2024.12.05 「月面版GPS」の実現へ! 宇宙開発を支える半導体技術
月測位衛星「ルナキューブ」の実機
AI(人工知能)技術の普及拡大や量子コンピューターの実証実験が行われるなど、2024年は夢に描かれていた未来社会の実現を予感させるテクノロジーが大きく進展した年だった。人類の夢や希望を抱かせるテーマでもある「宇宙」についてもしかり。今年初旬には、日本の小型月面着陸実証機「SLIM」が月面着陸に成功し、月面画像を送信するなど話題となった。半導体や電子部品の技術開発は、航空・宇宙分野の技術革新に直結する。半導体・電子部品関連企業の多くは独自の技術をベースとし、航空・宇宙分野の開発を下支えしている。
月面探査では月面での位置情報測位が必須
20年代後半から30年代にかけて、月面の調査・開発活動が本格化する見込み。そうした中、早急な開発が必要とされ重要となっているのが測位技術だ。「月面版GPS」とも言える月面全体で利用できる月測位システムについては、JAXA(宇宙航空研究開発機構)、NASA(米航空宇宙局)、ESA(欧州宇宙機関)が連携して検討している。測位信号の運用互換性を確保する観点から日米欧で規格化する方針。現在、周波数や変調方式を調整している。この月測位システムが完成すれば、通信方式や規格を気にすることなく位置情報を活用できる。月面で活動する探査車(ローバー)の操作などに不可欠な技術だ。
日本では中部大学、福井大学、東京大学の3大学により、月測位衛星「ルナキューブ(6U CubeSat)」の共同開発が進められている。この月測位衛星に搭載される無線通信技術を支えているのが、米アナログ・デバイセズ(ADI)だ。
同社はアナログ半導体の大手メーカー。アナログ回路とデジタル回路の両方を含む集積回路であるミックスド・シグナルやパワーマネージメント、RF、エッジ向けのプロセッサーおよびセンサーなど、幅広い半導体製品を有する。航空・宇宙分野では幅広い周波数に対応したRF・マイクロ波製品などを提供している。
ルナキューブの開発においては、同社のパートナー企業であるマリモ電子工業が参画。ADIのソフトウエア無線(SDR)開発向けRFシステムオンモジュール「ADRV9361-Z7035」が、ルナキューブの試作機に採用された。
同製品は、周波数や変調方式を変更することが可能である月測位送信機として活用。SDR技術を取り入れたアーキテクチャーを採用し、早期開発を実現させた。
展示会で実機を展示
この月面版GPSの開発事例は、11月27~29日の3日間、パシフィコ横浜(横浜市西区)で開催されたマイクロウェーブ展で紹介された。会場ではルナキューブおよびADRV9361-Z7035を採用した月測位送信機の実機も展示され、注目を集めた。
現在、アルテミス計画をはじめ、世界各国における月面探査計画が活発に進められている。これらの探査を実現するため、一日も早い月測位技術の技術確立が求められる。半導体技術が宇宙開発を支え、未来の月探査に貢献する。