2024.12.09 【解説】半導体サプライチェーンを支える「半導体商社」の役割
半導体商社最大手のマクニカはソリューション事業にも注力し、植物工場の管理サービスを提供している
サプライチェーンが複雑で、さまざまな企業が関わることで初めて作ることができる半導体。製造後も、半導体を顧客に届けるために専門の商社が販売を行っている。日本には上場している半導体商社が30社以上あり、それぞれ独自の強みや特色を生かしながら差別化を図っている。商社というとメーカーから製品を仕入れて顧客に納入するといったトレーディングカンパニーを想像する方も多いかもしれないが、半導体は製品そのものの特殊性もあり、その実態は一般の方々のイメージとは大きくかけ離れる。製品開発サイクルの短期化やEコマースなど販売形態の多様化もあり、半導体商社の役割は年々重要となっている。今回は半導体分野における専門商社の役割ついて解説する。
半導体商社の大きな役割は営業と技術サポート。半導体メーカーから仕入れた半導体の中からエンドユーザーである顧客に対し最適なチップを提案する。ただカタログを見せて選んでもらうような提案ではなく、製品の設計・開発段階から関わり、顧客の要望を聞きながら最適な製品を提案している。設計・開発の工程からサポートを続け、導入後のアフターサポートも対応する。「営業」という言葉でイメージされる単なるセールスと異なり、技術的な知識を備えた担当者が業務に当たる。このような業務に携わる技術者をFAE(フィールド・アプリケーション・エンジニア)と呼び、技術サポートを行いながら提案活動を行っている。半導体商社がさまざまな半導体を抱えていることで、試作の際には多様な提案が可能。多品種少量での提供もできる。
半導体商社のもう一つの重要な役割に在庫管理がある。通常半導体は材料投入から製品が完成するまで3カ月以上かかり、構築した製造ラインを柔軟に変えることができないため、一定量のチップを製造する必要がある。在庫リスクもあり、半導体メーカーは早く製品を出荷したいが、顧客側も在庫を持たない、いわゆる「ジャスト・イン・タイム」方式が根付いているため、製品の行き場がなくなる。そうした供給側と受給側の間に立ち、調整を行うのが半導体商社だ。半導体メーカーが生産した製品を保有し、調整する商社の存在が重要になる。
顧客との購買を半導体商社が担うことで、金融面での調整を行うケースもある。外資系の半導体メーカーの製品を国内ユーザーが直接購入しようとした場合、商習慣の違いもあり問題が起こるケースも多い。支払いサイクルを120日など長期に設定している海外企業もあり、キャッシュフローの面でトラブルとなることもある。半導体商社が供給側と需要側の間に入り、キャッシュの動きを調整することでトラブルを回避することとなる。
このように半導体のサプライチェーンにおいて最終消費者との架け橋となる半導体商社は非常に重要だ。近年では最終製品の開発期間が短くなる一方、製品の高機能化が進み回路設計は複雑化している。そのため、複数の機能を一つのボードにシステムとして設計し、部品単体ではなくソリューションとして提供を求められるケースも多々ある。半導体商社は顧客のさまざまな要望に応じ、ソリューションとして提案する技術力も必要となる。中には半導体や電子部品の基板実装や生産受託サービスであるEMS(エレクトロニクス・マニュファクチャリング・サービス)を提供する商社も増えている。半導体商社は独自の強みを持ち、最終顧客との架け橋となりながら、半導体業界を支えている。