先月、米国で行われた大統領選挙を受け、アメリカ次期大統領にドナルド・トランプ氏が就任する。トランプ氏再選のニュースは、半導体業界にとっても将来の不透明感を増す大きな要因となっている。トランプ政権時代、米国政府は中国の先端半導体への参入を制限するため、輸出規制を拡大した。バイデン政権移行後もこの動きは踏襲され、日本やオランダに対しても先端デバイスの製造に関わる一部装置の輸出規制を実施した。

　米国によるこの動きは、これまで半導体生産拠点のグローバル化を進めてきた半導体業界にとって大きな転換点となる。BCPや産業集積の観点から各地域特色を持って構築されたサプライチェーンに影響を与えることが予想される。こうした動きに対し、半導体サプライチェーンの一翼を担うヨーロッパでも批判の声が上がる。今後の情勢を的確に捉え、企業単体だけでなく、欧州全体での対応を進めていく方針だ。

欧州の半導体大手メーカーのCEOが一堂に会する

　先月、ドイツ・ミュンヘンで開催された欧州最大規模の半導体・電子部品見本市「エレクトロニカ2024」の開幕前夜、CEOラウンドテーブルが開催された。参加したのはインフィニオン・テクノロジーズのヨッヘン・ハネベックCEO、STマイクロエレクトロニクスのジャン・マルク・シェリーCEO、NXPセミコンダクターズのカート・シーバースCEOの3人。世界の半導体メーカートップ10に入る大手企業のトップが一堂に会し、公の場で議論する機会はそう多くない。エレクトロニカの目玉として注目された。今回はこの3人に自動車メーカーのジャガー・ランド・ローバー（JLR）のバーバラ・バーグマイヤー執行ディレクターが加わり、今後の業界動向について話し合った。

規制強化はイノベーションを妨げる

　STマイクロエレクトロニクスのシェリーCEOは、グローバルサプライチェーンを巡る動きに対し「制約が多すぎると、調達先を増やす必要があり、より多くの資金が費やされる。イノベーションを妨げる結果に陥る可能性も出てくるというメッセージを伝えるために、我々は一丸となって取り組まなければならない」と警笛を鳴らす。シェリーCEOは「自国優先と捉えられるような戦略に費やすリソースを、より脱炭素社会を実現するための電化やモビリティに回すべきだ」と指摘した。

　インフィニオン・テクノロジーズのヨッヘン・ハネベックCEOは「中国で半導体の輸出に課される規制は、半導体業界の成長を妨げる可能性が高い。危険なのは、われわれが分断化を加速させること。分断は供給側と購買側の間で発生する関税によって引き起こされる」と述べ、グローバル企業各社が中国市場において健全なビジネスを継続することの重要性を強調した。また、ハネベックCEOは、「中国に対して課された規制は、半導体産業だけでなく、自動車産業など他のエコシステムにも影響を与えている」と話す。

　JLRのバーバラ・バーグマイヤー執行ディレクターは「米国市場と同様、中国も当社にとって非常に重要な市場である。中国抜きでビジネスを行うことはできない」と話す。

　NXPセミコンダクターズのカート・シーバースCEOは「これまで長い年月を掛けて拡大・成長してきた半導体産業を一国だけで独立させることは不可能であり、他国の半導体産業と覇権を争うことはあり得ないことだ」とし、世界中の国や地域にまたがるグローバルサプライチェーンの重要性を改めて強調した。

明るい兆しは各国政府の支援策

　こうした半導体を巡る世界中の動きの中で、ひとつの明るい兆しは半導体に対する各国政府の関心が高まっていること。各国政府が半導体産業に対する補助金を支給するなど、多くの支援策が実施されている。各国政府からの支援のみならず、企業間での連携も進む。シーバースCEOは「雇用の拡大から経済力の拡大まで、製造業のバリューチェーン全体と半導体産業との関連性が高まっている」と指摘。一方、シェリーCEOは、「半導体産業は各国政府のナショナリズム的政策から免れる必要がある。半導体企業が各国政府に訴えるべきは、予測可能で公平なルールと政策を課すことである。政治理念や思想はどうあれ、我々が政府に求めるものは予測可能性。加えて、公平なルールのもとで競合他社と競争するために、国際的な規制や貿易ルールの整備にも積極的であってほしい」と語った。

　今年のエレクトロニカでは省エネやグリーン・トランスフォーメーション（GX）なども大きなテーマとなった。サステナビリティを実現するためには半導体のサプライチェーンも非常に重要。今回のCEOラウンドテーブルを通じて、サステナブルな活動についても確認がなされた。