2025.01.01 【新春インタビュー】パナソニック 品田正弘社長
パートナー連携でA2W事業反転
―2024年度は中期経営計画の最終年度になります。足元までの状況はいかがでしょうか。
品田 現中計は、白物家電、空質空調、食品流通、電気設備の市場に向け、各分社が業界ごとの課題解決に取り組むとともに、地域では中国市場を軸に展開を図ってきています。各事業環境に合わせ、競争力を強化していく施策を打ち、収益拡大に向けて取り組んできましたが、市場環境の変化などの影響を受けた事業もありました。
足元までの事業を見ると、電気設備のエレクトリックワークス社、食品流通のコールドチェーンソリューションズ社は3年連続で増益の見通しで収益性も高まりましたが、空質空調のHVAC社と、白物家電のくらしアプライアンス社は当初計画には届いていません。特に、空質空調は欧州のA2W(エア・トゥ・ウオーター=ヒートポンプ式温水暖房機)市場の減速から当初の数値計画から大きく乖離(かいり)してしまいました。
―A2W市場の減速は業界全体に影響を及ぼしていますね。
品田 CO₂排出量が化石燃料を使う暖房よりも少ないことから22年から注目されるようになりました。欧州各国の補助金政策などもあり、受注も増え、30年には600万台の市場になるとの予測のもと、空調各社はA2Wへの投資を拡大しました。ところが、インフレ対策でのガス料金の値下げや国の補助金の打ち切りなどの影響で市場が減速してしまいました。
こうした状況下で空調各社は欧州市場での戦略見直しを迫られましたが、当社は今後の市場成長を見据え、現地のパートナー連携を強固にする取り組みを進めてきました。24年にはイタリアの空調メーカーのINNOVA社と資本業務提携したほか、ドイツのエネルギー制御ベンダーのtado°(タド)社とも業務提携しました。タド社は室内暖房制御の仕組みを持ち、IoTで細かく温度設定ができる機器を500万台規模で導入している実績があります。
これまで、欧州でA2W事業を進めるに当たっては現地の代理店経由での販売が中心で、直接エンドユーザーにマーケティング活動できませんでした。タド社は実際に各家庭にシステムを納入していますので強固な顧客データ基盤を持っています。協業することでタド社の顧客基盤に直接販促できるようになります。タド社もこれからエネルギーマネジメントでサービス型ビジネスを強化しようとしていますので、成長性が期待できます。協業のきっかけも当社のヒートポンプを実際に使っていて性能が一番良いと評価していただいたことでした。今回の中計ではA2Wは非常に苦しかったですが、現状は市場の減速も底を打ってきていますので25年度以降は反転していくとみています。その前の段階でパートナー連携などができる体制をつくれたことは非常に良かったと感じています。
―電気設備関連は競争力を大きく強化できました。
設備関連は競争力強化
品田 設備関連は国内外で順調に伸ばすことができていますが、一方で人手不足の問題にも直面しています。労働人口が減少する中では、業界のリーダーとして課題解決にも取り組んでいきたいと考えています。例えば天井に埋め込む照明や火災警報器、スピーカーなども従来は大きさが別々でしたが、色や大きさを統一化しプラットフォーム化することで機器の設置や施工性が大幅に高まります。工程管理のツールも提供できるようになってきましたので、目立たないところですが良い形ができてきていると感じています。
環境への取り組みでは12月に英国の電子レンジ組立工場に、純水素型燃料電池と太陽電池と蓄電池の3電池を連携した工場の100%再生可能エネルギー利用の実証施設を導入しました。草津工場に次いで設置したもので、今後はドイツでも実証を行う予定にしています。
無理な競争・無駄な在庫を減らす
―国内家電市場は需要が大きく伸びない状況ですが、市場をどのようにみていますか。
消費者層の二極化進む
品田 消費動向は、より良い価値のある製品を長く使いたいという高価値志向の層と、家電は道具として考える価格を重視する層の二極化が進んでいます。その中で当社は業界に先駆けて20年度から指定価格制度などの新販売スキーム(枠組み)に取り組んできています。指定価格については量販店各社とも密にコミュニケーションを取りながら進めてきました。まだ課題はありますが、着実に制度が浸透してきていると感じています。特に二極化している市場の中では店頭での提案力や接客力などが求められ、お客さまとの関係を築いていく取り組みがますます必要になっていますし、家電流通業界全体として価格ではない部分の価値の提供に重きを置くようになってきているとみています。こうした市場の中で当社は高い価値を求めるお客さま層に向けて幅広い製品群をそろえて提案をしてきました。23年度までは苦しい状況でしたが24年度にかけては市場のニーズに合った製品展開もでき、多くのカテゴリーで販売を伸ばすことができたとみています。
同時に中国メーカーの動きを見ていく必要があると感じています。国内の家電の多くが中国で生産されていますし、サプライチェーンも含めて中国は無視できません。中国製品は品質が良くないと言われていた時期もありましたが今は全く違います。グローバルに家電を展開している中国メーカーはコスト競争力のある製品を数多くそろえて参入してきています。国内メーカーだけを見ている時代は終わり、中国メーカーと伍(ご)して戦える製品力が必要になってくると感じています。
―確かに最近は中国メーカーの勢いが出てきています。
品田 既に中国家電メーカーは日本市場に本格的に入ってきています。中国国内景気が減速している中では、日本市場への展開もさらに進んでくるでしょう。当社は19年に設立した中国・北東アジア(CNA)社を中心に中国とアジア市場でのシェア拡大に取り組んできています。もちろん家電製品を中国で生産しています。中国にはスピードとコスト競争力を武器に拡大している企業が数多くあります。当社自身も厳しい市場環境の中でコスト競争力のある開発体制の構築に取り組み、相当鍛えられてきました。ようやく中国の生産力やコスト力を使い、日本やアジアに最適な製品が供給できる体制構築もできつつありますので、25年度に向けての地盤はできてきたとみています。
―指定価格制度は販売店にもメリットがありますし、評価の声も増えていますね。
循環型経済を考える
品田 制度は、無理な価格競争を抑え、無駄な流通在庫を減らし欠品のない安定した供給を目指すとともに、中長期的なサーキュラーエコノミー(循環型経済)を考えたものです。制度をスタートした当初は、もう少し努力してほしいといった声もあるなど多くの意見をいただきながら進めてきましたが、23年ごろから潮目が変わってきたことを感じました。
基本は在庫を当社が持ち、店側は需要に応じて製品を販売して売り上げを立てられます。結果として流通各社の在庫負担は減りますので利点は大きいと思っています。在庫がたまると値崩れにつながりますので、逆に当社が欠品なく製品を届けられるようサプライチェーン網を構築する必要があります。現在、付加価値の高い洗濯機は静岡工場、エアコンや冷蔵庫は草津工場で生産し、欠品が出ない体制構築も進めています。
―指定価格の製品比率も増えてきましたが、今後の見通しはいかがですか。
品田 高付加価値製品を中心に進め、約4割までに拡大してきています。ただ製品によって価格を維持できるもの、できないものがあることも事実です。例えば、シェーバーやドライヤーといった理美容家電は値崩れせずに展開できています。流通各社もお客さまへの価値提案に力を入れていますので、メーカーと流通とが一体となって価値創造に向けた話し合いができる環境にもなってきていると感じています。
指定価格の究極はワンプライスです。実現できれば、製品ライフサイクルを1年ではなく2~3年に伸ばすこともできます。こうすることで開発リソースを最適化できますので新たな製品開発もできるようになりますし、お客さまにより長く製品を使ってもらえるようにもなります。
実は既に食器洗い乾燥機ではライフサイクルを伸ばすことができています。食洗機は節水という観点からも注目される製品で今後さらに伸ばしていきたいカテゴリーです。食洗機は毎年モデルチェンジしないことでビルトインから卓上型、単身用まで幅広い製品をそろえることができました。こうした展開ができれば、メーカーも販売もお客さまも三方よしになると思っています。
同様にドラム式洗濯乾燥機で新たなチャレンジをしています。ドラム洗はこれまで大型機が中心でしたが、首都圏などのマンションでは設置できない家庭もありました。こうした声に応え、小型ドラム洗「SDシリーズ」を戦略的価格で発売しました。値崩れの激しい洗濯機市場でこの1年はワンプライスで挑戦したいと考えています。実現できれば製品ライフサイクルを伸ばせますので、モデルチェンジに割くリソースをほかに生かせるようになり、新たな価値を生み出せるようにもなってきます。
これからも製品のラインアップを広く捉えながら市場シェアを拡大できるようにしていきたいと考えています。指定価格への取り組みも含め、25年度以降も価値ある製品の展開を進められるようにしていきたいですね。
生活のお困り事を一緒に解決
―24年からCMなどのプロモーション手法も変えていますが狙いは。
品田 これまでのタレントを起用したプロモーションから、家電製品とパナソニックというブランドを結び付ける演出に切り替えました。パナソニックの家電の価値と信頼をお客さまからも理解してもらえるようにしたいと考えています。現在まではおおむね良い感触を得ています。プロモーションは正解があるわけではなく、それぞれの手法にメリットとデメリットがありますので、引き続き効果測定しながらブランド浸透にも努めていきたいです。
―系列店網も大きな強みになっていますが、どのように連携を図っていきますか。
品田 地域系列店は「真のパートナー」と言っています。高齢化社会を迎える中では家電難民が地方などでも増えてきていますので、こうした人たちをつくらない社会にしていかなければいけないと思っています。主要な店舗数は約6000店に減っていますが客数は増えています。お客さまの自宅に上がって設置や提案ができる商売はほかにはありません。たくさんある生活のお困り事を一緒に解決していくパートナーとして、引き続き取り組んでいきたいですね。
―25年は、米政権交代をはじめ地政学リスクを含め不透明感もあります。市場の見通しはいかがですか。
品田 米政権はスタートしてみないと見えてこない部分もありますので動きを注視するとともに、生産体制なども含めてさまざまなシナリオを考えながら対応策を検討している段階です。ただ家電関連などに関しては、影響は限定的だとみています。逆に内需が低迷している中国の動きを気にしています。ここへの対応は当社自身の体質を強固にしていくことに尽きると思っています。中国とアジアに向けては、個別運営から中央アジア全体を見た総合的なオペレーションが重要です。これまで中国の開発力を強化する設備投資も進めてきましたので、中国の体制は強固になってきています。電子レンジや洗濯機の生産体制も需要変動に耐えられるようにしましたので、この先の成長に向けて貢献できるとみています。
―25年度は新中計がスタートします。
品田 中計の数値計画は達成できず課題を残しましたが、半面で次期中計の成長戦略を実現していくための地盤づくりは24年までにできたと思っています。その意味では次の成長ができる基礎はできたと認識していますので、さらに飛躍していくとみていますし、お客さまに最大の価値を提供していけるようにしたいですね。
(聞き手は電波新聞社 代表取締役社長 平山勉)