でまとめ、短期間で効率化できる環境を提供することを目指す。半導体メーカーとしての立ち位置に加え、プラットフォーマーを目指す形になる。「高いと思われたかもしれないが、十分回収できる」と、ルネサスの柴田英利社長は会見で自信を示した。

 今回は、アルティウムが株式を上場している豪州の会社法の手続きで、同社の全株式を取得する。当局の承認などを得て、2024年後半の買収完了を予定している。同社の株価に3割強のプレミアムをつけるが「(投資は)十分回収できる」としている。

 技術の進歩に伴い、電子機器やシステムの設計と統合はますます複雑化。電子機器やシステムの設計フローは、部品の選択と評価、シミュレーションからプリント基板(PCB)の物理設計まで、複数の設計ステップに多くの関係者が携わる、複雑で反復的なプロセスとなっている。

 そうした中、設計者は機能的であるだけでなく、効率的で費用対効果に優れたシステムを短い開発サイクルで設計することが求められている。そこで両社は、統合されたオープンな電子機器設計・ライフサイクルマネジメントプラットフォーム(PF)を共に構築。こうした複雑な設計ステップの全てを、システムレベルで一元化させることを目指す。

 アルティウムは豪州で1985年に設立し、米カリフォルニア州に本社を置く。23年6月期の連結売上高は2億6330万米ドル。同社の顧客和は約2万、サブスクの利用者は約5万人になるという。

■たたずまいを変えて

 「プラットフォームをきっちりつくる。いますぐつくるのは難しいが、何年かたったときに会社のたたずまいを見て、『そうだったのか』と思っていただけると確信している」。柴田社長はそう予言した。

 その意味で「今回の買収はこれまでとは違う」と強調。30年に向けて具体化を進める方針を示し、「ただ、第一歩は1年内外でご覧いただけるようにしたい」とも展望した。

 例えに出したのはパソコン(PC)。「コンピューターと同様のことを進めたい。かつてはメインフレームなど大型で誰もが使えるものではなかったのが、いまや誰でもPCにアクセスできる。エレクトロニクスの世界でも、クラウドなどのPFを活用して、幅広い参加を可能にしたい」とした。

 柴田氏は「従来はメカだったところをエレクトロニクスが受け持っている。いろんなリソースを統合するには、専門知識が必要でデザインも要求が高まる。市場に入れる前の時間も短くする圧力がある。そこでソリューションを提供したい」とした。

 ただ、具体的には「いまの時点ではまだアイデアで、影も形もないものもある」とも。 その上で「今回は、既にあるモノを買うというより、新しいモノをつくる買収だ。例えばデータ連携。また、部品は購入することが主流でしかも数が多く、コンポーネントのマネジメントのフローが違う。いくつかの強いツール、プラットフォームの組み合わせで、新しいソリューションを手掛けていく」と未来図を描いた。

■なぜ2社か

 「では、なぜこの2社なのか、ということ。まず短期でいえば、ア社の成長を加速していく。例えばたとえばソフトの世界では合従連衡が盛ん。私たちの規模を活用することで大胆に成長を追求できる。私たちの得意としてきたところと違う、広い顧客ベースを持つ会社。またインテリジェンスを活用することで、より使いやすいソリューションを提供できる。エコシステムの参加者が増えれば、より豊かになる。また、このPFは産業界全体にオープンにする。このことで技術革新が起きる」と意欲を示す。

 「PCのときのように、(電子機器でも)革新が起きて、誰でも使いやすくなる。最終的にエレ業界全体に利点が届く。今回の買収は、この業界でのオープンなPFをつくるもの。当社はアルティウムに最も近しいけれど、PF参加者という立ち位置でいく。規模の経済を最大限活用する」。

 いわば、半導体メーカーとソフトを含めたプラットフォーマーの2本の柱を示唆した。

 今回の買収で、大きなパズルはそろったとの認識を示した同社長。「今後も1千億円、2千億円という買収はあるかもしれないが、今回のような規模のものはない」と展望してみせた。

(16日の電波新聞/電波新聞デジタルで掲載予定です)