2024.12.23 キオクシア、次のステージへ

「強みを生かしNANDの次世代製品開発も進める」と語る早坂社長

走査型電子顕微鏡で観察したOCTRAMの試作走査型電子顕微鏡で観察したOCTRAMの試作

 今月18日に上場したメモリー大手のキオクシアホールディングス(HD)は、新メモリーの研究開発を進めている。同社は現在、データストレージに使われるNAND型フラッシュメモリー(NAND)を主力とし、メモリー大手の一角を占める。しかし、サプライチェーンが複雑で市況に波がある半導体業界で、NAND中心のビジネスには不安定さもある。そのため、共同研究による新技術開発を加速させる。

専業というリスク

 「NANDとDRAMの中間となるデバイスの研究開発にフォーカスしている」。上場を迎え、記者会見に立った早坂伸夫社長は長期的な見通しを語った。

 今回の上場は、今後5年にわたりデータセンター(DC)の人工知能(AI)サーバー向けストレージとしてNANDの需要拡大が見込まれることを受けての財政基盤の多様化や人材・資金調達という意味合いが大きい。しかし、AIサーバーに搭載されるGPUのメインメモリーとして使われるDRAMより、リアルタイム性能で劣るNANDでは、AIに求められる大量のデータ処理に応える有効なビジネスモデルを築きづらい。NANDのシェアでキオクシアの上位にいる韓国のサムスン電子とSKハイニックスはDRAMを手掛け、近年ではAI向けで急成長するHBM(広帯域メモリー)の需要拡大により急成長を遂げている。NAND中心のキオクシアのビジネスモデルにはリスクもある。

新しい「NANDとDRAMの中間」のメモリー

 こうした事情を背景に、キオクシアは新しいメモリーの開発を進める。キオクシアが目指すのは「NANDとDRAMの中間」に当たるメモリー。それはとはどういうものか。

 電源を供給していなくてもデータを保存し続けられる不揮発性メモリーのNANDと電源供給中のみ記憶の保持が可能な揮発性メモリーのDRAMとでは用途も異なる。NANDは大容量データを保存し省電力・低コストで処理するのでストレージに使われるが、データの転送速度が遅い。一方、DRAMは高速のデータ転送が可能だが、NANDに比べ容量が小さく消費電力と単価が大きい。特に消費電力は先端半導体分野共通の課題として各社が取り組んでいるものだ。

 そのため、両者の欠点を補う、転送速度、容量、消費電力、単価の面で中間になるメモリーの潜在的ニーズがある。

新DRAM技術「OCTRAM」

 キオクシアが研究開発を進める技術は主に二つ。台湾の南亜科技(ナンヤ・テクノロジー)と共同開発するのはOCTRAMという新しいDRAM。インジウム(In)を含んだ酸化物半導体を用いて省電力を実現する。9日に発表されたばかりの技術だ。

磁気を利用した「MRAM」

 キオクシアだけでなくさまざまな企業で研究が進むのはMRAM(磁気抵抗メモリー)だ。これはメモリーアーキテクチャーのうちメインメモリーとストレージの間にあるストレージクラスメモリー(SCM)に属する。磁気的な原理を利用し、不揮発性メモリーながら高速なデータ転送が可能。キオクシアはSKハイニックスと共同研究を進めている。

 どちらの新メモリーもキオクシアでは現在研究開発の段階だが、今後事業化を見据え、共同研究のパートナーと生産面の協業や合弁など連携の方法を検討していく。