2025.01.30 地政学リスクを克服する欧米のリチウムイオン電池サプライチェーン

酸化鉄などの各種材料

LFP用酸化鉄について説明する菅谷 日本統括マネージャーLFP用酸化鉄について説明する菅谷 日本統括マネージャー

 モバイル機器の普及とともに用途拡大を続けるリチウムイオン電池(LIB)。高いエネルギー容量、長寿命、小型・軽量、充電することで繰り返し使用できる利便性から、スマートフォンやノートパソコン、産業機器、電気自動車(EV)と幅広く利用されている。LIBは、正極材、負極材、電解液、セパレーターの4つの部材で構成される。正極材にはコバルト系やマンガン系、リン酸鉄系、三元系など種類も多く、使用する原材料によって特性も異なる。各種部材を提供する企業も多いため、それぞれのLIBによってサプライチェーンが構成されている。今後の市場成長を見込み、新たに参入する企業も多い。

リン酸鉄リチウム正極材市場に参入

 ドイツの化学大手ランクセスは、LIBを構成する正極材向けの材料を開発し、LIB市場に参入する。同社が提供するのは、リン酸鉄リチウム(LFP)用の酸化鉄。同社は以前から着色用途などでの酸化鉄を供給しており、ドイツ、ブラジル、中国に大規模な生産拠点を持つ。LFP用の酸化鉄も既存設備を用いて製造可能なため、新たな投資は行わない。

サプライチェーンはアジアに集中

 従来、LFP電池のサプライチェーンはアジアに集中しており、地政学的なリスクが懸念されていた。同社は、アジアのサプライチェーンに頼らないLFP用酸化鉄の供給を通じ、欧米における新たなサプライチェーンの構築に貢献する。

 同製品を取り扱う無機顔料ビジネスユニット(BU)の菅谷一雄日本統括マネージャーは「LIBは現在、ニッケル、マンガン、コバルトで構成される三元系が主流。一方、LFPは中国の電池メーカーが高いシェアを有しており、アジアを中心としたサプライチェーンが構築されていった。三元系はコバルトなどのレアメタルを含有しているため産出国も限られるほか、紛争鉱物の問題も懸念されていた。近年、LFPは改良によるエネルギー効率の向上とともに、安全性や長寿命などの以前から持つ特性が改めて評価されている。当社も市場参入を通じて、事業拡大につなげたい」と話す。

既にサンプル出荷を開始

 同社は既に「バイオキサイト」のブランド名で、高品質な電池グレードの酸化鉄のサンプル出荷を開始している。LFP正極材メーカーのニーズに合わせて設計されており、品質や性能に優れた高効率のバッテリーを実現する。

 同社によるLFP用酸化鉄の開発は、業界内でも高く評価されている。ICISケミカルビジネス誌が2004年から毎年表彰を行っている「ICISイノベーションアワード」において、昨年同社は「大企業による最優秀製品イノベーション」部門で受賞。欧米におけるLFPのバリューチェーン開発に対する取り組みが評価された。

今後はリン酸鉄の提供も

 今後は、酸化鉄に加え、リン酸鉄の提供にも取り組む計画。既存工場での生産を検討しており、窒素酸化物や硫黄酸化物など環境に影響を及ぼす排出物や廃水が発生しないプロセスの導入を目指している。ドイツ拠点で実績ある設備を活用できるため、実現すれば欧州で唯一のサプライヤーとなることができる。